世の中に溢れているキャンペーンやランディングページ、なんとなく目にするスーパーのチラシやPOP。これらのマーケティング施策には、心理学が用いられているのをご存知でしょうか?
心理学には偉人たちが発見したさまざまな定理・原則・法則があります。今回はその中から、マーケティング施策に取り入れられる心理学を12個ご紹介しましょう。
マーケティングをするなら心理学は必須!その理由は?
マーケティングにとって心理学は、切っても切り離せない存在です。むしろ、心理学のうえにマーケティングが成り立っているとも言えるでしょう。
ランディングページを見たら思わず購入したくなった……。スーパーのチラシ商品だけが目的だったのに気付けばカゴがいっぱいだった……。
それは決して“たまたま必要だったから”そうなったわけではありません。こうしたアクションのすべては、仕組まれたものなのです。
思わず行動・購入したくなる理由や原理がわかると自社のマーケティングに活かせますし、何よりも施策を考えるのが面白くなります。
心理学あってこそのマーケティング。心理学と消費者心理を理解してマーケティングに取り組むことで、ただなんとなく考えていた施策がより現実味を帯びるはずです。
マーケティングに活用できる心理学12選
本記事で紹介する心理学は誰でも一度は経験したことがあるもの。自分の経験を思い起こしながら、これからご紹介する心理学の法則や原理を見ていきましょう。
返報性の法則
「出産祝いをもらったから、内祝いを送らなきゃ」「前回払ってくれたから、今回は私が払うね」
このように、自分がしてもらったことに対して“お返し”をしたくなる思考パターンが返報性の法則です。
特に世界的にも真面目と言われている日本人は、お返しを重んじる傾向にありますよね。返報性の法則を利用したイベントとしてホワイトデーが浸透しているほどです。
企業視点では顧客に購入してもらう前に何かを無償で提供することで、返報性の法則を利用できるでしょう。
- 有料コンテンツを販売する前に、無料で動画やPDF資料を提供する
- 事前に無料のお役立ち情報を大量に提供し、有料商品に誘導する
カクテルパーティ効果
カクテルパーティ効果とは、溢れるほど大量の情報の中から、自分にとって必要そうな・都合の良い情報だけを得るという心理効果です。カクテルパーティのようなざわざわした場所でも自分の名前が呼ばれれば、はっきりと聞き取れることからこの名前が付けられています。
「40代女性、シワが気になりはじめる頃」
「中学生の子供をお持ちのママ必見!」
「今日も上司に怒られたあなたへ」
これらに共通しているのは、広告文の読者に「自分のことを言われている」とハッとさせること。自分事として捉えさせることで、多くの情報の中から企業が発信する情報を選んで見てもらえるのです。
社会的証明
楽天市場やAmazonで商品を購入しようとしているとき、ほとんどの人はレビューを読むのではないでしょうか?こうしたレビューは、企業側の解説や説明よりも信頼されています。
社会的証明は、人は気付かないうちに世間の人々が取っている行動や考え方に影響されるというもの。つまり、100人のうち99人が「正しい」といえば、それが(自分にとって)正しいものだと思い込むのです。
だからこそレビューの中にサクラが紛れ込んでいたり、大勢の指示を得るインフルエンサーをマーケティングに起用したりといった現象が起こるんですね。
- 利用者の声やカスタマーレビューを掲載する
- SNSの宣伝にインフルエンサーを起用する
- 著名人からの推薦文を掲載する
バンドワゴン効果
社会的証明とよく似た働きが、バンドワゴン効果です。こちらも大勢が選択している選択肢を、自分も選んでしまうという心理効果です。たとえばラーメン屋の前に行列ができていれば並びたくなりますし、「興行収入300億円」と聞けばその映画を観に行きたくなりますよね。
このように「みんなやっている」というのは、なぜか人に安心感をもたらすもの。実際にラーメンがそこまで美味しくなくても「美味しいかもしれない」と錯覚するのです。筆者も「みんなやってるから」と学校に持ち込み禁止のゲーム機を持ち込んで没収されました。
- 「在庫残りわずか」などのPOPを立てる
- 陳列棚を一部わざと空けておく
- 販売実績を掲載する
ハロー効果
ハロー効果とは、何かを評価するときに一つの特徴(主に権威性など顕著な特性)に引っ張られ、偏った見方をしてしまうこと。
この「ハロー(halo)」には「後光」という意味があり、対象物の後ろに挿している後光によって、本来の姿が見えていないことから来ています。
書店に訪れると著者自身の写真が表紙になっていたり、著名人のコメントが帯に書かれていたりしますが、これらもハロー効果です。本来はきちんとその中身を吟味し評価しなければいけませんが「この人が書いているなら・この人が推すなら、間違いない」と偏った評価をしてしまいます。
いち消費者として正しい評価を心がけたいところですが、マーケティング的には次のように活用できますよ。
- 権威性を強調したキャッチコピー(モデルの〇〇が愛用、ランキング1位を獲得など)
- 好感度の高い俳優をイメージキャラクターに起用
松竹梅の法則
仕事用パソコンを購入するとき、次の3つの選択肢が提示されました。多少機能の違いはあるものの、どれも仕事に支障はなさそうです。あなたなら、どれを選択するでしょうか?
A:20万円
B:10万円
C:3万円
ほとんどの人は「B」と答えたのではないでしょうか。人は松・竹・梅3つの選択肢を提示されたとき、真ん中の選択肢を選ぶという法則を「松竹梅の法則」もしくは「おとり効果」と言います。
単純に、一番購入してほしい竹プラン・あえてあまり価値のない梅プラン・高級品である松プランの3つを用意するだけなので、取り入れやすい心理学ではないでしょうか。
【事例】イギリス経済史「エコノミスト」は定期購読のオファーとして次の3つを提示しました。
A:デジタル版のみ…59ドル
B:紙版のみ…125ドル
C:紙版+デジタル版…125ドル
100人にどれを購入するかアンケートを取ったところ、次のような結果になりました。
A:デジタル版のみ…16人
B:紙版のみ…0人
C:紙版+デジタル版…84人
アンカリング効果
アンカリング効果とは、人は最初に提示された情報を基準として考えるという特性のことです。
パソコンの例でいえば、最初に10万円のパソコンを見れば「10万円」が基準になります。その後、「20万円」を見ればたとえその価格に相当するスペックがあっても「高い」と感じ、「3万円」を見ればスペックに不安があっても「お得」と感じるのです。
この特性を利用して、あえて最初に高い価格(20万円)を提示し、値引き札(「半額で10万円!」)を貼ってしまえば、売れ行きが良くなるという検証もされています。
売りたい価格よりも高い金額を提示し、後から「割引」として売りたい金額を提示する
最初に高額の商品を紹介し、後から価格の安い商品(一番売りたい商品)を紹介する
ECショップの中で一列目に高額の商品を並べる
カリギュラ効果
「このボタンを押しちゃいけないよ」と言われたら、押したくなる。そんな心理のことを、カリギュラ効果と言います。もっとわかりやすく説明すると、何かを禁止されたときに、余計にそのことを気にしてしまうというものです。
何も言わなければボタンの存在にさえ気付かなかったかもしれないのに、禁止することでボタンを認識し、しかも意識を向けさせてしまったんですね。
マーケティングでもこの心理を逆手にとって、とりわけ広告文やキャッチコピーなどで利用されています。ここでは一部ご紹介しましょう。
- 悪用厳禁!
- 男子禁制
- 【極秘】
- 痩せている人は飲まないでください
- 心臓の弱い人は見ないでください
- 押すなよ!押すなよ!
一貫性の原理
人は「自分が決定したこと・行動したことに一貫性を持っていたい。一貫性があるように見られたい」という欲求を持っています。そして無意識のうちに、一貫性のある行動や発言をしがちです。
たとえば人から何かをお願いされて「いい人だね」と感謝されたとき、その後も「いい人」であるためにお願い事を聞き続けてしまう、というものです。
マーケティングではこの原理を使用した「フットインザドア」や「フリートライアルオファー」などのテクニックがよく使われています。
フットインザドア:営業マンが簡単な質問で「はい」と言わせるのを繰り返し、最終的に契約を迫ったときに「いいえ」と言わせにくくする(思わず「はい」と言いたくなる)テクニック。
フリートライアルオファー:期間限定で無料お試しを提供し、無料期間が終わった後も有料で継続させるテクニック。
ザイオンス効果
近年SNSマーケティング等で積極的に取り入れられているのが、ザイオンス効果です。これは「単純接触効果」とも言って、その対象物と何度も接触することで抵抗感がなくなり、逆に好意を抱くようになる効果のこと。
たとえば職場で毎日会っている上司とは普通に話せるのに、別部署の上司に会うと緊張してしまうという感覚です。
SNSは広告と違い何度も無料で投稿できて、何度も消費者と接触できるツールとして、ザイオンス効果を狙ったマーケティングによく活用されています。
- SNSで最新情報やお得情報などの他に、日常の何気ないつぶやきも投稿する
- メルマガ会員に対し、定期的にメールを配信する
- 営業マンが定期的に連絡や訪問をする
ツァイガルニク効果
SNSの広告は人それぞれにパーソナライズされており、筆者の場合はマンガアプリの広告がよく表示されます。そしてかなり高い確率で、その広告を開いてしまいます。
その理由は明白で、どのマンガ広告も「続きが気になる」状態で終わるから。ドラマも毎回「このあとどうなるんだ?」というところで終わり、次週も見たりオンデマンドで一気見したりしますよね。
このように「続きが気になる」と思わせるのがツァイガルニク効果です。人は完了したものよりも未完了のものに意識が向く性質があるため、続きを知る=完了させるために、広告を開いてしまうのです。
- この女性が90日後に……
- 主人公A太郎が見たものとは!?
- 誰が50代かわかりますか?
プロスペクト理論
プロスペクト理論とは、人は「得」をすることよりも「損」をすることの方が苦痛を感じやすいという心理のことです。
たとえば1000円もらった嬉しさを数値に表すと+100ならば、1000円失った悲しさは−200です。同じ1000円なのに、得るのと失うのとでは感情が動く度合いが違います。もう1つ例を見てみましょう。
A「ジャンケンで勝てば1万円あげます!」
B「ジャンケンで負けたら1万円ください!」
C「ジャンケンで勝てば1万円あげますが、負けたら1万円くださいね」
この中でジャンケンに応じる人が多いのは、Aの声のかけ方。BやCは“損をする”ことを認識してしまうためリスクを高く感じてしまいます。
プロスペクト理論は、マーケティング施策で次のように活用できます。
「もしあなたが事故に遭ったら……」「老後の蓄えは大丈夫ですか?」と恐怖を煽る
「分割払い対応!」「安心の返金保障」とリスクの回避方法を提示する
心理学を学んでマーケティング施策に活かそう
本記事で紹介した心理学はほんの一例です。この他にも、日常のひとコマの中には心理学が散りばめられています。
より多くの心理学を学ぶことは、マーケティング施策の選択肢の幅を広げること。ときには心理学を組み合わせて、より効果的な施策を練ることもできるでしょう。
ぜひとも心理学を学び、マーケティング施策に活かしてみてくださいね。