お詫びのプロが教える ビジネス謝罪5つの極意

芸能人や大組織のトップが頭を下げて謝るシーンが連日のようにメディアを賑わせていますが、私たちビジネスマンにとっても他人事ではありません。仕事にミスやトラブルはつきもの。取引先や顧客の元へお詫びに行かなくてはならない場面は誰にでも訪れる可能性があります。

しかし、いざそのときになると動揺してしまいがちです。謝るつもりが、不用意な言動で相手をさらに怒らせてしまい、事態の収拾がつかなくなることも珍しくありません。

そこで今回は、「謝罪のプロ」として各メディアに引っ張りだこの増沢隆太さんを講師として招き、トラブル発生直後の初動から、お詫びに伺ったときの言動、そして一件落着後のアフターフォローに至るまで、一般のビジネスシーンにおける「お詫びの極意」を時系列に沿って教えてもらいました。

増沢 隆太(ますざわ りゅうた) ロンドン大学大学院修士課程修了。人事コンサルタント、産業カウンセラー、東北大学特任教授などとして活躍中。コミュニケーションの専門家としても知られ、特に謝罪会見や炎上問題などでは「謝罪のプロ」としてワイドショー、ニュース、バラエティ番組に多数出演。そのノウハウは、100回以上に渡る自身の謝罪経験から培われた。主な著書に「謝罪の作法」(ディスカヴァー21)、「戦略思考で鍛えるコミュ力」(祥伝社)など。

 

目次

【其の一】まずはいち早く「6割の情報」を集めるべし!

まずは慌てず、速やかに、チームで情報収集を。

――取引先やクライアントを怒らせてしまった場合、真っ先にすべきことは何でしょう?

増沢 問題を起こした当事者ならびに現場レベルの責任者がまず行うべきは、情報収集ですね。問題発生直後は誰でも動揺してしまうものですが、それでもとにかく可能な限り情報を集め、事態を正しく把握することが大事です。

ただし、この段階で100%の情報を集める必要はありません。6割程度集まれば十分です。火事が起こったときは、出火原因を突き止めることよりも、火事の規模や、消火にどのくらいかかるのかを知ることの方が先決ですよね。それと同じです。

会社で起こるトラブルは自分が原因である可能性もありますが、おそらく半分以上が、会社の業務を通じて起こしたトラブルですから、「誰が原因なのか」は実はそれほど重要ではありません。それに、当事者が不在の場合もありますから、まずは情報を掴んだ人がすべきことは、現場レベルの責任者に話してどうするかを決めるのが一番ですね。

――この段階で責任者が考えるべきことは?

増沢 賠償がどの程度になるのかを一応は算定しないといけません。そして、相手との関係が切れたら自社が潰れるほどの危機なのか。あるいは、そこまで深刻になる関係ではないのか。ことの重大性と緊急度を探ります。

顔なじみのベテラン社員が一言謝れば済むようなことなのに、問題を起こした若手の社員が「おしまいだ!」と悲観して会社に来なくなってしまうケースもあるので、迅速かつ的確な現状分析が必要です。

――なるほど。若手の社員はトラブルを起こしがちですが、それを防ぐ教育法はあるでしょうか?

増沢 「トラブルがあってはならない」という考え方は、実はとても危険です。社員教育の前にまず、経営者の意識を変える必要があるかもしれません。トラブルがあったときに一番ダメなのは、担当者任せにすること。原因は個人にあるかもしれませんが、その人は仕事の一環でトラブったわけですから、それは会社のトラブルなんですよ。

つまり、経営陣の意識が大事。「何かあったらとにかく上に報告」「会社として問題に取り組むんだ」いうことを日頃から社員に周知徹底させておく必要があります。それができていると、トラブルが小さいうちに対処できるので、結果として組織にとっては一番得。いかに情報を吸い上げるか。いかに情報を隠させないか。それが社員教育として最も重要なことだと思います。

毎月のように、トラブルに関するニュースがありますよね。そういうときに、「こんなことがあったけど他人事じゃないよね」と社員に伝えるのが効果的でしょう。

 

【其の二】謝罪は「仕事の一環」と思うべし!

仕事のひとつと思えば、気持ちを切り替えて取り組むこともできる。

――情報整理とダメージ算定を6割程度終え、いざ正式に謝罪に行く段階になりました。ここで大事なことって何ですか?

増沢 まずスピードが大事です。一刻も早く謝りに行く。誰が謝罪に行くべきかについては、事情を一番わかっている当事者(担当者)が行くのが原則で、上司は同行してもしなくてもよいです。

最悪なのは、現場レベルで対応を詰めているさなかに、経営者がワケもわからず「大切なお客さんだから」と出しゃばってきて、「ウチの者がやらかしまして」と謝ってしまうこと。

こういうちゃぶ台返しをやられると、会社の損になるだけでなく社員のモチベーションが落ちてしまい、最悪辞めてしまいます。経営者は、現場の指示で踊らされるぐらいの意識を持つべきなのです。

――経営者が「社員に謝らせるのは申し訳ない」と思ったとき、あるいは、社員が「自分は悪くないので謝りたくない」と言い出したときは、どうすればよいでしょう?

増沢 「自分が謝りに行っちゃった方がラク」と考える経営者も多いでしょう。しかしそれをしてしまうと、社員の成長の機会を奪ってしまいます。「嫌なのは分かるけど、おまえを信頼しているから話をまとめてきてほしい。ケツは俺が持つから」と言って送り出す。これが上手くいくと、組織が一枚岩になりますよ!

――しかし、謝罪に行くのは気が重いものです。これを乗り越えるコツは?

増沢 「仕事の一環だ」と思うことです。原因が自分とは無関係であろうが、事態を収拾することが自分の業務である。そういうマインド・セットで臨みましょう。

――アポイントを取ってから謝罪に行くべきですか?

増沢 ケース・バイ・ケースです。「今から謝りに行っていいですか?」と聞くと、断られる可能性が高く、行かない理由になってしまうこともあります。やりがちですが、LINE、メール、電話、面会という4段階があるとして、軽い順からやるのは最悪の選択。戦力の逐次投入は、トラブル処理の方法として最悪だと覚えておいてください。

――ということは、アポを取らずにいきなり謝罪に行くのがベストですか?

増沢 はい。それが一番ですが、相手に迷惑をかける可能性もあるため、状況によっては事前に電話をかけましょう。ありがちなのは、「電話をかけたけど担当者に取り次いでもらえない」というパターン。

――そうなると弱りますね。

増沢 いや、そのときこそが行くチャンスなんですよ。行く理由ができるじゃないですか。ただし、行くことが目的であって、まず会えないと思っておいた方がよいです。「勝手に来るな」「忙しいんだよ」「おまえのためになんで時間を割かなくちゃいけないんだ」となるのがほとんどです。

――雨の中、会ってくれるまで傘もささずに待ち続けるなどの行為は有効でしょうか?

増沢 いや、リスキーですね。「わざとらしいパフォーマンスをしやがって」と思われてしまったら逆効果なので、そういう余計なことはしない方がよいです。しくじったときの鉄則は、「それがさらに悪化するようなリスクは冒すな」ということ。いかにリスクを減らすか、ということに専念しましょう。

 

【其の三】カラダから余計なメッセージを発すべからず!

派手なネクタイはもちろんですが、豪華な菓子折りなども相手を怒らせる危険性あり。

――謝罪に行くときの格好はどうするべきでしょう?

増沢 ここでもリスクを減らすべく、「いかに自分のカラダから余計なメッセージを発しないか」ということに努めましょう。無個性のスーツ、白いワイシャツ、無地のネクタイで、地味に地味に行くべきです。衣服が発する些細なメッセージが相手の癇に障り、許されるものも許されなくなるケースがあるからです。

誰もが知っている例を挙げると、アメフトの悪質タックル問題のとき、日本大学の内田監督がピンク色のネクタイをして関西学院大学へ謝罪に行き、批判を浴びました。実はピンク色はスクールカラーだそうですが、そんな余計なメッセージを発している時点で、「反省していない」と思われてしまうんです。

同様の理由で、メガネは金縁や白縁は軽薄なイメージがあるためアウト。派手な茶髪の男性も印象が悪いので、ドラッグストアで売っているスプレータイプのヘアカラーなどでその日は黒く染めてから行きましょう。女性はアクセサリーも香水もダメ。とにかく何もメッセージを発しない方向でいきましょう!

――菓子折りはどうしましょう?

増沢 なくていいと思います。「こんなモンで済むと思っているのか?」と先方の神経を逆撫でしてしまう危険性があります。高級なお菓子なら有効かといえばそうでもなく、「そこじゃねえだろ、おまえのエネルギーの使いどころは!」と逆手に取られてしまう可能性も!

どうしても手ぶらで行くのに抵抗があるなら、いかにも取ってつけたようなコンビニの菓子折りで十分です。そこにエネルギーを費やしておらず、これで許してもらおうとも思っておらず、あくまで謝意の一つとして取り急ぎ持ってきただけ、という程度のメッセージに留めておくのがいいですね。

 

【其の四】怒鳴られたらラッキーと思え!

人間、怒鳴ると意外とすっきりするものです。ここは我慢で乗り越えましょう。

――いざ、先方と面会。ここで注意すべき点を教えてください。

増沢 相手次第なので難しいところですが、「馬鹿野郎!この野郎!」と怒鳴り散らすタイプと当たった場合は、比較的ラクかもしれません。なぜなら、怒りのエネルギーは長続きしませんから。まあ、10分。どんなに長くとも20分怒鳴ったらトーンダウンしていきます。怒りをそれ以上保ち続けることはできないので、言いたいだけ言わせてあげましょう!

ところが、芸能人の記者会見はその逆をやるから炎上するんですよ。文句を言わせないために質問を拒否したり、一方的に釈明したり。自分が非難されるのが嫌だからそういう態度を取ってしまうのでしょうが、正解は逆。いかに非難させて、怒りのエネルギーを使わせるかがポイントなんですよ。

――とは言っても、非難を浴び続けるのは辛いですよね。

増沢 「今日は怒鳴られるのが仕事なんだ」と思って行きましょう!「殴られるぞ」と身を固めていると体が反応して耐えられますが、不意打ちを食らうと致命傷を負う。謝罪の場で身体的な暴力を食らうことはまずないですが、言葉の暴力はありうると思って臨むべきです。

相手の怒りに気圧されて「全てウチの落ち度です。なんでもやらせてもらいます」などと口走ってしまうと、あとあと問題がこじれます。賠償金などの話もその場でする必要はありません。日を改めて、お互い冷静になってからさせてもらうのが正解です。

万が一、身体的な暴力を受けたら、それはもう話は別です。速やかに警察を呼びましょう。

――謝罪中の言葉遣いなどの注意点は?

増沢 まず「言い訳をしない」のが大原則です。「申し訳ございませんでした」と謝った後すぐに、「実は今回の一件は〜」などと自ら事情説明に入るのは絶対に避けましょう。

――では、事情説明はいつごろすればよいのでしょうか?

「なんでこんなことになっちゃったの?」。この質問が相手から出るのを待ちましょう。向こうは怒りの頂点なので、言い訳なんて聞きたくない状況です。だからひとまずは「申し訳ございません」という言葉と、相槌を打つ程度に留めてください。

そして怒りを吐き尽くした相手から、「なんでこうなったの?」という質問が出てから、事情を説明すればよいのです。

――土下座の効果はいかがでしょう?

増沢 土下座や丸坊主はオススメしません。昔は有効でしたが、今はありふれたパフォーマンスになっていますから、「はいはい、出た出た」と思われ、逆効果に終わりがちです。「余計なメッセージを発しない」という教訓が、ここでも生きてくると思います。

 

【其の五】ミスを報告した部下を褒めるべし!

「よくすぐに報告してくれたな!」部下へのひと言が組織を強くします。

――謝罪が受け入れられ、事態が沈静化に向かいつつあるときの注意点を教えてください。

増沢 最後まで油断しないこと。事態が完全に沈静化するまでは「これで終わった」的な態度を見せることなく、小まめに先方と連絡を取りつつ、奔走しましょう。

――一件落着した後のトラブル先へのアフターフォローは?

増沢 「その後どうですか?」という様子伺いをやり過ぎるのは危険です。相手の怒りが再燃する恐れがありますから。お客さまとして大事に扱っていますという態度を示したいなら、年賀状や暑中見舞いなどがオススメですね。儀礼的で、押し付けがましくないですから。ただし、そこに「あのときは失礼しました」と書くと、怒りが再燃する危険性があるので、時節の挨拶を書く程度でOKでしょう。

――謝罪した部下や、ミスした部下へのアフターフォローは?

増沢 ビジネスの現場ではミスは必ず起きること。ミスをしないというのは、仕事をしていない証拠とも言えます。ですから、ミスした社員を責めないこと。むしろ火種が小さいうちにネガティブな情報を上へ報告したことに対し、褒めてあげるぐらいの社風が根付けば、組織の安全保障ができるようになります。

――謝罪ってとてもネガティブなものと思っていましたが、意外と当事者や会社にとってもプラスな部分もあるんですね!

増沢 そうですね。これまで100回以上、謝罪をしてきた私の経験から感じるのは、「謝罪の先には成長がある」ということでしょうか。「雨降って地固まる」で、先方との信頼関係が強まることもありますし、謝罪を一つクリアすると、ビジネスマンとしてのステージや経験値も上がります。そして、事態を丸く収めた後のビールは格別に美味しいものです(笑)。

お詫びに行く前はハラハラドキドキするものですが、大変な思いをした人は、その分だけ確実に得るものがあると思います。ですから、逃げずに真正面から謝罪に立ち向かいましょう。いつか笑える日が来ますから。

 

このコンテンツは株式会社ロースターが制作し、ビズテラスマガジンに掲載していたものです。

 

企画:大崎安芸路(ロースター)/取材・文:岡林敬太/撮影:栗原大輔(ロースター)藤井由依

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