なぜ今、従業員一人ひとりに「オーナーシップ」が求められるのか

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いま、ビジネス現場でよく交わされる言葉「オーナーシップ」とは?

オーナーといっても、経営者専門の気がまえではありません。今回話題にするオーナーシップ(ownership)は、「当事者意識」「責任感」を意味します。平たくいえば、指示待ち社員にならず、仕事を「自分ごと」として主体的にとらえる姿勢。共創型のチームワークが求められるいま、社員ひとり一人のオーナーシップが会社の成長のカギを握っています。

部下たちのオーナーシップを育て、また自らのオーナーシップを磨くために大切なことは?これまで20000名以上の経営者や幹部と接してきた人材コンサルティングの達人、井上和幸さんにそのヒントをうかがいます。

井上 和幸(いのうえ かずゆき) 株式会社経営者JP 代表取締役社長/人材コンサルタント

1966年群馬県生まれ。1989年早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社への転職と取締役就任を経て、2004年からは株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)で活躍。2010年に株式会社経営者JPを設立し、経営者・経営幹部級のビジネスパーソンと、そうした人材が必要な企業とをつなぐ支援を行う。20000名超の経営者や幹部と対面してきた経験を活かした、リーダー論や人材マネジメント論の著書も多数。近著は『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)など。『NIKKEI STYLE』(日本経済新聞社/日経BP社)ほか、各種メディアへの寄稿も行う。

 

指示待ち社員を減らすカギ、「オーナーシップ」とは

――まずは「オーナーシップ」とは何かについて、教えていただけますか?

井上 今回のテーマとなるオーナーシップは、何も会社のオーナーでなくても、仕事に対して受け身にならず「自分ごと」として関わる、当事者意識や責任感のことです。リーダーシップがチームを率いる人に必要なものであるのに対して、オーナーシップはチーム全員がそれぞれ発揮することで、成果を得られるもの。そして今の時代、誰もが自分なりのオーナーシップを持つことが一層求められているといえますね。

――強いリーダーの手足となって忠実に働くメンバーも必要かなと思う一方、今後はそれだけではダメということですね。なぜ、非リーダーにもオーナーシップが求められるようになってきたのでしょう?

井上 理由のひとつとして、まさにいまお話に出たリーダーの役割が関わっています。具体的には、リーダーシップのかたちの変化ですね。簡単にいうと、最も古くからある、ピラミッド式の官僚型がリーダーシップ1.0。次に、強いメッセージを打ち出して変革をグイグイ引っ張るカリスマ型のリーダーシップ2.0。これらを経て新たに増えてきたのが、ひとり一人の創造性や能力を最大限引き出せる状況を作る、支援型のリーダーシップ3.0。さらに今後注目されるであろうリーダーシップ4.0は自己実現型というべきもので、ひとり一人がリーダーとして自己テーマに向かうなかで、組織も活性化するという考え方です。

――多様な人たちが新しい価値を共に創りあげる「共創」の時代には、リーダーシップ3.0や4.0がフィットするということですね。そして、そこではチームの全員にオーナーシップが求められる、と。

井上 はい。サッカー日本代表を例に挙げると、トルシエ監督時代は1.0または2.0的リーダーだったと感じます。当時はまず世界デビューが目標だったので、システムを徹底的に理解させるための牽引力が必要だったのでしょう。その後、オシム監督が3.0的なかたちに挑み、これを引き継いだ岡田武史監督がリーダーシップ3.0的なチームを実現したようにみえます。選手でいえば、前キャプテンの長谷部誠選手もまた、リーダーシップ3.0の人ではないでしょうか。

これは、とにかく1.0より2.0が、さらに3.0の方がよいという話でもなくて、状況に応じた使い分けかと思います。ただ、特に近年「皆で考え、皆で発展させていこう」という姿勢が活きる場面は、確実に増えています。

――個々のオーナーシップが発揮されると、いわゆる「指示待ち社員」にならず自ら考え、動くクセが付く。そうすると個々のモチベーションやパフォーマンスが上がり、チームも活性化するというわけですね。

井上 そこから面白いビジネスアイデアが生まれることも期待できるし、より基本的な効果もあると思います。前に経営コンサルティングに関わった会社で、こんな面白いことがありました。

ある事業戦略を首脳陣でつくって社内に降ろしたところ、社員たちから大反発をくらってしまって。「そうか、じゃあ君たちも考えてみてくれないか?」と提案しました。半月ほど経って彼らが持ってきた事業戦略をみて、驚きました!たぶん本人たちは気づいていないのでしょうが、最初に首脳陣が出したプランとほぼ同じ内容だったんです(苦笑)。でも私は、「いいねえ、これ!」と答えたんですね。結果として、そこからは皆でよい感じに団結して進めることができました。

――いわゆる「ノセ上手な上司」ですね(笑)。それもまた、社員のオーナーシップを引き出すことで成り立っていると。

井上 同じようなことはタテの関係だけでなく、ヨコの関係、例えば業務の引き継ぎなどでも起こり得ます。どの場面でも、やはり大切なのは「自分ごと」にできるかどうかなんですよね。

 

オーナーシップの高い人材を見いだすヒント

――井上さんは人材コンサルタントとして、「採用の失敗は教育でとりかえせない。いくらいい教育をしたとしても、もともとの人材が求めているものとずれていたら、よい人材に育つことはありません」と力説しています(著書『ずるいマネジメント』より)。そこでうかがいますが、採用面談などで、オーナーシップの高い人材を見抜くヒントはありますか?

井上 やはり仕事を「自分ごと」と考えられるのは、商売人気質、起業志向のある人に多いですね。経営者志望に限らず、自分のプロジェクトを立ち上げて進めたいという人もそう。また、よく「体育会系はよい」というのも、単に上下関係に律儀だからとかが理由ではなく、ひとつのことに持続的に取り組める力や、チーム内で自分の役割を見出せる力が評価されているはず。これはそのまま、オーナーシップに通じます。逆に、そうした資質さえあれば文化系サークルの部長などにも、同じことはいえるでしょうね。

オーナーシップの素質を見抜く万能の質問はありませんが、「就職(転職)で重視することは?」などの定番質問でも、その人の仕事に対するオーナーシップは探れます。例えば、自身の現状打破を狙うハングリーな人。逆に、恵まれた現状をあえて飛び出してでも成長したい人などは期待できます。そして面接官は、ときに彼らのアピールポイントをあえて否定してみるのもアリでしょう。そこでしっかりと反論できる強さがあれば、「素質アリ」と評価できると思います。

 

部下のオーナーシップを育てる秘訣は質問力にアリ

――それでは次に、部下のオーナーシップを育てるのに必要なことを伺えますか?最近は、決まった仕事を無難にこなしたい安定志向タイプも多い気がしますが…。

井上 社員の高いオーナーシップを育てる条件として、以下4点が考えられます。

会社や上司がこうした状況をつくってあげられると、部下たちのオーナーシップを育てられると思います。なお、じつはこれ、やはり近年ビジネスの世界でもよく使われる言葉「レジリエンス」(逆境からの回復力、弾性)の構成要素でもあるんです。

――なるほど。オーナーシップは、強くてしなやかな組織づくりにもつながるのですね。ちなみにBizTERRACEマガジンでは先日公開した「できるマネージャは質問が7割。」という取材記事もありますが、メンバーによりオーナーシップをもってもらう質問の仕方など、あるのでしょうか?

井上 確かに、ただ「オーナーシップを持とう!」と唱えるだけでは、誰もが常に高い自主性を持って仕事に取り組めるとは限りませんよね。また、仕事が上や横からいきなり降ってくると「なんだよ、こんな企画持ってきて」というネガティブな感情もおきやすい(笑)。そこで、リーダーから部下への「それで君はどうしたいの?」というシンプルな問いかけが有効です。その答えを部分的にでも自ら考え、決めることで、主体性が生まれる。これもオーナーシップの一例かと思います。

 

「何でこうなった!?」より「ではどうやって解決しようか」が大切

――オーナーシップのよいところをうかがってきましたが、部下たちがオーナーシップを発揮して能動的に動くようになると、それゆえのリスクも生じるのかなという気がします。例えば、彼らが主体性を発揮した結果、失敗する場面もありそうです。そのとき、上司はどう振る舞うべきでしょう。

井上 もちろん、同じ失敗を繰り返さないよう伝えるべきです。ただ、そのときは「原因思考」より「解決思考」で向き合うのがよいでしょう。問題がおきたとき「何でこうなった!?」「誰がやったんだ?」となるのが原因思考。そうではなく「ではどうやって解決しようか」を目指すのが解決思考。研究開発では原因思考も必要ですが、ビジネスの場では「解決思考」を大切にするべきでしょう。そしてその場面では、上司も部下たちと同じ立場で「どうすべきか」の問いに対峙することが重要です。

――リーダーがチームを「自分ごと」として考える。それもオーナーシップということですね。

井上 はい。結局のところ、オーナーシップは役職や立場を超えて誰にでも必要なものといえます。だから、個々人にとってそこで重要なのは、「自分ごと」の範囲をどの領域に設定するかです。自分が直に手がける仕事のみなのか、チームに対してなのか、あるいは「我が社」全体に対するオーナーシップなのか。

――それは、各メンバーのもつべき責任と裁量の範囲を、みなで明確に共有することにもつながりそうです。不毛な「押し付け合い」「ゆずり合い」を生まないためにも。

井上 そうですね。ただし加えて言うなら、私が理想だと思うのは、経営陣だけが企業へのオーナーシップを持つのではなく、全ての社員が自分の会社に対して、その人なりのオーナーシップマインドを抱ける会社です。そうなると、「これは隣の部署の仕事だし」とタテ割り組織にありがちな無関心に陥るのではなく、よいことも悪いことも、広く自分ごととしてとらえられる。

そのためには、誰もが意見を伝え合える風通しのいい組織であることが求められます。また、内定者研修で自分の会社の広報計画を考えさせたり、新人を自社の採用活動に参加させたりしている企業もありますね。これは、自社について見つめ直し、社外の人たちにその姿を伝えることになるので、自然とオーナーシップが引き出される効果があります。

 

「自分の人生で主役を生きる」。暮らしの充実にもつながるオーナーシップ

――最後の質問です。オーナーシップは、メンバーの人生にとっても「よいこと」が期待できますか?

井上 オーナーシップを持つことは、基本的にはいいことばかりだと思いますね。「仕事イコール趣味、であるべきか否か」という議論は常にありますが、私は価値観次第でどちらでもよいと思うんです。ただ、毎日かなりの時間、仕事をして過ごすのであれば、やはり好きなこと、面白がれることの方がいいに決まっている。もちろん息抜きも必要ですが、密度のある日々の方が人は活き活きと暮らせるし、成長もするというのが私自身の実感としてもあります。

オーナーシップの育て方、リーダーシップ論については、『ずるいマネジメント』などの井上氏の著書からも学ぶことができる。

――オーナーシップは「自分の人生で主役を生きること」にもつながるテーマということですね。

井上 楽しく、のめり込める仕事があることが人生を豊かにするのは確かですし、周囲を見ても、そうした人ほど充実した人生を送っているように感じます。そして経営者視点でいえば、まず自分自身がそうあるべきでしょうし、さらに社員たちが充実感をもって役割を全うしてくれれば、企業としてのアウトプット向上だけでなく、その会社ならではのさまざまな付加価値も生まれてくるはずです。

 

このコンテンツは株式会社ロースターが制作し、ビズテラスマガジンに掲載していたものです。

 

企画:大崎安芸路(ロースター)/取材・文:内田伸一/写真:栗原大輔(ロースター)

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