創業者や経営者、社員から顧客まで、企業に関わる人すべてが何かしらその企業に関する「ストーリー」を持っています。そのストーリーをビジネスに活かしたマーケティング手法が「ストーリーテリング」です。
もしかすると、聞いたことはあるけれど具体的な内容がわからない人が多いかもしれません。今回はストーリーテリングの意味やビジネスでの活用法について、詳しくご紹介しましょう。
ビジネスにおけるストーリーテリングの意味とは
自社をうまくブランディングしたり、チームワークを発揮して働いたりするためには、自分の考えや思いを相手に伝える手段が必要です。
多くの手段がある中で、ストーリーテリングはより大きな効果が期待されています。
まずは、ストーリーテリングの意味やビジネスに必要な要素について見ていきましょう。
ストーリー=物語?
「ストーリーテリング(story telling)」とは、その名の通り物語を話して聞かせることです。
あなたは人に物語を話して聞かせるとき、過去の出来事を時系列に伝えることが多いのではないでしょうか?しかし、ただの事実を順番に話して聞かせるだけでは誰の心にも響きません。
「ストーリー」は「物語」という意味を持ちますが、ビジネスでのストーリーテリングでは「物語」の中に「コンセプト(伝えたい想い)」を忍ばせておく必要があります。
「コンセプトは〇〇です」と抽象的な単語で簡潔に伝えるよりも、物語に乗せて伝えることで人々の中に強く印象付き、その後も継承される「ストーリー」として語り継がれていきます。
ストーリーテリングにおける「ストーリー」とは「物語+コンセプト」だと意識すると良いでしょう。
ストーリーテリングの重要な要素
コンセプトの他、ストーリーテリングで意識すべき要素が3つあります。
自己開示
人が他者に最も共感しやすい瞬間は、その他者が自己開示を行ったときです。SNS運用でもがっつりマーケティング寄りの運用よりも、自己開示して顧客と交流を図る運用の方がファンが付きやすいです。
自己開示すると少なからず「変に思われたらどうしよう」という不安が付きまとうものですが、その不安を乗り越えた先に顧客からの共感があることを忘れてはいけません。
価値観の共有
人によって価値観が違うように、企業によって価値観も違います。スターバックスのコーヒーは割高ですが人気があり、一方でコンビニの100円コーヒーも根強いファンを持っています。
それぞれ価値観の違う企業が販売し、それぞれの価値観に賛同する顧客が購入しているからこそうまく市場が分けられているのです。
ストーリーの中で、自社はどんな価値観を持っているのかを共有しましょう。
理想の未来や理想の自分
ストーリーテリングで過去から現在までを語っただけでは「面白かったね」で終わります。さらにその先の未来を聞き手に想像させることで、本当の意味でストーリーは完結するのです。
しかも、聞き手に見せる未来は「理想の未来」や「理想の自分」である必要があります。理想像があることで希望を抱かせたり、欲求を刺激したりして、聞き手の行動を後押しするのです。
マーケティング事例から学ぶストーリーテリングのやり方
ビジネス書やマーケティング書、さらには哲学書、歴史書にもマンガの形をとった書籍が増えています。これは「ストーリー」がより理解や共感を得やすい伝達手法だからです。
例えばドラッカーの「マネジメント」はビジネス古典ゆえに難しい内容でしたが、青春ストーリーにした書籍『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が出版され、映画化するほど大ヒットしました。
難しすぎるアドラー心理学は、対話調のストーリー「幸せになる勇気」によって多くの人の心を揺り動かし、人々に新たな視点を与えました。
このように伝えたい内容をストーリーに仕立て直すことで、相手の理解を手助けします。
商品説明や広告にマンガを取り入れたり、簡単なドラマやアニメを用意するなどは、どの企業も取り組みやすいのではないでしょうか?
またスティーブ・ジョブスがスタンフォード大学で卒業生に向けて行ったスピーチも有名です。
日本語訳|himazu archive 2.0 - スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での卒業式スピーチ
「今まさに迷っている」「人生の分かれ道」という場所に立っている若者と、そんな彼らと同じ年頃だった自分を重ね合わせることで、よりインパクトの大きなストーリーになっています。
上の立場の人が下の立場の人に向けてストーリーテリングを行うときは、同じ目線で伝えることで印象に残りやすく、相手に勇気と希望を与えることが可能です。
効果的なストーリーテリングの使い方
ストーリーテリングは目新しい手法というわけではなく、大昔から使われています。日本むかし話や童話などは、ストーリーの形をとって子供に教訓を教えていますし、美術展でもその品物の歴史や制作秘話が書かれたプレートが一緒に展示されていますよね。
では、ビジネスの場面ならどのように使うのが良いのでしょうか?
ストーリーテリングをビジネスに活用
ストーリーテリングのビジネス活用で多いのが、企業から顧客へコンセプトや価値観を共有し、理解を得るための活用です。多くの共感を集めてファンを作ったり、プラスイメージを持たせたりすることで、売上にも結びつきます。
最近注目されているのは、経営者などのリーダーから社員に向けたストーリーテリング。理念を浸透させたり、全員が一丸となって改革を目指したりなど、企業全体のチームワークを高める目的で活用されているのです。
ストーリーテリングにスキルは必要?
ストーリーてリングにはスキルが必要だと思う人も多いでしょう。
しかし、ストーリーテリング自体にスキルは必要ありません。必要なのは自身のストーリーと「伝えたい」という熱い想いです。ストーリーの作り方自体は様々なフレームワークがあるため、意外と難しくありません。
しかし、共感を生むようなストーリーや熱い想いを持っていないと「語るストーリー」自体がありませんよね。
まずは自分や自社の棚卸しをして、ストーリーを見つけてみてください。
ストーリーテリングビジネスに関するおすすめビジネス本
ストーリーテリングについてしっかりと学び、自社で活かすならビジネス書を読んでみると良いでしょう。ストーリーテリングビジネスに関するおすすめの本をご紹介します。
[実践]ストーリーテリング “論理だけでは伝えにくいこと”が伝わる技術
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「ストーリーテリングとは?」と基本的な部分から、キャラクター設定、舞台設定などかなり具体的な方法まで踏み込んで解説されているビジネス書です。この1冊だけでもストーリーテリングの大まかなやり方が掴めるでしょう。
イルミネート:道を照らせ。―変革を導くリーダーが持つべきストーリーテリング法
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この本では、ストーリーテリングの手法を体系的かつ実践的に説明しており、曖昧な書き方をせず、どれもが具体的なので理解しやすいです。リーダー向けに書かれているため、顧客への訴求のほか、社員への伝達方法などもしっかり解説されているのもポイント。
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動画の時代が来ると言われて久しいですが、映像で伝えるストーリーは国境を越えます。文字ではなく映像でストーリーテリングをしたいときはこの書籍がおすすめ。実践法というよりも、考え方や未来予測などが詳しく解説されています。
プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える
この本では、ストーリーテリングを「人を動かすための魔法の剣」だとし、その手法を丁寧に解説している。
スピーチ、プレゼン、営業、会議、面接…あらゆるビジネスシーンで「共感」「信頼」「情熱」を生み出す語り方とは何なのか。この本を読めばきっとそのノウハウを身につけられるはずです。
ビジネスはストーリーテリングで顧客とチームの心を掴もう
熱い想いを持っている経営者やリーダーは多いのに、ほとんどの人が自分の想いを他者に伝え切れないまま日々を過ごしています。本当は共感してもらえる物語を持っているのに、それではもったいないですよね。
「自分の想いが伝わっていないのでは?」…そう感じる人はストーリーテリングを用いて伝えてみましょう。
物語の形を取れば語り手は語りやすく、聞き手も没入感を持って聞き入ってしまうでしょう。