リッチコンテンツとは、英語で「ぜいたく」や「豊か」を意味するリッチ(Rich)が示すとおり、動画(CG・アニメーション・ビデオ)や音声などを取り入れて表現されたWebサイト上のコンテンツのことです。
通信技術の発達により、容量の大きな動画でもスマートフォン上でスムーズに表示されるようになったことで、動画広告や動画を盛り込んだリッチコンテンツの導入が一気に増えています。
しかしこのリッチコンテンツの内容は、現状ではGoogleにインデックスされません。つまりリッチコンテンツそれ自体はSEOに影響を及ぼさないということです。
では、Webマーケティングにおいてリッチコンテンツはどう扱えばよいのでしょうか。リッチコンテンツのトレンドの移り変わりと、今後の注意点を解説します。
リッチコンテンツにはどんな事例があるの?
リッチコンテンツは、従来のテキストや画像で表現された静的コンテンツよりも、商品やサービスなどの魅力をユーザーが直観的・感覚的に理解しやすいことが特徴といえます。
2019年6月の電通の発表によると、日本の2019年のデジタル広告市場は前年比14.5%の成長が見込まれ、なかでもモバイル広告が前年比21.2%、オンライン動画が前年比29.2%の成長と予測されています3。
スマートフォンやタブレット端末などが爆発的に普及し、日常的にWebサイトを閲覧するユーザーが増えたこと、通信技術の発達により容量の大きな動画広告などもスムーズに閲覧が可能になったことで、リッチコンテンツはWebマーケティングにおいて重要度が増しているのです。
2000年代はFlash全盛期
2000年代は、マクロメディアが開発(のちにアドビシステムズが買収)したFlash規格によるアニメーションやインタラクティブコンテンツが企業のトップページを飾っていました。しかしデザイン性重視で内容の乏しいFlashコンテンツも多く、通信回線によっては「サイト表示の重さ」に繋がり、良質なユーザー体験とは言えない場合もありました。
一世を風靡したFlash規格ですが、Adobeは2017年7月の発表でFlashのサポートを2020年に終了することを明らかにしました。
Googleも2019年10月28日(米現地時間)ウェブマスター向け公式ブログにて「さようなら、Flash」と題し、2019年中にGoogle検索からFlashコンテンツを除外することを発表しました。
Google 検索では、今年中に Flash のサポートを終了する予定です。ウェブページに Flash コンテンツが含まれている場合、Google 検索では Flash コンテンツが無視されることになります。単独の SWF ファイルは、Google 検索でインデックス登録されなくなります。
2010年以降はYouTubeやTikTok
2010年以降は、Webサイト上に動画を埋め込んで表示させるリッチコンテンツが増加しました。背景には通信技術の発達によりモバイル通信の速度が向上したこと、スマートフォンで動画を閲覧するユーザーが増えたことが挙げられます。
YouTubeやTikTokなどの動画コンテンツは、TVCMのような「広告」として使用したり、解説動画やプレゼンテーションなど文章で説明すると複雑・分かりにくい内容を動画で表現したりという使われ方をしています。
例えば、料理レシピアプリで作り方を動画主体で説明する、不動産の現地紹介記事にドローンによる空撮映像を盛り込むというように、デザイン重視だったFlashよりもユーザー重視のコンテンツが増えています。
日本では漫画もリッチコンテンツ
リッチコンテンツ分野の日本ならではの特徴として、マンガの活用が挙げられます。
マンガは画像ですが、その中でストーリーが展開しているため動画に近いリッチコンテンツといえます。さらに動画再生を制限しているユーザーにも、マンガ(画像)でストーリーを届けられるというメリットがあります。
マンガは見ただけで内容を把握できるためSNSでもシェアされやすく、マーケティングにおいても注目されています。企業によるPRマンガは今後発展していく可能性が高いでしょう。
リッチコンテンツのメリット
リッチコンテンツは、文字や画像など静的なコンテンツだけでは表現しきれない内容を、動画などを利用することでユーザーにより分かりやすく表現できるというメリットがあります。
- 複雑な仕組みや制度の説明を理解されやすくなる
- 映像でサービスの利用イメージを掴んでもらいやすい
- 他商品との比較や差別化ポイントなどを動的にPRできる
- ブランドイメージの向上につながるコンテンツを作成できる
- WEBサイトへの滞在時間を伸ばすことができる
リッチコンテンツのデメリット
リッチコンテンツは広告主や制作側の自己満足に偏らないよう、ユーザー目線のコンテンツ作りが必須です。
- 見栄え・イメージ重視の音や動画は、ユーザーのアクセシビリティを低下させる
- コンテンツのダウンロード時間が長いと、ユーザーにストレスを与え離脱につながる
- モバイル検索において表示速度を重視するGoogleの検索結果に不利になる
デザイン重視で内容の伴わないFlashコンテンツでも持て囃されていた時代とは異なり、ユーザーのメディアリテラシーは格段に向上しています。
例えば、冒頭の動画を数秒以上視聴しないとメインコンテンツを閲覧できないタイプの広告などは、広告自体がユーザーに不快な体験となってしまう可能性を考慮する必要があります。
企業のリッチコンテンツ事例
それでは実際に、リッチコンテンツがどのように取り入れられているのか事例を交えて見ていきましょう。
ここでは、企業のリッチコンテンツ事例を5つご紹介します。
料理の作り方手順を動画主体で解説|クラシル
料理レシピサービスを配信しているクラシルでは、すべてのレシピに動画コンテンツを取り入れています。
テキストでの解説部分もありますが、レシピを開くとまず表示されるのは動画です。スマホでは自動再生され、ユーザーは好きな位置で動画を一時停止したり、前の手順に戻ったりできるため、料理をしながら視聴できます。
実はクラシルのレシピには(つくれぽを除いて)、手順途中の画像等が挿入されていません。動画内で伝えられる情報量はテキストや画像をも凌駕するため、動画のみを用いて他はシンプル化しているのです。
イラストをアイキャッチに活用|愛カツ
多くのWebメディアが素材サイトの画像をアイキャッチに利用する中、恋愛メディアの愛カツでは、記事の内容を象徴するイラストをアイキャッチに持ってきています。
イラストはマンガのひとコマ風で、女子ウケする可愛くてやわらかいテイストに。イラストの中にセリフもあるので、記事内容にあるような一場面をイメージしやすくなっています。
素材サイトの画像だと、クオリティが高すぎたり外国人が登場したりして、どうしても現実離れしたアイキャッチになってしまいます。
一方でターゲットの好みに合わせたイラストを挿入することで、より記事内容を受け入れやすくできるのです。
マンガでターゲットの興味を引く|進研ゼミ中学講座
進研ゼミといえば、マンガを使ったプロモーションで有名です。進研ゼミ中学講座のWebサイトでも、単純にテキストで説明するだけでなく、マンガを取り入れてリッチコンテンツ化しています。
さらに面白いのは、“自分だけの”ストーリーが読めるという点。主人公の名前を自分の名前にしたり、質問の答えを選択肢から選ぶことで話が展開していく仕組みです。
ユーザーは自分事として捉えやすくなるため、講座への興味関心が高まる効果があります。
マンガを取り入れる際には、こうしたプロトコルを仕込むことでよりユーザーの満足度が高まるコンテンツになるでしょう。
動画を使った啓蒙活動|IKEA
IKEAのショッピングサイトでは『サステナブルな暮らしのヒント』と題して、IKEAの製品を使ったサステナブルへの取り組み方を紹介しています。
その中で動画を効果的に使っているのが特徴。まずファーストビューには10秒前後の動画、スクロールすると、各見出しごとに5秒前後の動画が表示されます。
Webメディアで画像が見出しのアイキャッチに使われていたのを、そのまま動画に置き換えたようなイメージです。
動画は5秒〜10秒とあまり長すぎずサクサク見れるので、ユーザーがストレスに感じない工夫もされています。
難しい話題をマンガでわかりやすく解説|新抗体物語
参考:https://www.kyowakirin.co.jp/
バイオ医薬品の開発・製造を行う協和キリンでは、抗体や免疫など一般的にはよく知られていない分野をテーマにしたマンガ『新抗体物語』を掲載しています。
31話まである本格的なマンガで、抗体についてイチからやさしく解説。もちろんストーリー調になっており、恋愛という身近なテーマも絡めているため、世界観に入り込めるのもポイントです。
さらに『抗体医薬品について』のページではYouTube動画を挿入、『バイオ医薬品の作り方』のページには図解を挿入など、さまざまなリッチコンテンツを用いて「ユーザーに理解してもらいたい」という意気込みを感じさせますね。
マーケティングにおけるリッチコンテンツの重要性
リッチコンテンツは、Googleなど検索エンジンのインデックスに直接効果はありません。Webページに動画を埋め込んだだけではSEOに貢献しないのです。
ですがコンテンツの視聴によりWebサイトへの滞在時間を伸ばし、コンテンツの内容からユーザーの満足度が高まることで、結果としてアクセス数の増加につながります。この点においてリッチコンテンツはマーケティングに効果的といえるのです。
通信技術の向上で、リッチコンテンツは今後も増加することは確実です。TVCMに比べて制作・放映コストが格段に安く済む、そしてエンゲージメント率などの数字もきちんと追えるという点で、Webのリッチコンテンツは今後ますます活発に利用されるでしょう。
ただし、すべてにおいてリッチコンテンツが勝るというわけではありません。文章や画像を使えば、より深く詳細な情報をPRすることもできるのです。
例えば「ライブ会場からの生配信」と「使用機材まで網羅したライブレポート」のような違いです。どのようなユーザー体験を与えたいかによって、選択できるコンテンツの幅が広まったと考えるべきでしょう。