従業員一人一人の知識を共有・活用し、企業全体としての生産性を高める取り組みに「ナレッジマネジメント」があります。
実は、どの企業にも昔からある朝礼や定例、親睦会なども、ナレッジマネジメントのひとつ。
ここでは、ナレッジマネジメントの概要から進め方までわかりやすくご紹介しましょう。
ナレッジマネジメントとは?意味を簡単に説明
ナレッジマネジメントとは、従業員(正社員からパート・アルバイト、派遣社員まで)の個人が持つナレッジ=知識や情報を、会社全体で共有して活かす経営手法のことです。
ナレッジマネジメント「Knowledge Management」から略称「KM」と呼ばれることもあります。
情報の共有といえば、朝礼でその日の業務を確認する、先輩が後輩に教える、ミーティングで報告をする……などが挙げられますが、ナレッジマネジメントは単純なものではありません。
知識を共有し覚えるだけでなく、各自が実際の体験を通して身に付け、さらに体験で得た経験から新たな知識を手に入れ、また共有していくという循環が生まれます。
「暗黙知」を「形式知」へ
ナレッジマネジメントで扱う知識には次の2種類があります。
暗黙知:はっきりと言語化・明示化されておらず、経験や直感に基づく知識。
形式知:明確な言語・数字・図式で明示されている知識。
暗黙知は言葉で表しにくい(あるいは言い表してもその意味を他人に伝えにくい)知識です。
そこでナレッジマネジメントでは、知識の中で言語化が難しいとされている「暗黙知」を、言葉や数字で表せるような「形式知」に変換して共有していきます。
ナレッジワーカーという意識
知識や情報は、人が活用してこそ初めて役に立ちます。そのため、知識を活用する組織の人間を「ナレッジワーカー」という意識で捉えなければいけません。
ナレッジワーカーとは、日本語に置き換えると「知識労働者」のこと。ナレッジワーカーには、次の2つの側面があります。
- ナレッジコントリビューター(知識提供者)
- ナレッジユーザー(知識利用者)
「自分だけが必要な知識を持っていれば良い」「この知識は得意な人が扱えば良い」と独善的な考えを持つのではなく、全員で知識を共有し、組織単位で提供・利用のサイクルを回すことが、ナレッジマネジメントを成功させる秘訣です。
ナレッジマネジメントのメリット
終身雇用を前提とした雇用システムが崩壊し、現代では働き方が大きく変化しています。そんな時代だからこそナレッジマネジメントは注目されており、正しく行えば多くのメリットを得られるでしょう。
ここでは、ナレッジマネジメントのメリットをご紹介します。
企業全体の生産性向上
社内で最も知識や経験を持っているのは、ベテラン従業員だと言えます。しかしベテラン従業員がその他の従業員一人一人を指導することは、現実的には難しいです。
そこでベテラン従業員が培ってきた経験を体系化し、マニュアルとして形式知に落とし込むことで、企業全体の生産性向上を図れます。
また先輩や上司への質問が難しい在宅ワーク等において、マニュアル化されたノウハウが大きく役に立つでしょう。
従業員の教育促進
ナレッジマネジメントを始めた当初はまだ数少ない知識でも、今後知識を蓄積していくことで、従業員の教育促進につながります。
新入社員に対し、社員研修を行う企業も多いかもしれません。毎年同じような社員研修を行うのではなく、研修内容をじっくり見直して毎年アップデートすることで、より効率的に若手を育成できます。
ベテラン従業員でもこれまで知らなかった知識を吸収する機会が生まれ、年代問わずさらなるスキルアップも目指せるでしょう。
ビジネスへの活用
従業員がシェアした知識は、社内の変化だけでなく、ビジネスにも影響を与えられます。
従業員の持つ知識の中には、経営者だけでは気付けなかった視点があるかもしれません。その視点に気付くために消費者を対象にした市場調査があります。
しかし、会社や製品のことをよく知り、会社に合った方法を見出せるのは消費者よりも従業員です。
従業員の知識を活用することで、既存事業の改善策を見つけられたり、新規事業の開発アイデアを思いついたりなど、ビジネスグロースに役立つでしょう。
組織風土の改革
誰でも意見を述べられて、相談しやすく、挑戦しやすい環境を作りたい。そんな組織風土の改革にもナレッジマネジメントは役立ちます。
自分の知識をシェアする機会や他人の知識から学ぶ機会があることで、おのずと思いやりの精神が育つもの。「自分が良ければ良い」という考えから「チームみんなで高め合う」という意識が生まれ、協力しながら働きやすい組織になるはずです。
知識の蓄積はもちろんのこと、風通しの良い組織づくりを目的としてナレッジマネジメントに取り組んでみるのも良いかもしれません。
ナレッジマネジメントのデメリット
一方で、ナレッジマネジメントを行ううえでのデメリットもあります。
次に紹介するデメリットをきちんと踏まえたうえで取り組まないと失敗しやすく、従業員の育成に時間がかかったり、社内の風土が悪化して従業員の離職につながったりすることも。
取り組む前にデメリットと対策を把握しておきましょう。
知識共有のための業務負担が増える
ナレッジマネジメントを行うためには、通常の業務に加え、知識共有や体系化のための業務が生まれます。
この業務は一部の従業員に任せられるものではなく、社内一丸となって取り組まなければなりません。すると、社内全体の業務負担が増えることになるでしょう。
すでに通常の業務でスケジュールがいっぱいになっていたり、残業でもしないとその日の業務が終わらないような状況では、ナレッジマネジメントを行う余裕がありません。
まずは従業員一人一人のキャパシティに余裕を持たせておくことが必要。そしてナレッジマネジメントをスムーズに行えるような体系を整えましょう。
成果主義との相性が悪い
ナレッジマネジメントの成功とは、従業員の知識は組織全体で共有するものという意識を持ち、知識を活用してイノベーションを起こすことです。
しかし実はこの考え方は、成果主義との相性が悪いと言えます。成果主義の企業は「同僚がライバル」という意識を持っているため、自分の知識を共有することを嫌がる従業員の方が断然多いでしょう。
また成果主義の企業でなくとも、個人で成果主義を掲げる従業員がいれば、その周りで不穏な空気が生まれることもあり得ます。
社内風土の見直しや従業員一人一人に対するケアも必要になるでしょう。
ナレッジマネジメントのプロセス「SECIモデル」
ナレッジマネジメントのプロセスは「SECIモデル」と言われます。
- Socialization(共同化):暗黙知から暗黙知が生まれるステップ。個々が持つ知識を互いに共通・共感し合う。
- Externalization(表出化):暗黙知を形式知に変換するステップ。共通の知識から言葉や図で表現された知識を作る。
- Combination(連結化):形式知を形式知と結びつけるステップ。既存の知識と新しい知識を組み合わせて、体系的な知識を創造する。
- Internalization(内面化):まとまった形式知が、個人的な暗黙知へと変わるステップ。体系的な知識を実際に体験することで身に付けていく。
Socialization(共同化)は、しばしば「親方と弟子が一緒に作業をすること」と例えられます。親方はその姿を弟子に見せることで、弟子は自分の中で暗黙知を形成していきます。
Externalization(表出化)は、最初に得た暗黙知をマニュアルに落とし込むこと。しっかりと言語化・明示化することで、誰にでも説明できる状態にします。
Combination(連結化)は、作成したマニュアルとまた別のマニュアルを比較し、よりわかりやすくブラッシュアップすることとイメージできるでしょう。
Internalization(内面化)は、マニュアルを実践しているうちに、自分の中でコツやノウハウが生まれること。この新たな暗黙知は、次の共同化によってさらに循環していきます。
ナレッジマネジメントに活用できるツール
ナレッジマネジメントを実施するためには、以下のようなツールを利用するのが便利です。
- チャットボットを利用した社内ヘルプデスク
- 情報検索ツール
- ナレッジ蓄積ツール
- 社内動画教育ツール
参考:ナレッジマネジメントとは?理論モデルや事例、成功のコツを解説|さっとFAQコラム
こうしたツールを利用して社員のスキルや知識を体系化し、社内FAQや教育マニュアルを作成することで、業務の属人化を防ぎ、業績の向上・業務効率化が期待できます。
ナレッジマネジメントによって業務を効率化・成果を最大化
ナレッジマネジメントは片手間でできるような経営手法ではありません。しかし実践することによって、組織全体で業務を効率化でき、さらにイノベーションを起こして成果を最大化できます。
組織としての利益を高められるだけではなく、従業員一人一人の成長も促進するでしょう。
「全員で高め合う」という意識を持って、ナレッジマネジメントに取り組みましょう。