インターネットが登場する前、人は紙で文章を読んでいました。紙に印刷された文章にはライター、編集者、そして校正・校閲など、多くの人が携わっています。
しかし、Webに文章を載せられるようになると、編集や校正・校閲を通さずに書かれた原稿をそのままアップすることも増えました。
個人が書いた私的な文章であればそれでも問題はありませんが、企業や団体、そして影響力の強い人が発信する文章は、しっかりと編集、校正・校閲することをおすすめします。
今回は文章の発信や発行において「最後の門番」とも言われる校正・校閲について詳しく見ていきましょう。
校正・校閲とは?
校正・校閲とは、どちらも文章や内容の誤りを直す作業のこと。
従来はアナログ媒体(新聞・雑誌・書籍など)で文章を発行する前に行われていた作業でしたが、誰でもWebが使えるようになった今、デジタル媒体(ホームページ、オウンドメディア、SNSなど)でも必要とされてきています。
「文章の誤りならライター自身でできるのでは?」と思うかもしれません。
しかし、ライターが自分では気付かないミスや、間違って覚えている事柄も多いため、アナログ媒体・デジタル媒体の両方で必要とされています。
校正と校閲の違い
校正と校閲は、どちらも「誤りを直すこと」が目的ですが、それぞれ作業内容が異なります。
【校正】
印刷物と仮刷りの原稿を照らし合わせて、誤りを直すこと。
文字の間違いや誤字脱字だけでなく、修正内容が正しく反映されているか、誤植や色彩の違いはないか、体裁の誤りはないかなどもチェックしていく。
【校閲】
表記ミスや表記ゆれ、間違った意味で使われている言葉などを直す。
さらに事実関係の誤り、差別表現・不快表現など表現方法の問題、そして論理展開や内容に矛盾がないかなどをチェックしていく。
石原さとみ主演のドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール』により、校正・校閲の仕事がどんなものかを知った人も多いのではないでしょうか?
ドラマタイトルにもある通り、校正・校閲は地味だけどコツコツとした仕事です。想像以上に目と頭を使いますし、誤りを見つけるにはある程度の知識や知恵も必要になります。
推敲との違いは?
文章を読み返す作業の一つに「推敲」があります。ただ、推敲は文章を作り直すときに最適な語句や表現を練り上げることですから、誤りを正す校正・校閲とは意味や作業内容が異なります。
また、推敲はライター本人が行うことが多いです。
もちろん、ライター自身が自分の文章を読み直して、文字の誤りや論理の矛盾を見つけることもできるでしょう。しかしライター本人が主観的に書いた文章を、客観的に読んで校正・校閲するのには限界がありますよね。
だからこそ、ライターが推敲と多少の誤りの修正を、そして校正・校閲という第三者が本格的に誤りを見つけて正すという役割分担を行っているのです。
校正・校閲の重要性
SNSやブログなど、誰でもWebに文章を投稿できるようになりました。10年前と比べて、アナログ・デジタル問わず、人々の目に入る文章の数・量は圧倒的に増えていると言えます。
そんな中で、すべての文章を校正・校閲するのは不可能です。とりわけWeb上の文章は、校正・校閲を通さないものの方が多いでしょう。
しかし、校正・校閲は「最後の門番」「ゴールキーパー」などと言われています。その所以は、彼らは文章が世間に出回る前にきちんと誤りを正してくれるから。つまり、安心して文章を世間に出すためには欠かせない役割なのです。
ではもし、校正・校閲がなかったらどうなるでしょうか?
新聞や書籍の場合、印刷した後に間違いが見つかったら、すべて回収し印刷し直さなければいけません。そのまま気付かずに読者の手に渡ったら、指摘やクレームが入るかもしれな
いからです。印刷し直すことになると、その分手間やコストがかかります。
Web上の文章の場合、誤りのある文章はすぐに拡散されてしまい、たとえ文章を削除しても実質的には取下げできません。炎上するリスクもあり、「デジタルタトゥー」として刻まれてしまうでしょう。
企業や団体がアナログ・デジタルを問わず文章を世に出すのであれば、校正・校閲を通すことをおすすめします。
校正・校閲の大変さ
校正・校閲はずっと事務所にこもって原稿とにらめっこしているイメージがあるかもしれませんが、実はあながち間違いではありません。
たとえば出版社の校閲部は日々大量の原稿をチェックしなければならず、常に締め切りに追われています。特に新聞は毎日刊行するもの。朝の出来事を夕刊で紙面に載せることもありますが、制作時間が短時間であっても校正・校閲は欠かせません。
また「最後の門番」である校正・校閲が誤表記などを見落とすことも許されません。原稿も1回だけではなく何十回も繰り返し読むため、校正・校閲はかなり神経を使う作業なのです。
校正・校閲の仕事に就くには
大変な校正・校閲の仕事ですが、一人で黙々と作業することが好きな人や、間違いを見つけるのが得意な人には向いています。
では、校正・校閲の仕事に就くにはどうすればいいのでしょうか?
校正・校閲の勉強方法(スキルの習得方法)
校正・校閲を勉強する方法は主に3つあります。
- 専門校やエディタースクールに通う
- 講座で学ぶ
- 実際に仕事をしてみる
一番勉強に集中できるのは、専門校やエディタースクールに通うこと。そして一番身に付きやすいのが、実際の仕事を通して技能を身につける方法です。
ただ、学校に通ったり、就職することは難しい人も多いでしょう。そんな人には通信講座や通学講座、または単発講座を受けてみるのがおすすめです。
先述した「校正実務講座」は通信講座ですから、社会人や主婦でも受けられますよ。
あると役立つ資格・認定試験(就職を有利にする方法)
校正・校閲の仕事をするために、特定の資格は必要ありません。
ただ、就職で有利になりたい、即戦力になりたいのであれば、次に紹介する2つの資格・認定試験を受けてみるのはいかがでしょうか?
【校正技能検定】
日本エディタースクール主催の検定試験。初級から上級まであり、校正の基本的な技能を身につけられる。
未経験者では入りにくい出版界への足がかりとしてお勧め。
【校正実務講座】
一般財団法人実務教育研究所が主催している認定試験。
すでに出版社に入社している人や校正・校閲をしている人の能力を証明したいときにお勧め。
資格や認定講座で実力を証明することで、就職に有利になるでしょう。ですが、校正・校閲で何よりも重視されるのは実務経験だということを忘れてはいけません。
校正・校閲の求人の見つけ方(実際に就職先を探す方法)
実際に求人情報を探してみると、「校正・校閲」だけの求人が少ないことがわかります。ほとんどの求人では「制作・編集・校正」や「ライター・校正」といった募集が多いです。
一般的な求人では、校正・校閲専門の会社はほとんど見つかりません。そのため新聞社・出版社・印刷所・編プロに就職し、校正・校閲専門の部署に配属してもらうのが正攻法です。
また上記のような文章を扱う仕事でなくとも、たとえば企業のオウンドメディアの編集部に就任する方法も。校正・校閲だけでなく制作や編集も兼任しますが、ライターから納品された原稿の校正・校閲も任されるでしょう。
副業でやりたい方やフリーランスなら、クラウドソーシングという方法もありますよ。
実際にやってみよう!文章校正・校閲のやり方
最後に、校正・校閲のやり方を解説します。
まずは身近な人の文章や自分で書いた文章を原稿にして、実際に挑戦してみましょう!
時間を置いてから取りかかる
自分の文章の校正・校閲をする場合、必ず時間を置いてから取り組むこと。書いた直後は頭の中に内容が残っている状態で、誤りを見つけにくいのです。
どんなに短くても1時間、可能であれば24時間置いてから校正・校閲をしましょう。
とある作家は自分の原稿を金庫に預け、数年後に校正・校閲をしていたのだとか。それだけ時間が開けば、完全に第三者の視点で原稿を読めますよね。
アウトラインと照らし合わせる
まずは全体を俯瞰するために、原稿とアウトラインを照らし合わせましょう。
アウトラインとは、簡単に言えば記事のテーマや構成、そして方向性、着地点などのこと。ざっと原稿を読んでみて、アウトライン通りに書けているかを確認します。
原稿がアウトラインからズレているなら、修正すべきか、そのままでも問題ないのかを判断しましょう。
アウトラインそのものに問題がある可能性もあるため、原稿に対してもアウトラインに対してもフラットな視点で見ることが重要です。
表記を統一する
「エディター」や「エディタ」、「例えば」や「たとえば」、「アメリカ」や「USA」など、表記はバラバラになっていないでしょうか?
メディアのレギュレーションに合わせて、表記を正しい方に統一しましょう。もしレギュレーションに載っていない表記で迷うことがある場合には、ライターの文字表記についてまとめられた『記者ハンドブック』を基準にするといいでしょう。
特に注意すべきなのは、固有名詞の誤り。「斎藤さん」と「斉藤さん」とでは、音が同じでも別人です。固有名詞の誤りは、絶対に見落としてはいけません。
基本的な文章ミスを直す
表記を統一したら、次は基本的な文章の間違いに着目します。たとえば、
- 誤字脱字はないか?
- 送り仮名の付け方は間違っていないか?
- 同音異義語はないか?
- 熟語やことわざを間違った意味で使っていないか?
- 常体と敬体は混合していないか?
- 句読点の打ち方、カッコの使い方は適切か?
などなど……。
文章ミスの種類は多いですが、リスト形式にして一つひとつチェックしていくといいでしょう。
事実確認を行う
忘れてはいけないのが、事実確認です。もし書いてある内容と事実が異なれば大きな問題になりかねません。校正・校閲は事実確認のために存在しているとも言えます。
- 内容と事実に齟齬はないか?
- 論理展開に矛盾はないか?
- 年月日や数など、数字の間違いはないか?
- 出典やリンク先に問題はないか?
- 著作権に触れるコンテンツはないか?
事実確認に関して、資料や電話で裏を取ることもあります。実はインターネットで検索して見つかる情報(二次情報)だけでは信憑性がなく、一次情報を参考資料にすることが多いです。
校正・校閲システムを使ってみるのもアリ
まだ校正・校閲の実力が伴っていない状態では、原稿をチェックしても「これで正しいのかな?」と悩むかもしれません。身近に校正・校閲が得意な人がいればいいのですが、誰にでもそんな知り合いがいるとは限りませんよね。
そこで、校正・校閲システムを使ってみるのはいかがでしょうか?
有名な校正・校閲システムには「文賢」があります。他にも各出版社がAIを使ったツールを開発・提供していることも。使ってみれば、その性能の高さや利便性に驚くかもしれません。
文章に携わる人は校正・校閲の力を身に付けよう!
校正・校閲のスキルは、今や専門の校正・校閲部だけでなく、編集者やディレクターにも求められています。
やはり誰でも文章を投稿できるようになったこの時代だからこそ、校正・校閲により文章の誤りを正せる人が重要視されるようになっているのです。
文章に携わる人は、ぜひ校正・校閲の力も身に付けていきましょう。