働き方改革により、多様な働き方に注目が集まっています。特に近年は、テレワークやリモートワークと呼ばれる、会社以外の場所で働く人も増えてきました。また育児や介護の時期を迎えたとき、どのように働くのかも課題に。
そんな中で会社が従業員に提供できるものは、“働きやすい環境”です。サテライトオフィスは従業員のさまざまな要望に応え、仕事の生産性アップや多様な働き方の促進を目指せます。
今回はサテライトオフィスのメリット・デメリットと活用方法までを見ていきましょう。
サテライトオフィスとは?
サテライトオフィスとは、会社の本社や本拠地から離れた場所に設置するオフィスのことです。
「satellite(サテライト)」とは「衛星」を意味し、本拠地を中心にして周りに設置することからこの名称が付けられています。
主に郊外や地方、都市にサテライトオフィスが設置され、中には遠く離れた県外地域に置く場合もあります。
「支社」「支店」との違い
とはいえ、本社以外のオフィスといえば「支社」や「支店」もありますよね。これらとの違いは何でしょうか?
実は「支社」「支店」と「サテライトオフィス」は、設置する目的が大きく異なります。
サテライトオフィスの目的:本社以外でも働ける場所や働ける環境を作るため
支社・支店の目的:その場所でしかできない仕事をするため
たとえば、本社が東京にあり、倉庫が千葉にある場合、スムーズに商品発送をするために千葉にもオフィスを置く。これが「支社」「支店」になります。
逆に、本社が東京にあり、千葉から通勤する従業員が多い場合、従業員の通勤時間を削減するためにオフィスを置いたら「サテライトオフィス」です。
サテライトオフィスが注目される理由
少子高齢化社会と言われている日本では、年々労働人口が減少しています。企業は優秀な人材を確保するどころか、不足分の人材すら確保するのも難しいかもしれません。
その一方で、労働者の「働き方」に対する意識は大きく変わっています。お金や仕事のやりがいよりも、自分のライフスタイルの中のひとつとして「仕事」を位置付けるようになりました。
労働者が企業に合わせるのではなく、企業側が労働者の求める働き方に対応していかなければいけません。
サテライトオフィスは、そんな労働者たちの多様な働き方を実現し、そして企業と労働者がそれぞれ支え合っていく仕組みとして注目されているのです。
サテライトオフィスの種類
サテライトオフィスには次の3つの種類があります。
【都市型】
営業活動など、わざわざ帰社せずとも仕事ができるように都市に設置されたオフィス。
【郊外型】
郊外のベットタウンに設置し、従業員の通勤時間短縮や育児・介護との両立をサポートする。
【地方型】
都市部の企業が地方にオフィスを構えることで、雇用の促進や自然に囲まれた暮らしなどを実現する。
それぞれ設置場所も異なれば目的も違います。サテライトオフィスを設置する場合には、目的に合った場所を選びましょう。
総務省の「おためしサテライトオフィス」
近年は地方自治体のオフィス誘致が進んでおり、総務省は2016年から支援事業「おためしサテライトオフィス」を実施しています。
これはサテライトオフィスの設置を検討している企業向けに、総務省の選定した地方公共団体が「お試し勤務」を提供するというもの。
全国の都道府県からお試しサテライト地を選び、実際に従業員にその地域で働いてもらうことで“サテライトオフィスのお試し”をします。
サテライトオフィス開設を検討している企業はぜひ利用してみてはいかがでしょうか。
サテライトオフィス設置のメリット
働き方が多様化する時代に注目が集まり、促進されているサテライトオフィス。ここでは、サテライトオフィスを設置するメリットをまとめました。
従業員の生産性の向上
都心部で働く従業員の中には、通勤に数時間かける人も珍しくありません。満員電車に揺られながらの通勤は意外とストレスを感じるものです。
そこで郊外のベッドタウンにサテライトオフィスを設置することで、従業員の通勤時間を短縮できます。
また営業活動で外回りの多い営業マンが多数いる場合には、都心にサテライトオフィスを置いておけば、移動時間の削減もできます。
通勤手当や営業手当が出るとしても、時間は振り替えられないもの。可処分時間を増やしストレスを軽減することで、従業員の生産性の向上が見込めるでしょう。
多様化する働き方に対応
先述しましたが、サテライトオフィスは従業員の求める働き方に対応できます。
育児や介護世代の直面する課題には、たとえば「子供がよく熱を出してその度に仕事を中断」「親の面倒を見る人がいなくてしばらく休職」などがあります。
そんな状況の中で「いつ出社しても、いつ退勤してもOK」なサテライトオフィスが近くにあると「わざわざ仕事を辞めなくても、働き続けられる環境」ができます。
また最近は、あえて本社から遠く離れた地方にサテライトオフィスを構える企業も。ストレスの多い都心から離れ、自然の多い地方で暮らしながら伸び伸びと働くことを目的としたものです。
- 育児や介護で仕事を辞めたくない
- 本当は地方でのんびり暮らしたい
- 地方と都心でデュアルライフを送りたい
など、従業員は自分の求めるワークライフバランスを実現しやすくなります。
また多様化する働き方に対応できるとアピールすることで、より優秀な人材確保にもつながるでしょう。
地方創生に貢献できる
近年は、先進的な大企業ほど地方創生や地域活性化に注目するようになりました。特に「住み続けられるまちづくり」のように、地方創生とSDGsの関わりは深いです。
とはいえ、地方創生を行うにはその地方、または近辺に拠点を置かないと難しい部分があります。そこでサテライトオフィスを地方に設置することで、直接的・間接的に地方創生に貢献できるでしょう。
地方で雇用を生み出すだけでなく、豊な街づくりや自然の保護に関する活動などを、地方に置いたサテライトオフィスを拠点として行えます。
BCP対策(事業継続計画)ができる
BCPとは、自然災害・火災・テロといった緊急事態が起こった際に、スムーズに事業の復活や継続を行うための「事業継続計画」のことです。
サテライトオフィスによって二地域就業を実現することで、仮に本社が自然災害で復旧に時間がかかるとしても、機能しているサテライトオフィスで事業を継続できるようになります。
万が一の事態に備えてリスクを分散できるのも、サテライトオフィスのメリットでしょう。
サテライトオフィス設置のデメリット
メリットが多数ある一方で、やはり新たなオフィスを置くからにはデメリットもあるもの。ここではサテライトオフィス設置のデメリットをまとめました。
設置コストがかかる
サテライトオフィスも結局は「オフィス」なので、賃料や設備費などの設置コストがかかります。従業員を移住させる場合には、それに伴う費用も負担する場合があるでしょう。
サテライトオフィスの設置を検討するなら、事前に初期コスト・ランニングコストを計算すること。そのうえで、これまでかかっていた従業員の通勤手当や外回りの交通費などのコストを相殺できるのであれば理想的ですね。
本社との連絡ロスが起きる
サテライトオフィス設置後の懸念点のひとつとして、本社との連絡ロスがあります。
中には本社ではなくサテライトオフィスが本拠点となる従業員もおり、しっかりとコミュニケーションを取らないとお互いに齟齬が生じる可能性も。
サテライトオフィスを開設するなら、そこで働く従業員とのコミュニケーション手段や定期連絡の頻度、就業規則等を見直しましょう。
セキュリティ面でのリスクが高まる
テレワークやリモートワークもそうですが、従業員の“働く場所”が増えれば、セキュリティのリスクも増えるものです。
民間のレンタルオフィスをサテライトオフィスとして利用する場合は人の出入りも多いですし、脆弱なセキュリティソフトも危険です。
本社の目の行き届かない場所だからこそ、思わぬところで盗難や情報漏洩が発生する可能性もゼロではありません。
セキュリティ対策をしっかり行うだけでなく、サテライトオフィスで働く従業員のセキュリティに関する教育も強化する必要があるでしょう。
サテライトオフィスの活用方法
都市型、郊外型、地方型それぞれのサテライトオフィスは、それぞれの目的を持って機能します。ただ先述した目的や機能以外にも、サテライトオフィスを活用することも可能です。
ここでは、サテライトオフィスの活用方法を3つご紹介しましょう。
従業員が自由に働ける場所として
都心のサテライトオフィスは営業マンが利用して、郊外のサテライトオフィスはベッドタウンに住むOLやサラリーマンが利用する。これが基本の利用方法ですが、この縛りを無くして「従業員が好きなときに自由に働ける場所」として開放してみるのはいかがでしょうか。
子育て中の従業員でも都心まで来てもいいですし、外回りのない日は郊外のサテライトオフィスでのびのびしてもいいですし、ときには地方と都心を行き来して働くのもOK。
サテライトオフィスで働いても良い人とそうじゃない人の枠組みを取り払い、どの従業員にも平等に開放してあげましょう。
テレワーク場所の選択肢として
近年はコロナ禍によってテレワークの需要が増えましたが、子供のいる自宅では働きづらい、自宅ではインターネット環境がないなどの課題があります。かといってカフェで働くのもセキュリティ面で不安です。
そんなテレワーク場所の選択肢のひとつとして、サテライトオフィスを活用しましょう。
テレワークの魅力は「自宅で働ける」ことではなく「自分で働く場所を選べる」ことなのです。
新しいコミュニケーションの場として
本社では部署ごとに階や部屋が分かれているかもしれませんが、サテライトオフィスではその壁を取り払ってみてください。
どの部署・部門・役職の人でも、同じ目線で働き、交流できる。そんな新しいコミュニケーションの場として活用してみましょう。
席をフリーアドレス制にしたり、サテライトオフィスだけでのイベントを開催したりすると、従業員間の交流が活発になります。
ただし、民間のレンタルオフィスをサテライトオフィスに利用する場合、もしくはコワーキングスペースとして一般開放する場合などには、セキュリティ対策は厳重にしておきましょう。
サテライトオフィスで可能性の追求を
今、社会は働き方が大きく変わろうとしています。これまで「会社に出勤して残業して帰る」という当たり前が変わり、従業員一人ひとりが自分らしい働き方を追い求めているのです。
サテライトオフィスは、一見するとただオフィスを増やしただけかもしれません。しかし従業員が自分の働き方を見つめ直すための機会を与えてくれるものです。
企業としてもサテライトオフィスを賢く活用して、従業員や社会、地域などに貢献していきましょう。