ファッション、ビューティ、ライフスタイル……。今、あらゆる分野でオウンドメディアが注目されている。本連載では、なかでもひと際目立つオウンドメディアを手掛けるキーパーソンにインタビューを敢行。
第1回目は、マニッシュかつクールなスタイルで、20〜30代の女性に絶大な人気を誇るファッションブランド「JEANASIS」のオウンドメディア、JEANASIS MEDIA を運営・統括するプレス担当の久保江由貴さん。
なぜ今オウンドメディアが必要とされているのか、唯一無二のメディアを作るためにどのような工夫を施しているのか。デジタルマーケティングが注目されている現代において、オウンドメディアに対する考え方を問うてみた。
JEANASIS MEDIA
JEANASISはカルチャーとファッションを楽しむ株式会社アダストリアのファッションブランド。ぶれない強さの黒と、品のある白を軸に、シャープでこびない服を展開。マニッシュでクールなスタイルの中に、芯のある女らしさを表現している。JEANASIS MEDIAは、2016年に立ち上げられたJEANASISの公式オウンドメディア。2018年から、株式会社ガーデンエイト、株式会社AtoJ、株式会社ロースターの4社体制で運営をしている。
http://www.dot-st.com/cp/jeanasis/jeanasis_media
久保江由貴(くぼえ・ゆき)
2010年株式会社アダストリア(元株式会社ポイント)に入社。2年間のショップスタッフを経て、ジーナシスのプレスに。JEANASIS MEDIAの運営を担当し、年間のプラン設計やSNSの更新、ノベルティやイベントの企画まで幅広く担当する。趣味はヨガ、銭湯、カープ観戦。趣味が高じ、2019年11月にヨガインストラクターの資格を取得するなど、自身のライフスタイルにおいてもマルチな活動をしている。
https://www.instagram.com/kyasa_yuki/?hl=ja
一方通行の発信はもう古い。
-まず始めに、ジーナシスメディアを立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。
久保江 ブランドの歴史をアーカイブとして残していく場所を作りたいと思ったことがきっかけです。ジーナシスは「異性に媚びないスタイル」「同性から支持されるブランド」という2つのコンセプトを軸にしているブランド。モードでエッジを効かせたスタイルを表現し続けていきつつ、そこに時代に合わせたエッセンスを加えていくことで、お客様を飽きさせないよう変化を加える。
そんな私たちの歴史を、お客様にも見ていただける場所があればいいなという思いから、2016年にオウンドメディアを立ち上げました。また、情報過多になっている今の世の中だからこそ、ジーナシスに関する様々な情報が1つに集約されている場所が必要だなと感じたこともきっかけの一つですね。
-ブランドのまとめ役としてオウンドメディアを立ち上げたんですね。
久保江 はい。立ち上げ当初はブランド認知の目的が強く、月に1回くらいの頻度で更新していたのですが、その頃からだんだんと他企業が、コンテンツを新聞みたいにデイリーで更新するようになってきたなと感じるようになりました。でもその時、ただブランドがデイリーで配信する一方通行な発信の形は、メディアとして古いんじゃないかと思ったんです。
そうじゃなくて、もっとお客様に寄り添った形が必要だと。私たちが仕事としている「ファッション」って、身につけるとワクワクするものですよね。だからこそ、お客様にそんなワクワクを届けることを一番大事にしたいなって。
だから、お客様に「ワクワクとトキメキ」を届けることで、お客様の「共感」を得られるような媒体にしていきたいと考えるようになり、2018年頃からはそんなコンテンツを週に1回のペースで届けるようにしていきました。
「餅は餅屋」。ファッションに絞ったコンテンツに。
-なるほど。2016年の立ち上げから現在に至るまで、コンテンツの作り方はどんどん変化しているのですね。
久保江 はい、変わりましたね。2016年は、ジーナシスのブランド理解だったり世界観の表現を伝えるコンテンツを制作していました。ECサイトだと、どうしても購入への導線を短くすることにフォーカスを当てがちになってしまうので、ECサイトでカバーできない部分をオウンドメディアで補っていくような形にしていました。
その当時は、シーズンに合わせたヘアメイクのHOW TO企画や、コラムなどのコンテンツを配信していたのですが、お客様に刺さっている手応えがあまりなく……。「餅は餅屋」という言葉があるように、ジーナシスメディアはファッションという軸をぶらしてはいけないなと、その時に気付かされましたね。
そこから、ファッション市場のトレンドを絶対に逃さず、かつジーナシスのエッセンスを必ず加えるということを大事にしてコンテンツ制作をするようになりました。常に「半歩先の提案をする」ということが今のジーナシスメディアの使命だと思っています。
-「半歩先」という言葉はよく耳にしますが、具体的に「半歩先」をどのように捉えていますか?
久保江 例えば、2019年の4月に「PLAY LAYERED!」という企画でレイヤードスタイルを打ち出したんですけど、実はその頃、レイヤードスタイルって世の中に全然浸透してなかったんです。夏にレイヤードなんて、普通に考えて暑いじゃないですか(笑)。
でもお客様にぜひ楽しんでもらいたいという思いがあって、まだ流行ってない時にあえて切り込んでローンチさせたんです。その企画では、その期間中にお客様が目にするSNS、WEB、店舗の演出までが同じ見え方になるようなクリエイティブに挑戦しました。
その結果、SNSから店舗までが繋がったことによって入店数も増加したり、お客様とスタッフのコミュニケーションツールにもなり、「日経クロストレンド」の「高校生、大学生の19年上半期ヒット」にワンショルダーがご指名で声が上がったりと、反響がものすごくて。この事例って、ジーナシス単独で仕掛けたものが世の中にしっかり発信できたという証明だと思っていて。まさに、「半歩先」の提案ができたなと思っています。
-狙い通りですね。ロースターが加わった2018年以降、ファッション周りのライフスタイル全般から、ファッションに特化する方向に振り切ったように感じられます。
久保江 そうですね。よりクオリティの高いコンテンツを制作していくために、まずはロースター代表の大崎さんに相談しました。その上で、ファッションを軸にした媒体へ変換する判断をしました。あの時の判断は結構大きいものだったなと思っていて、思い切ってトライしたのは本当によかったと思っています。
今はロースターの杉江さんたちが、ファッションを軸にしたキャッチーな企画をたくさん考えてくださっているのも本当に大きいです。ロースターさんと常日頃からコミュニケーションを取れているからこそ、何気ない会話の中から生まれる発想もたくさんあるので、お互いの意見の擦り合わせの時間もすごく大切にしています。
-ちなみに、今のオウンドメディアは具体的にどのような体制で進めているのでしょうか?
久保江 現在のジーナシスメディアは、デザイン会社のガーデンエイトさん、コーディング会社のAtoJさん、制作会社のロースターさん、弊社含め4社で構成されています。
ガーデンエイトさんは類を見ないようなスペシャリティなデザインを、そしてAtoJさんが最終的に全てを紐付けていくコーディング作業を担ってくれています。やはり社内だけではあそこまでのクオリティは出せないので。
最も大切なことは「今やるべきか」を判断すること。
-現在のジーナシスメディアのコンテンツは、どういった構成になっていますか?
久保江 ジーナシスメディアのコンテンツは、月に1回配信する外国人モデルを起用した企画モノと、日本人モデルを起用した企画モノの2つに分けています。
画面で見せるスタイリングと、実際に店舗での購入を促すスタイリングって、全然違うものだと思っていて。外国人モデルを起用して思いっきりエッジを効かせたお客様に刺さるスタイリングと、日本人モデルを起用して雑誌感はありつつもお客様にとってよりリアルなスタイリング、この2種類を配信するようにしています。
それこそ、ロースターさんが2つのビジュアルイメージの強弱を戦略的に考えた企画を出してくれていますね。モデルに関しても、シーズンと企画に合っているか、そしてそのモデル自体のニュース性があるか否かも結構大事なポイントだと思っています。ロースターさんは、私が知らなかった素敵なモデルをいつも発掘してくれるので、毎回驚かされます。
-なるほど。企画について、久保江さんが気をつけている点などはありますか?
久保江 「今のタイミングで配信するのにふさわしいコンテンツかどうか」はすごく気をつけているポイントですね。コンテンツ自体が面白くても、市場の需要とタイミングが合わなければ意味がないと思っています。なので、ディレクションテーマと市場トレンドは並行して考えています。
「ジーナシスらしさ」というフィルターは念頭に置きながらも、もっと市場トレンドを意識した切り口に変換して世に届けたり。提案された企画を色々アレンジして料理していくようなイメージです。
-色々な提案された企画を見ながら、市場の状況を踏まえて最終的にジャッジメントを下す。まるで、雑誌の編集長みたいですね。
久保江 あ〜確かに!その通りかもしれないです。昔だったら、ブランドのコンセプトをどれだけ丁寧に伝えられるかが重要だったかもしれませんが、今はそうじゃない。ジーナシスメディアは早くからそれに気付いて変化してきたので、コンテンツの完成度は高いなと思います。自分で言うのもなんですが……(笑)。
3つ(オウンドメディア・SNS・店舗)の相乗効果。
-ジーナシスさんは、オウンドメディアだけでなくSNSにもかなり力を入れていらっしゃいますが、それぞれのメディアの関係性で意識していることはあるのでしょうか?
久保江 あります。オウンドメディアと違って、SNSは毎日更新するツールと捉えていて、店舗アカウントと公式アカウント(jeanasis_official)のインスタグラムを用意しています。ジーナシスは国内に71店舗と韓国に1店舗あるのですが、店舗アカウントでは店舗スタッフの着こなしを配信したり、お客様により身近な存在として位置付けています。
スタッフそれぞれが得意なスタイリングや、それぞれの体型に合ったスタイリングを店舗アカウントを通してお客様に届けて欲しいなと考えていて。その一方で公式アカウントは、お客様にジーナシスの世界観を伝える存在であるだけでなく、店舗スタッフたちにも届けるものだと考えています。
なので公式の方は、ロースターさんで制作していただいたコンテンツの画像を投稿し、プロのスタイリストさんが手を加えるとこんなに魅力的に見えるんだ!という、お客様だけでなくスタッフにとっても教科書のような存在になるように意識して作っていますね。
-なるほど。まさに社員教育!SNSはお客様に寄り添った場所というだけでなく、スタッフにもブランドのコンセプトをより浸透化させる働きをしているんですね。
久保江 そうですね。インスタグラムのフォロワーも増えてきているので、インスタグラムだけじゃ完結しないクリエイティブをジーナシスメディアに繋げていく。そして先ほどお話した「プレイレイヤード」の企画のように、店舗を巻き込んだクリエイティブによって、ジーナシスメディアを見たお客様を店舗に繋げていく。
そうすると、オウンドメディアを中心に、SNS・オウンドメディア・店舗という流れができて、スキームとしてはすごく綺麗にまとまっているかなと思いますね。企画を考えるときには、全てを切り離さないで考えるようにしています。
「ロースターの社員はオタク度が高いです(笑)」
-ロースターがオウンドメディア用に作ったコンテンツは、うまくSNSや店舗にも使われているのですね!ちなみに、ロースターにはどのような印象をお持ちですか?
久保江 一言でいうなら、「アットホームな会社」です。意見を言いにくい雰囲気とか、気を遣わなきゃいけない雰囲気が全くないなと思いますね。違和感を感じつつも意見を言いづらい現場って、その空気感が作品にも伝わってしまうと思うんですけど、そういうものが一切ない会社だと思います。
-なるほど。「編集長」的な立場である久保江さんから見て、ロースターの編集スタッフはどのように映っていますか?
久保江 現在、ジーナシスメディアを担当してくださっているお二人は、私にはないオタク気質なところがあるなと思います(笑)。欲しい画を形にするためのノウハウや情報量がしっかりあるので、それが常に面白い企画のクオリティや、モデル選びの鮮度の高さに繋がっているんだなと。
杉江さんは、すごくまっすぐで真面目。一つひとつの企画を作品のように捉えてくれているなという印象があります。
一番それを感じたのがMottyさんとのコラボ商品の撮影の時で、撮影のためだけにスタジオの半分以上を占めるくらいの巨大なトランポリンを用意してくださっていて!(笑) 安全性とか全てを考えた上でのあのサイズだとお聞きして、常に深くまで考えてくれているんだなと思いましたね。
-久保江さんのディレクションが、期待に応えたくなるようなチーム作りに繋がっているのかもしれませんね。
久保江 キャプションやテキストにエッジが効いていて、ジーナシスの世界観に合わせて書いてくれているのが伝わってきます。小曽根さんはすごくキャッチが上手だと思う。本当に素直で、自分が違うと思ったことに対してしっかりと向き合っているし、感動したものに対してもすごくピュアに反応していて、その向き合い方がとてもいいなと思います。
-撮影の際、写真に対して何か感じることはありますか?
久保江 いつも日本人モデルを起用した企画モノの撮影をしてくださっている藤井さんの写真は、もう大好きでファンです(笑)。ファッションの写真って、印象に残らずに消費されてしまう部分があると思っていて。
でも藤井さんの写真は温かみがあって、グッと引き込まれるような感覚が毎回あるんです。ジーナシスのエッジの効いたスタイリングに、情緒的な良いムードをプラスしてくれていて、お客様の心の隙間にスッと入り込んでいくような作品に仕上げてくださっているなと思いますね。社内の他ブランドのメンバーからも、「写真すごく良いよね!」って言ってもらえています。
ジーナシスメディアのこれから。
-立ち上げから現在に至るまで、たくさんの進化を遂げてきたジーナシスメディアですが、これからのジーナシスメディアの形としてはなにか目標はありますか?
久保江 これから5Gの時代になっていくと同時に動画需要が増えていくだろうという予想をしています。今まで築いてきたベースはぶらしたくない、だからと言ってHOW TOコンテンツはもう既視感があるし、シーズンムービーも果たしてお客様が求めているものなのかなと考えると、ちょっと違うんじゃないかなと思う。なので、ファッションを軸にした動画コンテンツをどう落とし込んでいくかがこれからのジーナシスメディアの課題かなと思っています。
あとは、ビジネスのツールが今後どのような形になってくるのか。インスタグラムが流行っているからこそ今行っている戦略は通用すると思うんですが、これからのビジネスツールの形がどのように変化していくのかということも、常に頭に入れています。
-難しいところですよね。でもお話を聞いていると、久保江さんの判断はいつも早くて、常に先を見据えて動いているように感じます。
久保江 常に鮮度のあるコンテンツを出していかなければならないと思っています。新しいファッションを配信していくのがジーナシスメディアの在り方だと思っているからこそ、次を考えて動くことは大切にしていますし、私自身もそれを楽しみながら仕事をしています。
年々ジーナシスメディアに対するお客様の期待値も上がってきているので、これからもロースターさんの力を借りながら、変化を起こし続けるクリエイティブを生み出していきたいと思っています。
企画・インタビュー:大崎安芸路(ロースター)/編集:杉江はるよ(ロースター)/文:川崎きさら(ロースター)/写真:藤井由依(ロースター)