編集力が必要なのは、WEBサイトや雑誌、テレビといったメディアだけではない。
イベントや賑わいの場を作ることにも編集力が必要だ。
今回取材した「はじまり商店街」は、年間300本以上ものリアルイベント、場づくりを行っているクリエイティブチーム。
毎日さまざまな人を集めては「はじまりを、はじめる」ことにこだわったイベントを開催している。
人と人をつなげて世の中の課題解決のきっかけづくりに奔走する二人の代表に話を聞いてみた。
はじまり商店街
場所に捉われずに、個人/組織課題共有の場をデザインするコミュニティビルディングカンパニー。暮らし方・働き方・コミュニティを中心にライフスタイルに関わる企画プロデュース、遊休地の有効利用、まちづくり支援、イベント・ワークショップなどを主に手がける。
柴田大輔(しばた・だいすけ)共同代表
1988年生まれ、秋田県秋田市出身。幼少の頃から、家族・学校・社会のコミュニティに疑問を抱く。 上京後は鎌倉を拠点にシェアハウスやゲストハウスの運営を経験。 他にもカフェ、バル、家具屋などに関わりながら、街のコミュニティづくりをしていく。 2017年4月、「BETTARA STAND日本橋」のコミュニティビルダーになり、映画上映やまちづくり、地域と連携した飲食イベントなどを年間200本以上も行う。 2018年8月より、はじまり商店街をスタート。
https://www.facebook.com/daisuke.shibata.0121
くまがい けんすけ 共同代表
1984年生まれ、神奈川県横浜市出身。6年間勤務した商社を退社後、自転車で日本一周を実行。その後、アラスカ→カナダ→アメリカ西海岸→メキシコなど12,000km を11ヶ月かけて自転車で走破。 モバイルな生活を送りながら「旅x仕事」を実践する。帰国後はYADOKARI株式会社の代表とともに「BETTARA STAND 日本橋プロジェクト」に参画。現在は株式会社はじまり商店街の代表として「はじまりを、はじめる」をコンセプトに、誰もが持っている志をカタチにし、小さな一歩を踏み出せる「はじまりの場所」を創造する。
10人〜20人規模の小さなイベントが新たなマーケット。
―まず最初にはじまり商店街の活動内容について教えてください。
くまがい 簡潔に話すと世の中の課題を解決したい人の「はじまり」となるイベントの開催を支援したり、コミュニティをつくり続けています。僕らが作りたいのは商店街みたいにさまざまな人が力を発揮できる“にぎわいの場”なのです。だから社名を「はじまり商店街」にしました。
柴田 イベントは3年で約700本やりましたね。昨年は358本やりました。月にすると30弱くらい。暮らし方や働き方に関する内容のものがここ数年だと多いです。例えば、「多拠点生活のすすめ」から「リモートワークをサクサク行うコツ」、あとはクラフトジンや味噌汁といった飲食系のイベントまで多種多様です。ひと昔前のイベントのイメージって100人、200人とか大勢の人たちが集まるパーティースタイルだったと思いますが、僕らがやっているのは参加者が10人〜20人と小規模が主流。主宰者が一方的に話すスタイルではなく、参加者も意見をぶつけて相互コミュニケーションを取りながらテーマについて深く話し合う感じなんですよ。そこから課題に対してハッとする答えが見つかるのが理想なんです。
くまがい 意識高い系ではなく「意識深い系」というか(笑)。10人参加したらイベントが成立するなんて昔では考えられないかも。
―新たなマーケットとも言えますね。イベントに集まるのは、どのような人が多いのでしょうか?
柴田 イベントの主宰者は何らかの“実践者”なんです。例えば現代にフィットした働き方をしている方とか都会と地方を行き来しながら働いている方とか。一方の参加者は今の働き方や暮らし方に納得いかない方が多いので、実践者の意見を聞いて自分の生活に取り入れたいと願うわけです。
くまがい 年齢問わず今後の生き方について模索している人が多い印象です。
柴田 そういった人たちの課題を解決するためにイベントを開催しているわけですが、世の中の課題は減っていくどころか増えていると感じています。テクノロジーはどんどん進化して便利な社会になりましたが、精神的には豊かではありませんよね。情報過多な社会になり過ぎたせいで自分の思考で生きていない人が多いと思います。好きなこと、嫌いなことをちゃんと伝えていかないとしんどい時代かも。だからこそ自分の好きなモノ・コトを共有できる人と出会っていくことは大事だし、さまざまなイベントが増えている理由はそこにあるのではないでしょうか。
くまがい 主宰者は世の中に認められたいと思っているし、実践してきたことをシェアしたいという気持ちが強いんです。参加者は普段の仕事では得られない気づきや共感性が得られるから、どんどん人と繋がっていく。軽い気持ちで参加しているというよりは真面目に何かを発見する視点で来ているんだと思います。
ヒト・モノ・コトをつないで動かす「コミュニティビルダー」とは?
―年間300本もイベントをやるなら企画力が相当高くないと運営できないのでは?
くまがい 自分たちで企画するイベントって実は少ないんです。イベントを始めたい主宰者の伴走をすることが主な業務で、構成を一緒に考えたりコストや集客についてアドバイスしたりとか、サポート役がメインの業務ですね。
―だから「はじまりを、はじめる」がコンセプトなんですね。
柴田 そう! 開催日を決めたら主宰者と一緒に走って、だいたい6週間後にはイベントをやるパターンが多いですね。うちの会社の社員は僕とくまがいくんの二人だけ。それ以外は外部スタッフの「コミュニティビルダー」が14人ほどいて、プロジェクトごとに最適なチームを組んで回しています。
―コミュニティビルダーって何ですか?
くまがい 僕らの解釈では“ヒト・モノ・コトをつないでコミュニティをつくり、動かす人”です。イベントを通して何らかの気づきを与えられたり、生き方を変えていくきっかけになる、そんな役割ですね。イベントにお客さんとして参加した人が感銘を受けて「私もお手伝いさせてください」と仲間に入るパターンが多いかも。年齢層は20代〜40代まで幅広いです。
柴田 また、最近ではデベロッパーさんや行政の案件だったり、街の賑わいを創出するクライアントワークも増えています。例えば、活用されていない建物や広場のスペースを運用して、どうしたら継続的に人が根付くか、とか。
くまがい 昨年だと町田市から依頼を受けた案件がありました。僕らの親会社であるYADOKARI株式会社と一緒に「町田シバヒロ」という大きな芝生スペースを活性化させるプロジェクトです。過去にはクラフトビールのイベントやアウトドアギアのマーケットなどを開催していたようですが、外部からコンテンツを持ってきても結果として町に残らないことが多いじゃないですか。僕らも野外映画や古本市、ヨガ、トークショー、ワークショップなど外部のコンテンツを持ってきて人が集まる場を作ったんですね。でも、ゴールは瞬間的な賑わいの場を作ることではなくて、町田の住民たちがシバヒロを自分ごと化として捉えて自発的に活用してくれることで。
YADOKARIとは?
暮らし(住まい方・働き方)の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。暮らしに関わる企画プロデュース・調査研究・メディア運営、小屋・タイニーハウス企画開発、遊休不動産と可動産の活用・施設運営、まちづくり支援イベント、オウンドメディア支援などを主に手がける。
柴田 半年間やっていく中で町田市の人が主人公になれる場づくりがゴールでしたが、それをかなえることができました。あるイベントでつながった人がヨガの先生になってイベントができたんですよ。町田市の住民の方の自己実現の場を提供できたことが大きな成果かなと。町田に限らずいろんなエリアでこういった仕組みを作ることが自分たちの使命だと感じています。
くまがい この春からは団地活用プロジェクトも始まるんです。団地を二棟使って新しい団地文化を創造するという試みで。
―団地ですか!? なんだか面白そうな案件ですね!
一番感情的で盛り上がったのが性のイベント。
―では、昨年一番印象に残ったイベントを教えてください。
くまがい 性をテーマにしたイベントが強烈でした。ゲストスピーカーは書籍「ゲスママ」の著者でもある元AV女優の神田つばきさんと、新橋経済新聞の編集長であり現在は虎ノ門にある新虎小屋にて街づくりをされている小野寺学さん、書籍「ぼくたちに、もうモノは必要ない。」や「ぼくたちは習慣で、できている。」の著者であるミニマリストの佐々木典士さんなど。参加者はみんなど真剣に浮気だの不倫だの、セックスの話もしますし、調教されている人が来たりとかパンチがある人ばかり。僕はファシリテーターの立場だったんですけど、女性の方が多かったので思い通りに意見を返すことができなくて。
―どんな話になりましたか?
くまがい みんなそれぞれ性についての悩みを語り合いました。普段の自分と関係ない人たちがいるからこそ話せるというのもあったのではないでしょうか。僕の方でもそれについて回答したりキャッチボールしなければなりませんでしたが、あまりにもボールが変化球すぎて男性ゲストが処理しきれなくて(笑)。SMで調教されている女性の悩みをぶつけられたときは、さすがにどう答えたら良いか分からなくて言葉が出ませんでしたけど、ゲストスピーカーの神田さんが的確な返答をしてくれたから助かりました。彼女がいたおかげでなんとか場が成り立ったというか。
柴田 キレッキレのイベントだよね(笑)。
くまがい それぞれの課題が自己実現に向かうという意味では正統派のイベントかなと。むしろいい形で課題をちゃんと吐露できたのでは。なかには泣いちゃう参加者もいましたし、一番感情的だったイベントでしたね。またやりたいなー。
柴田 あと、コミュニティやイベントを運営する方法を教えるゼミも始めたんです。すでに何人かは自分たちでイベントを開催しましたし、僕らが培ったスキルや経験を他者にどんどん広げていくこともこれからは大切なことだと考えています。
“見えない価値”が価値になる社会を作りたい。
―お二人がイベントや場づくりをやる目的は、世の中の課題解決と先ほどおっしゃっていましたが、その先に見据えていることは何ですか?
くまがい “見えない価値”が価値になる社会を作りたいんです。
―見えない価値、ですか?
くまがい 資本主義の経済でまわっている日本は、モノもコトもサービスも満たされていますよね。しかし、それでも精神的には満たされていないわけで。だからこそ、資本主義経済には依存しない価値観が必要だと思います。例えば、最近よく耳にする信用経済もそう。コミュニティ、人と人との繋がりで作り出される経済が今後ますます活発になると思います。コミュニティから信頼されることによって個人のお金がめちゃめちゃ回る。それにより資本主義経済も活発にお金が回る世界が来るんじゃないかなって。
所属コミュニティの外に越境しないと自分自身が磨かれない。
柴田 人は、人と出会うことによって自分自身が磨かれると思うんです。友人たちには「自分が所属する居心地の良いコミュニティの外にも行った方がいいよ」ってよく話します。会社と自宅を往復するだけの毎日をやめて、興味のあるコミュニティに自分から飛び込む。そういう行為をすることによって人との繋がりが増えるのはもちろん、自分が好きなモノ・コトを知り、自覚することで暮らし方・働き方・生き方の精度をどんどん上げていくことができますから。
くまがい 今のうちにどんどん移動して、越境して自分磨きを楽しまないと。ずっと同じコミュニティ内にいると似たような情報しか入ってこないので。有益な情報は自分でとりに行かないと人生を歩むためのレールを作れなくなる。僕も自分の興味関心以外の人に毎日会いたいし、もっともっと移動したいと思っています。社会全体がそういったインターネット的な未来になるのでは。
―最後に今後やりたいことについて教えてください。
くまがい 東京以外の地域に特化したコミュニティスペース兼未来のアンテナショップみたいな場所を作りたいんです。施設名を「ふるさと流通センター」って仮に言っているのですが、既存の地域のアンテナショップってモノを売るサービスが主流じゃないですか。あのスタイルがもう古いんですよ。これからはヒトを起点とした新しい形のアンテナショップが生まれてもいいんじゃないかなって。地域の文化ってモノじゃなくてヒトだと僕らは捉えているので。47都道府県のフロアがあって、それぞれコミュニティスペース、イベントスペース、バーがあるとかゲストハウスが上にあったりとか。その施設に行ったら全国の文化に出会えるようなコンテンツというか。有楽町にある交通会館のアップデート版とでも言うのかな。
柴田 例えば秋田県のアンテナショップがあるとしたら秋田県人がなまりながらお出迎えしてくれて、日本酒を飲ませてくれたり。現状だと地域のアンテナショップは行政がやっているじゃないですか。行政じゃなくて地域のローカルヒーローが運営するような座組にしていかないと、本物の価値を提供できないと思うんです。
くまがい 近い将来、人との繋がりを求めていろんな場所を移動する「大移動時代」が来ると思っていて。身軽じゃないと生きられない世の中になる。どんな人とどのくらいの太さでコミュニケーションを取りながら自己実現をしていくか? そういうリレーションが必要になった時のためにも何かプラットホームが必要だと感じています。仕組みについては頭の中でまだボヤっとしているからうまく言葉にできませんが、僕らが今後実現させなければならないことだと確信しています。
企画・取材・文:笹ハジメ(ロースター)/写真:栗原大輔(ロースター)