マーケティング分野でよく使われる「ニーズ」と「ウォンツ」は、似たような意味の言葉ですがはっきりとした違いがあります。
また「ニーズ」「ウォンツ」の先にある「ベネフィット」や「デマンド」、さらにニーズを解決するための「シーズ」について、まとめて実例で解説します。
ニーズとウォンツの違い
ニーズ(needs)は「必要性」という意味で「日常生活でどうしても必要なもの」を指します。
ウォンツ(wants)は「欲求」という意味で「特定の商品が欲しいという欲望」を指します。
ここでは、ユニクロのヒートテックを実例にして、詳しく見ていきましょう。
ニーズは消費者の漠然とした欲求
寒い季節には、シャツやブラウスの下に暖かなインナーが必要になりますね。
まだどこのブランドのどの商品とは決まっていないけれど、とにかく寒さ対策に「インナーが必要」という消費者の漠然とした欲求が「ニーズ」となります。
マーケティングでは、この漠然とした消費者ニーズからより具体的な欲求を顕在化させ、最終的に自社の商品の購入に行き着くようなストーリーを描かなければなりません。
ウォンツは消費者の顕在化した欲求
インナーが必要だと思った消費者は「どんなインナーが自分にふさわしいか?」を自分に問いかけます。
「ランニングやババシャツは恥ずかしい」「かっこ悪くないインナーが欲しい」という消費者の希望・好みがはっきりした欲求が「ウォンツ」です。
この段階で「ランニングやババシャツは恥ずかしい」「かっこ悪くないインナーが欲しい」という消費者の価値観をキャッチして救い上げる、あるいはそのような価値観を醸成するのがマーケティングの役割です。
ここでは具体的なブランドが決まるより先に「ランニングやババシャツ」が除外され、「かっこ悪くないインナー」を手に入れたい、という選定条件がはっきりした顕在化した欲求となっていきます。
この欲求を解決する商品を提示することで、消費者のウォンツを満たすことができるのです。
ウォンツとベネフィット
ベネフィット(benefit)は、「利益」「役立つ」という意味の言葉です。
マーケティングにおいては、顧客が製品やサービスを購入・使用することで得られる価値や利益、メリットを指します。
ベネフィットはプロモーションに重要
ベネフィットは、顧客がその商品を購入することで手にする「利益」や「メリット」のことで、マーケティングではこのベネフィットの提示方法によって訴求効果が変わってきます。
消費者のウォンツである「かっこ悪くないインナーが欲しい」という欲求を満たした後の、消費者の「利益」や「メリット」を見せることが重要です。
インナーの例においては、かっこ悪くない=見えても恥ずかしくないデザインという「消費者の利便性向上」がベネフィットになります。
この「かっこ悪くないインナーが欲しい」という消費者のウォンツが「見えても恥ずかしくないデザイン」のインナーの購入によって解決できるというベネフィットを、具体的なイメージやストーリーに落とし込んで消費者に提示することがプロモーションなのです。
ウォンツとデマンド
デマンド(demands)は、「需要」「要求」といった意味です。
ウォンツがより具体的になり、消費者が機能や価格を考慮した上で求める特定の商品やサービスに対する需要を指します。
ウォンツをより具体的に落とし込むデマンド
「かっこ悪くないインナーが欲しい」というウォンツから、「納得できる価格」「他社製品より高機能」「他社製品よりデザインが良い」など他社製品と比較検討した結果、より具体的に購入の対象として「ユニクロのヒートテックが欲しい」という明確な欲求に至ったものがデマンドになります。
ウォンツが明確な一つの商品(=デマンド)に絞り込まれるまでの間に、プロモーションによって「当社の商品を使うと、こんな利益があります」というベネフィットを消費者に示すことが重要になります。
ニーズとシーズ
シーズ(seeds)は、そのまま「種」という意味です。
企業が持つ独自の技術やノウハウのことを指します。これらの技術やノウハウをいかして、消費者のニーズを解決する商品・サービスを作っていきます。
ニーズを解決できる技術・ノウハウがシーズ
ユニクロのヒートテックが登場したとき、既存の綿のババシャツよりも薄くて暖かなインナーとして画期的だと話題になりました。
ヒートテックの生地はユニクロと東レが共同開発したもので、レーヨンやマイクロアクリルと呼ばれる化学繊維を混紡しています3。
寒さ対策に「インナーが必要」という消費者の漠然としたニーズに対して、ユニクロのデザインのノウハウ(シーズ)と、東レの持つ化学繊維技術(シーズ)を使ってニーズを解決する商品を提供するのです。
このとき、マーケティングによって消費者の漠然としたニーズから「ランニングやババシャツは恥ずかしい」「かっこ悪くないインナーが欲しい」という明確なウォンツを顕在化させ、さらに具体的に「見えても恥ずかしくないデザインのインナー」というベネフィットを提示することで「ユニクロのヒートテックが欲しい」という特定商品へのデマンドに行きつくのです。
こうした緻密な消費者・市場の分析で人気商品が生まれるということを頭に入れておきましょう。