『週刊じゃらん』編集長が語る、アプリマガジンの大改革を動かす編集力とは?

デジタル化が進む現代において、今、紙媒体も続々と電子化が進められている。そこで今回は、WEB&アプリマガジンに焦点を当てたインタビューを敢行した。取材したのは、株式会社リクルートライフスタイルが発信するアプリマガジン『週刊じゃらん』の編集長を務める石橋亜弥さん。

今年で創刊30周年を迎えた、国内の旅行や宿泊施設はもちろん、お出かけ情報などを紹介する旅行情報誌『じゃらん』のアプリ版マガジンとして2012年から8年間運営をしてきた『週刊じゃらん』。そんな歴史ある媒体が、2020年4月2日よりリニューアルし、配信をスタートさせた。弊社ロースターは、アプリリニューアルに向けて約1年前より参画し、コンテンツを主軸に編集・制作のディレクションを担当させてもらっている。

『週刊じゃらん』が、なぜ9年目の春にリニューアルを実施したのか。新たに踏み込んだ挑戦の背景には、どのような苦労や葛藤があったのか。今回は、クリエイティブディレクターとして携わったロースターの大崎安芸路がインタビュアーとして、リニューアルの指揮をとった『週刊じゃらん』の編集長・石橋亜弥さんにお話をうかがった。

 

週刊じゃらん

旅行情報誌『じゃらん』は、株式会社リクルートライフスタイルが企画・編集する旅行情報誌。現在、関東・東北版、東海版、関西・中国・四国版、九州版を月刊誌として発行しており、その他ムックシリーズなど、全国各地の旬のお出かけ情報を紹介している。『週刊じゃらん』は、2012年に立ち上げられた『じゃらん』のアプリ版マガジン。2020年4月2日にリューアルを遂げ、毎週木曜日に最新の旅行・お出かけ情報を配信している。

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石橋亜弥(いしばし・あや)

2014年株式会社リクルートライフスタイルに中途入社。約5年間ネットビジネス本部にてウェブマーケティング担当としてオウンドメディア立ち上げなどを経た後、2019年に『週刊じゃらん』の編集長に就任。自身のネットビジネスの知見を活かしながら、編集長として『週刊じゃらん』の統括を務めている。

 

目次

質の高いコンテンツを、新たな読者へ届けるために

 

−まずはじめに、『週刊じゃらん』とはどんなメディアなのでしょうか?

 

石橋 『週刊じゃらん』は、全国の旅行・お出かけ情報が見れるアプリマガジンです。紙媒体である『じゃらん』の情報をアプリ向けに再編集したメディアです。『じゃらん』は月刊誌で、毎月1日に各エリアごとに発売をしているのですが、『週刊じゃらん』では、毎週木曜日に全国の情報を配信しています。

 

−長い歴史のある『じゃらん』という雑誌から生まれた『週刊じゃらん』ですが、今回リニューアルに至ったきっかけはなんですか?

 

石橋 スマホから手軽に情報が手に入る今の時代には、若年層にとってはデジタルの方が情報収集するきっかけになりやすいのではないかと思っていました。そこで、雑誌で培ってきた質の良いコンテンツをそのような若い世代の方々にも届けたいという想いで、『週刊じゃらん』アプリのリニューアルに踏み切ることになりました。

リニューアル前の『週刊じゃらん』アプリ目次画面と、リニューアル後の目次画面。

 

−なるほど。でも8年も続けてきたのに、なぜ今このタイミングでのリニューアルだったのですか?

 

石橋 私はもともと、ウェブマーケティングを担当しており、『ホットペッパービューティー』のオウンドメディアの立ち上げなども経験する中で、特にコンテンツの可能性を感じておりました。

当時、『週刊じゃらん』の部署には、編集のプロの方が多く、私のようなウェブ担当はあまりいませんでしたが、デジタル化が進む中でも編集力は必要不可欠で、時代に合わせて編集力の活躍の場を変えていきたいという思いがありました。

その経歴を活かしながら、編集者の方々と一緒に制作することで、より強いメディアを作れるのではないかと思い、リニューアルをしたいという意思が生まれました。とはいえ、ただ「やりたい!」だけではやらせてもらえない。なので、5か年分の具体的な事業計画書を作って会社に起案するというところからスタートしました。

 

とにかく足を運び、顔を合わせることで得た厚い信頼

 

−編集経験がない状態でいきなり編集長になるというのは、かなりの異例。他の編集長とは違う苦労が沢山あったと思います。特に気をつけたことはありましたか?

 

石橋 雑誌の編集経験が全くないので、その中でどのように信頼を獲得していくか、というところにとても気を遣いましたね。そのためにはただ感情で訴えかけるのではなく、事実ベースで説明すること、誰が見ても納得するようなコミュニケーションをするように心がけました。またアプリに関わることはプログラミング以外、思い込みは捨てて、まずは一度全部やってみました。やってみないと現状と課題が明確にならないので。イラストレーターでクリエイティブを作ったりもしていました。おかげですぐに、私には向いていないな、仲間を集めようと方向転換もできました(笑)。

 

−歴史がある媒体なだけに、いきなり指揮をとって新しいことを始めるのはとても難しい。編集部の方々を相手にかなり苦労されたのでは?

 

石橋 編集部には、もちろん編集や制作に長けているメンバーがたくさんいます。一方で、長年の運営の仕組みができていたので、新システムの導入などに対しては、一時的に生産性が落ちるのではと抵抗感があったように思います。長期的に見て、メリットのあることだと理解してもらうのが、最初は難しいと感じていましたね。しかし話が進むにつれて、御社の社員の方々をはじめ、賛同してくださるメンバーが社内外に増えていって、嬉しかったです。

 

−約1年前の準備から関わらせていただき、石橋さんが試行錯誤する姿を見てきましたが、新しい仕組みや組織を作っていく上で、具体的にはどんな工夫をしましたか?

 

石橋 全国に編集部があったり、関わる人間がとにかく多いだけに、これまでは複雑なことが多かったので、運営の仕組みをとてもシンプルに作り直すということを一番に考えました。あとは、とにかく泥臭く説明し続けるに尽きますね(笑)。それは編集メンバーに対してはもちろん、全国の営業の方々に対しても同様です。特に営業の方々は、旅行や地域に対しての愛がとても強いので、ひたすら話に耳を傾け、私もそれと同じ熱量で盛り上げていきたいと思っていることを直接伝えるようにしていました。『週刊じゃらん』という媒体に対して愛着を持っていただけるように、とにかく足を運んで、実際に営業さんと顔を合わせてコミュニケーションを取りながら一緒に作っていくことを心がけていました。

 

−全国各所に営業部や営業拠点がある中で、直接その地方に行くのは大きな労力がかかってしまうと思いますが。

 

石橋 普段メールや電話で名前や声しか存じ上げない方でも、実際にお会いするとやっぱり印象がガラッと変わるんです。直接お話することで「実はこういう課題があって」という新たな課題を教えていただいたり、クライアントさまからのご意見も含めて「もっとこうしたら良くなる」などと叱咤激励していただくことが、リニューアルにおいてはすごく励みになっています。なので、人に会いに行く、その土地に足を運ぶということは変わらず心がけています

各拠点に行く際には、その土地を知ることを楽しみながら出向いています。金沢では、営業担当に、その地方の方しか知らないような美味しいお店に連れて行ってもらったり、高松では、『週刊じゃらん』で讃岐うどんの記事を見て、キャリーケース片手にうどん屋を3軒はしごしたり……(笑)。リニューアルの初動時期は多いときで週に2回とか、3ヶ月で全国10拠点くらい回っていましたね。

 

−石橋さんらしいです(笑)。本人が楽しみながら仕事をするのはすごく大事なことですよね。各地の編集部の方々や社外の制作パートナーと一緒に仕事をしていく上で、特に気を付けているポイントはありますか?

 

石橋 リニューアルに関わっていただく様々な役割の方々がいらっしゃる中で、それぞれの分野のプロフェッショナルだと思ってコミュニケーションをとることを一番に心がけています。自分自身、会話をする時には「なぜこれをやるのか」という目的や、背景をしっかり伝えることを大切にしていて。

同じように、相手のアウトプットが出てくるまでのプロセスをヒアリングして、その背景を聞くことも心がけています。私は意見を聞き出しながら判断をし、その中で関係各所の皆さんが納得した上で進めていただくためのつなぎ役だと思っています。なので、誰に対しても腹落ちしてもらえる状態を目指すために、常に考えながらコミュニケーションをとるようにしていますね。

 

−なるほど。では、『週刊じゃらん』にとって、編集者とはどんな存在ですか?

 

石橋 「地域の魅力を届ける翻訳者」ですね。そのエリアの良いところを、「こんなところあったんだ!」とか「いつか行ってみたい!」と思わせることのできる翻訳者だと思います。『じゃらん』は30年間続けてきて、「地域のために」という心がブレていない。だからこそ、企画・編集・デザインのすべてを通して実際に人を動かすことができるのだと思います。

 

人を巻き込む力は、熱意にあり

 

−今回、僕はクリエイティブディレクターを担当させてもらいましたが、石橋さんがデザイン面でこだわったことはなんだったと思いますか?

 

石橋 とにかくカスタマーを飽きさせないにようにすることを一番気にかけています。紙媒体だと、見開きで企画の区切りが成立していて、企画によって世界観やデザインイメージにもバリエーションがありそれが魅力のひとつでもありますが、アプリだとそれが通じない。今回は縦スクロールで読むデザインにしているので、記事を開いた瞬間でカスタマーに興味を持ってもらえないと、最後まで情報を見てもらえないということもあります。

なので、飽きさせないように切り抜き写真を入れたり、左右に目を振らせるような動きがあってリズミカルなデザインにすることを心がけています。また、私たちは雑誌があるというところが他にはない強みだと思っているので、紙媒体の世界観をそのまま活かしつつ再編集するというところもこだわったポイントですね。

『週刊じゃらん』の記事。縦スクロールでも読んでいて飽きないよう、デザインに様々な工夫が施されている。

 

−せっかくなのでこれを機にお伺いさせてください。制作パートナーとしてお仕事させていただく中で、弊社ロースターの社員はどうですか?(笑)

 

石橋 記事制作の編集・ディレクションをしてくれている社員さんとは毎日のようにお話させていただいていますが、脳みそがとても構造的にできているなと思います。物事に対して因数分解して考えることができる人。論理的に考えることができるのも、編集者に向いてるなと思います。

 

−お話をお伺いしていると、石橋さんはワンマンではなく、うまく人を巻き込んでいくタイプの編集長だと感じます。石橋さんの中で、人や外部制作パートナーを選ぶ基準やポイントはありますか?

 

石橋 私がすごく暑苦しい性格なので……(笑)。起案資料などは淡々とファクトベースで伝えるものの、その背景にはやっぱり「変えたいんだ!」という熱量があると思うんです。結局そういうところにしか人もついてこないし、プラスアルファの力も引き出せない。だからこそ、そういう熱意に賛同してくださる方々と仕事をする方が、絶対にいいものが作れるなと思っています。

 

全体を見ることも、相手の気持ちを考えることも「編集」のひとつ

 

−石橋さんが「編集長」として大切にしていることはなんですか?

 

石橋 「目線」です。上にいるのではなく、誰に対しても横にいながらコミュニケーションをとることを大切にしていますね。私自身、「編集長」という言葉に最初はすごく身構えてしまっていたのですが、最近はそんなに難しく考えることではないなと思えてきました。私が普段何気なくやっていることって、日々「編集」なんだなって。同じことを伝えるにしても、その相手がどうしたら喜ぶのか、嬉しいのかっていう目線で切り取って話したり、提案資料をその場に即した言葉で伝えたり、メール一本書くのも相手の性格に合わせて書いたりとか。思い返してみたら、それって全て「編集力」なんだなって、だんだんと気付くことができましたね。

 

−アプリマガジンを運営する上で、これは必要不可欠だという要素があれば教えてください。

 

石橋 「全方位的に見る」ということ。そして、そのようなメンバーを増やしていくということだと思います。「編集」のことだけではなく、アプリの運営基盤を作っている「売上」や「予算」の管理をはじめ、より売りやすくなるような「商品企画」や「営業推進」、どうすれば原稿入稿や確認の工数を下げて企画・制作の部分に時間をかけることができるかの「開発」観点、そして作ったものを多くの方々に見ていただくための「マーケティング」も、アプリマガジン運営において大事になってくると考えています。また各分野のメンバーには、編集担当でも「売上」のことを、制作担当でも「開発」のことを、情報をオープンにして一緒に考えるような場を設けるようにしていたり、普段の業務から視点をもう少し半歩横にスライドして、全体を見ることが大切だ、と伝えるようにもしています。そうすることで媒体に対しての当事者意識も強まり、少数精鋭でも強いチームができるのではと思っています。

 

『じゃらん』ブランドに新しい風を吹かすことのできるアプリに

 

−最後に、『週刊じゃらん』において、目指していることはありますか?

 

石橋 紙媒体の雑誌があってアプリもある、なおかつブランドもあるという中でやっているので、積み重ねてきたものは大切にしつつも、『週刊じゃらん』から新しい風を吹かせたいなと思っています。リニューアルしたアプリでは、雑誌と同じコンテンツをデバイスに合わせて再編集、リデザインすることで同じ「情報」だとしても心理的に大きな変化を与えることができているので、現時点でもすでに新しい風を吹かせられているのかなと。

あとは、ずっとブランドを守りながら続けているので、少しずつ変えていくこともやっていければなと思っています。雑誌があってアプリもあるという形の旅行・おでかけ系の媒体ってなかなか少ないと思うので、雑誌があるということを強みにしていきたいです。アプリで作ったコンテンツを雑誌に載せたり、アプリで作った世界観でイベントを開催したり、常にやりたいことがたくさんあります(笑)。でも、まずは安定して良いコンテンツを作り続けられるようにしていきたいと思っています。

 

取材:大崎安芸路(ロースター)、編集:尾畑舞(ロースター)、文:川崎きさら(ロースター)、写真:菅原景子_Sugawara Keiko

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