事業を買収した側と売却した側の両者が登場し、M&Aの現場でどんなことが行われるのかを赤裸々に語ってもらうレアな対談企画。
後編では、M&A後にまずすることは何か、そしてM&Aによって両者が「得られたもの」をリアルに語ってもらいました!
▼前編はこちら
【会社プロフィール】
株式会社アルゴリズム 既存の価値基準とは異なる新しいメディア創出を目指し、女性向け、旅行、ECの3分野に主軸を置いてメディア事業を展開。創業は2018年1月。創業からの1年間に7つのメディアを買収するなど、積極的にM&Aを進めている。2018年10月に、Webメディア「minari」を株式会社MEMOCOより事業買収。
勝俣 篤志(かつまた あつし/写真左) 株式会社アルゴリズム代表取締役社長
学生の頃より個人でWebサービスの立ち上げ・売却を経験する。「情報の価値を最大化する」ということを掲げ、1億人にリーチできるメディアの新しい経済圏を作るために事業を推進する。
金田卓也(かねだ たくや/写真中) 株式会社アルゴリズム取締役副社長
13歳より個人事業主として受託開発をはじめ、20歳のときにスタートアップ企業を設立。ソーシャルゲーム開発に挑戦しピボットした後、メディア事業を立ち上げ半年で事業売却。
株式会社MEMOCO 2016年10月創業。『あなたを本気で喜ばせる。』をコンセプトに複数の自社メディアを展開。月間1000万PV突破したギフト特化メディア「メモコ」を中心に、新メディアも続々と立ち上げ中。minari売却益を元手に、メモコのリブランディング戦略や、新メディアの編集部構築、新規事業への投資など事業拡大中。
熊田貴行(くまだ たかゆき/写真右) 株式会社MEMOCO代表取締役社長
ヤフー株式会社にて広告営業を経て、カンボジアで飲食店とホテル経営を3年間行う。外国人観光客への接客サービスを通じてコンシェルジュ、ホスピタリティの価値と可能性を肌で体感。2016年に日本へ帰国し、カンボジアで得た経験を踏まえ、『あなたを本気で喜ばせる。』をテーマに、ギフト特化メディアのメモコなど複数の自社メディアを運営中。
売却のタイミングで会社を去ったメンバーも
――熊田さんはminariを売却することを、社員にどのように説明しましたか?
熊田 売却することを社員に伝えたのは、契約書を取り交わした2018年10月のタイミングでした。ただ、8月に行われたGoogleの検索アルゴリズムのアップデートによりminariの検索流入数は大きく落ち込んでいたので、社員たちとはその対策をよく話し合っていました。さらには、このままではまずいということで、みんなで新しいメディアの準備も進めていたんです。
だからminariはこの先どうなるかわからないという意識が全員の中にあったので、突然「売ります!」と僕が発表し、メンバーが「えええ!?」となる感じではありませんでした。メンバーは全て弊社に残る形の売却でもありましたので。
――売却することには納得してもらえましたか?
熊田 ありがたいことに大半のメンバーには納得してもらえたのですが、やっぱりminariに大きな情熱を注いでくれていた人も多くいましたし、新メディアを立ち上げる話になったこともあり、このタイミングで会社を去ったメンバーもいます。
仲間を失ったのは大きな痛手ですが、あのときに売却したからこそ、残ってくれたメンバーたちとともにまた新たなメディアを2つ立ち上げることができ、いまゼロから育てています。それができることがすごく嬉しいですね。
――アルゴリズムが買収後にまずしたことは何ですか?
勝俣 minariに上がっているコンテンツを復活させるために、最初の約1ヵ月はきちんとデータを分析した上で、今後何をすればいいかを考えることに注力しました。
それを経て最初にやったのが、検索流入が下がっている原因を特定することです。僕らがまず着目したのが、医療系の情報を扱った記事でした。とても丁寧に作られていて、信頼性の低い情報も見当たらなかったのですが、やっぱりデリケートな分野であり、そうした努力を検索エンジンに理解してもらいにくかったりもするので、それが検索順位を下げている一つの要因なのではないかと仮説を立てました。
――実際にどんな策を講じましたか?
勝俣 医療情報が入っている記事をいったん全て非公開にして検索順位が戻るかどうか見るなど、いろいろな検証作業を行いました。並行して、新規のコンテンツはどう作っていけばいいかという、いわゆる制作ラインの構築も行いました。こうした施策を経て、現在は検索流入が少し戻ってきている状態で、新たなコンテンツもどんどんできあがってきています。
金田 買収後の3ヵ月間は、minariが本来持っているポテンシャルを取り戻すための地固めをした形です。Googleからネガティブな評価を受けた状態では、どんなにいい記事を上げてもなかなか評価されづらいので、まずはminariが「本来はいいWebサイトなんですよ」というのをGoogleにちゃんと理解してもらうことに注力したんです。
勝俣 もちろん、minariが持つ本質的な価値はきちんと受け継いでいて、商品を実際にライターに使ってもらい、使った人じゃないとわからないような体験談をベースにコンテンツを作るといのは継続しています。そうした記事が実際にユーザに評価されてきているので、最終的に流入や売り上げにつながるように、今どんどん積み上げていっています。
自分たちにはない“勝ち筋”を得られることが最大の財産
――両社がM&Aで「得たもの」とは何でしょう?
熊田 リアルなところで言うと、お金です。それによって社員も1人雇えたし、新しいメディアもはじめることができました。今後もさらに投資を行えます。minariを買ってもらえたからこそ、僕の強みである加速力や突破力をより発揮できる環境が整ったなと。結果的にもう1回「面倒くさいこと」をやってのし上がってやろうという感覚にさせてくれたのが、すごく大きいです。
金田 うちとしては、熊田さんとの関係を作れたことが大きな財産です。M&A後もいい関係を続けさせてもらっていて、月イチくらいで会って勉強会をしています。こうしたご縁をいただけたことが、すごくありがたいなと。
熊田 こちらこそです。
金田 自分たちにはない「考え方」や「勝ち筋」をつかめるのが、M&Aで得られる最大の財産だと思っています。熊田さんの場合はまさに、商品を買ったうえでの実体験を本音でレビューするという僕たちにはない戦略・考え方で成果を出されていて、その考え方そのものを学べたことにも大きな価値があったと感じています。お金も手間もかかるので、普通はそれをやろうと思わない。でも熊田さんはそこを愚直に行うことで、実際に爆発的な成果を生み出しました。僕らがそれを受け継いでさらに突き詰めることで、すごく面白いことができるんじゃないかと思っています。
しかもそのエッセンスは、minari以外のほかのメディアにも注入できます。すでにコンテンツの作り方もかなり変わっていて、例えば旅行メディアでは現地に行った人がだけが記事を書くようにしていたり、美容メディアではヘアスタイルを紹介するのに実際にモデルを呼んでスタイリング動画と一緒に紹介したりしています。こうやって新しいエッセンスがほかのメディアにも波及するので、単純にM&Aで1+1=2になるのではなく、1+1が3にも4にもなっていく感覚なんです。
勝俣 本当にminariが加わってから、ほかのメディアの作り方も一気に変わりました。だから今回の件で得たものはすごく大きいなと。
熊田 minariでは本当にいろいろな施策を試してきたし、成功もあれば失敗もたくさんありました。そうした数々の実験の末に今のminariがあるので、そのエッセンスが今も生き続けてくれているのは、本当に嬉しいですね。
そういう意味では、M&Aは売って終わりではないんだなと。売った後もずっと続いていくというか、売ったことで新たに始まっていく感覚ですね。
金田 実際、売る前より売った後の関係の方が圧倒的に長いですもんね。出会って3週間で結婚が決まり、そこから互いを深く知り、高め合っていくみたいな感じです。
熊田 確かにそうですね。結婚した後に「この人いい人だな」と、どんどんわかっていくような。
SEOで失敗したからこそ、SEOの最適解を追求する
――アルゴリズムでは、過去のM&Aでもこうした関係を築いてこられましたか?
金田 ありがたいことに、全てこういった素敵な関係を作らせていただいています。そこは我々のM&Aに対する向き合い方が大きいのかなと。得られる数字以上に、その人と関われることに価値を見出しているので、仲間として長くお付き合いさせていただくことを前提にM&A先を選び、アプローチしています。だからこそM&Aの後も、譲渡元の会社の方たちには事業を応援していただけているのかなと。M&Aによってそうした強力な“応援団”を増やしていっているイメージです。
――最後に、両社の今後の展望を教えてください。
金田 こういったご縁を20個、30個と今後も結んでいくことで、それぞれの分野で圧倒的ナンバーワンのWebサイトを全領域で抱えるのが目標です。それぞれに強力な特技を持った事業家集団みたいな形で、大きな影響力を持って社会に価値貢献ができるメディアの経済圏を目指していきたいです。
勝俣 その果てにはメディアの枠を越え、別の産業分野にも進出したいと思っています。そのために、引き続きM&Aを一つの手段として展開していき、ご賛同してもらえる方々とご縁を作り続けていきたいです。
熊田 これまではSEOに注力してきましたが、今後うちのメディアでは“脱SEO依存”を掲げていこうと思っています。具体的にはちゃんと連載や特集を組んで、ロケや取材をしてという、お金と時間がかかってネットウケはしないけど、雑誌ウケやSNSウケはするというコンテンツを作っていくことです。そうしてメディアをどんどん深掘りし、ブランドを確立すれば、たとえまたSEOで沈んでも一気に地盤沈下することはなくなります。
かといってSEOを全くやらないわけではありません。むしろこちらは今までの倍くらい強化していこうと思っています。SEOで会社が大きく成長し、そしてSEOで痛手を負ったからこそ、SEOの最適解を追求し、その壁を乗り越え、本当に価値のあるコンテンツやサービスを提供したいと強く思っています。
このコンテンツは株式会社ロースターが制作し、ビズテラスマガジンに掲載していたものです。
企画:大崎安芸路(ロースター)大崎安芸路(ロースター)/取材・文:田嶋章博/写真:栗原大輔(ロースター)