「世界一の民藝」小鹿田焼の魅力と窯元巡り全9軒を徹底ナビ

民藝運動の中心人物、柳宗悦(やなぎむねよし)の『日田の皿山』という紀行文で「世界一の民陶」と評された「小鹿田焼(おんたやき)」。300年前から続く、手作業による製法が今も受け継がれています。

そんな小鹿田焼の魅力と、窯元ごとの特徴を余すところなくご紹介いたします。

目次

【小鹿田焼とは?】

小鹿田焼とは、大分県日田市で作られている焼き物のこと。「小鹿田焼の里」と呼ばれる小さな集落で、300年の伝統を受け継いでいます。

江戸時代、日田の代官が、福岡県の「小石原焼(こいしわらやき)」の陶工だった柳瀬三右衛門を招いたことから、小鹿田焼は始まりました。ですので小石原焼とは兄弟窯にあたります。

その後、黒木十兵衛を筆頭に開窯に向けて動き出します。まず土地を持っていた坂本家が、柳瀬家と黒木家に土地を提供し、両家が作陶を開始しました。坂本家はそれから100年後に作陶を開始。現在ではこの3家と、黒木家の分家にあたる小袋家が作陶をしており、窯元は全部で9軒になります。

はじめは領内の日用品の需要に応えるためにつくられていましたが、民藝の提唱者である柳宗悦から「世界一の民陶」と評され、世界的に有名に。1995年に国の重要無形文化財、2008年に「小鹿田焼の里」が国の重要文化的景観に選ばれました。

小鹿田焼の里の様子。

土の採取をすることから、小鹿田の器作りは始まります。十数軒の小さな山間の集落で営む小鹿田焼は、他の地域の土は一切使わず、集落の付近で採れたものだけで作られています。

川の水で唐臼を動かし、器の原料となる土を粉砕します。杵の先端にある受け皿に一定の水が貯まると杵が下がり、水があふれると反動で杵が持ち上がります。その際に臼に入った土が粉砕される仕組みです。

手前のくぼみが臼となっています。

粉々になった土を貯蔵庫でろ過して、天日干ししたものを使います。

蹴轆轤の様子。

轆轤を蹴って回す「蹴轆轤(けりろくろ)」を使って器を成形。

その後、「登り窯」と呼ばれる窯で焼きます。このように電気などは一切使わず、最初から最後まですべて手作業で行われています。

【代表的な技法】

小鹿田焼には、その伝統的な技法として「飛び鉋」、「刷毛目」、「櫛描き」、「指描き」、釉薬の「流しかけ」などがあります。器に化粧土の定着を良くするため、鉋や刷毛、櫛を使って模様をつける技法が生み出されました。

飛び鉋

「飛び鉋(とびかんな)」とは、化粧土を塗り、ろくろで回転させた器に工具の刃先をあて、連続した削り目を生み出すこと。

福岡にある兄弟窯の小石原焼とも共通する技法で、小鹿田焼を代表する模様です。

坂本浩二窯の植木鉢。

器全体にびっしりとあしらわれた飛び鉋。非常に細かくほどこされており、ドットのようにも見えることも。

飛び鉋で模様をつける過程がよくわかる、坂本拓磨さんのInstagramの投稿です。

繊細な模様があっという間にできあがっていく様は圧巻です。

刷毛目

化粧土を刷毛で塗って作られた模様を「刷毛目(はけめ)」といいます。

坂本創さんの作品です。刷毛目が綺麗にそろっています。

刷毛の流れによって色の濃淡やかすれが生まれ、手仕事ならではの活き活きとした印象に。

櫛目

櫛でつけた模様が「櫛目(くしめ)」。

坂本創さんの作品です。リズミカルな櫛目が印象的。

器のデザインのアクセントとして使われることが多いです。

指描き

指で模様をつけるため、自由な線を描けるのが「指描き」の特徴。規則的なものから大胆なものまで、幅広いデザインがあります。

指描きで模様をつける過程がよくわかる、坂本創さんのInstagramの投稿です。

指描きならではの味わい深い模様が素敵です。

釉薬の流しかけ 

釉薬をひしゃくで流しながらかけることを「流しかけ」といいます。

坂本拓磨さんの作品。刷毛目の上から、釉薬が流しかけられています。

流しかけることによって思わぬ柄になるところが「流しかけ」の魅力。何色も重ねることで様々な表情を生み出すこともできます。

【9軒の窯元について】

小鹿田焼の里では、現在坂本家・黒木家・柳瀬家・小袋家の4家で作陶しており、全部で9軒の窯元があります。

数軒の窯元が合同で器を焼く、「共同窯」という大きな窯と、窯元自身が窯をもつ「個人窯」があります。

坂本浩二窯・柳瀬晴夫窯・柳瀬裕之窯・黒木昌伸窯・黒木史人窯が共同窯。坂本工窯、坂本健一郎窯、坂本傭一窯、小袋定雄窯が個人窯です。

共同窯の様子。薪をくべているのは黒木昌伸さん。
昼も夜も火を絶やさないようにします。

窯によって、一年通して器を焼く回数もタイミングも違います。

同じ小鹿田焼でも、人となりと同じように、それぞれ窯ごとに異なる魅力や持ち味があります。次の章では、窯元ごとの特色についてご紹介します。

【坂本浩二窯】

坂本浩二さんは里のなかでも一目置かれる存在。小鹿田焼協同組合の副理事長を務めていらっしゃいます。

焼き物は大きくなるほど歪みなどが出やすく、高い技量を要します。そんな大物の壺や皿つくりを得意としている浩二さん。

EDiTでは浩二さんへの単独インタビュー記事もあるので、あわせてご覧ください。

浩二さんへの単独インタビュー記事はこちら「変わり続けることで、守られる伝統」

息子の拓磨さんは釉薬について日夜研究。遊ぶようにリズミカルな釉薬使いが魅力。

夏目坂珈琲オリジナル商品のカップ&ソーサーと植木鉢。すべて坂本拓磨さん作です。

坂本浩二さんと拓磨さんの作品は、夏目坂珈琲の店舗とオンラインショップでも販売中です。

飛び鉋をあしらったデミタスカップや、ダイナミックな釉薬使いの植木鉢などを扱っていますので、気になる方はこちらもチェックしてみてください!

ご購入の方は、夏目坂珈琲オンラインショップ

【坂本工窯】

繊細な装飾と、どっしりとした存在感を併せ持つ坂本工窯の器。

坂本工窯の作品たち。

小鹿田焼には5軒からなる共同窯がありますが、坂本工窯は個人窯。

坂本工窯の登り窯。

当主の工さんと息子の創さんが作陶しており、工さんは小鹿田焼協同組合の理事長でもあります。

坂本工さんの息子の創さん。

創さんはインスタグラムで発信したり展示会を開いたりなど、小鹿田焼の発信に熱心な次世代を担う若手(坂本創さんのInstagramアカウント)。

縦横のラインを生かした美しい刷毛目から、踊るように自由な指描きなど、小鹿田焼の枠を超えた作品も多いです。

黒木昌伸窯】

スタイリッシュでモダンなデザインが特徴です。
黒木昌伸さん。

共同窯のひとつ。作業場は共同窯の真横にあります。お皿だけでなく壺や片口、傘立てなどもオススメ。流れるような刷毛目によってモダンな印象に。上品で繊細な趣があり、食卓を華やかにしてくれます。

柳瀬裕之窯】

ころんと可愛らしいフォルムの水差しやお茶碗たち。
笑顔が素敵な柳瀬裕之さん(中央)、同じ窯を使っている黒木昌伸さん(左)、坂本拓磨さん(右)

共同窯のひとつ。作業場は共同窯の向かいにあります。一点でも存在感を放つ、釉薬の流し掛けが作る大胆な模様と、どこかほっこりする温かみのある色味が特徴的。 

【坂本健一郎窯】

素朴ながらもどこかモダンなデザインの水差し。

お母様との二人仕事で営まれている窯。繊細で上品な櫛目や刷毛目が特徴です。器の用途に合わせ、軽い方が使いやすいものは軽く、重みがあるものが良い場合はどっしりとした構えで作られています。箸置きやピッチャー、ビアカップなど、幅広い器があります。

柳瀬晴夫窯】

小鹿田焼の開祖のうちのひとり、柳瀬三右衛門から数えて13代目にあたるのが柳瀬晴夫さん。飛び鉋や刷毛目の上から釉薬をかけた、モダンでポップなデザインが魅力。

黒木史人窯】

共同窯のひとつ。史人さんは黒木窯の12代目にあたります。さまざまな色の釉薬と、飛び鉋や櫛目のポイント使いによる、スタイリッシュな器が魅力。

小袋定雄窯】

父の定雄さん、息子の道明さんのお二人の窯。器全体に飛び鉋や刷毛目がほどこされ、素朴な味わいの器が多いです。長皿や角皿など、一味違った小鹿田焼のお皿を楽しめます。

坂本庸一窯】

シンプルな飛び鉋と、器の縁の釉薬がアクセントになり、素朴ながらもどこかモダンな印象の器が魅力です。

【小鹿田焼の里へのアクセス〜レンタカーがおすすめ

小鹿田焼の里は大分県日田市源栄町皿山にあります。

福岡空港から電車かバスでJR日田駅へ。どちらの場合も所要時間は1時間30分ほど。日田駅からは日田バスの小鹿田線皿山行きに乗り、終点で下車。バスの所要時間は40分ほど。終点で降りるとちょうど里の中心に着きます。

大分空港からの場合はレンタカーなど車がオススメ。一般道利用で日田ICまで約3時間(約100km)、
高速道路利用で約1時間30分です。日田ICからは国道212号、県道107号経由で、約25分(約15km)。小鹿田焼の歴史を知ることができる「小鹿田焼陶芸館」という資料館に駐車場があるので、そこに車を停められます。

窯ごとの営業時間は、それぞれの窯ごとや日ごとに違う場合があるので、事前に確認することをオススメします。

【小鹿田焼の里マップ〜おすすめの歩き方〜】

小鹿田焼の里は端から端まで歩いて10分かからないほどで着く、小さな集落です。

小鹿田焼の里の地図。

朝イチで小鹿田焼陶芸館に行き、小鹿田焼の歴史について予習してから窯元を回ると、器の魅力をより楽しめます。こちらには駐車場もあるので、車を停めるためにも、まずはこちらに立ち寄るのが良いと思います。

小鹿田焼陶芸館 

営業時間   

・9:00〜17:00

・水曜日、年末年始(水曜日が祝日に当たる場合は、その翌日)定休

 積雪等により、臨時休館する場合があるので、詳細は日田市教育庁文化財保護課(0973-24-7171)へお問い合わせください。

 

飲食店は「山のそば茶屋」というお蕎麦屋さん一軒のみ。小鹿田焼が楽しめる器でお蕎麦をだしてくれます。

一軒一軒じっくり見てからお蕎麦屋さんで昼食をとるもよし。早めの昼食を食べて休憩してから、また窯元をめぐるもよし。

山のそば茶屋

営業時間

・11:00〜15:00くらいには終了

・不定休 (行く前に事前確認することをオススメします。)

山奥なのでバスの本数が少なく、近くに宿泊施設などもないので、日が暮れる前に帰るのが良いと思います。

ちなみにお手洗いは小鹿田焼陶芸館と、坂本浩二窯ちかくの公衆トイレしかありませんのでご注意を。

毎年10月の第2週の週末には、「小鹿田焼民陶祭」というお祭りがあります。普段よりも多くの器がならぶ一大イベントです。社会情勢のため、今年を含め3年連続お休みですが、再開されたらぜひそちらにも足を運びたいですね。

職人さんの作業姿を見られたり、お話しながら器を選べたり。里ならではの楽しみ方をぜひ味わってみては?

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