現代の不動産業界は、一部上場企業が市場を独占し、競合ひしめくレッドオーシャンである。そんな競争の激しい市場で新たな風を吹かせているのが、社員数わずか4人という超少数体制で運営する不動産テック企業、Non Brokers株式会社だ。特に、彼らが生み出した不動産の売手と買取会社のマッチングサイト『インスペ買取』が今注目を集めている。今回はNon Brokers株式会社の代表取締役/CEOである東峯一真さんに、従来の不動産取引の常識を大きく覆そうとしている『インスペ買取』の挑戦について、そして新進気鋭なNon Brokers株式会社の編集力についてお伺いした。
※本記事は、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言を受け、感染予防対策としてオンライン取材・撮影を実施いたしました。
Non Brokers株式会社
「不動産売買の新しいインフラを創る」をミッションに掲げる不動産IT企業。日本最大級の不動産買取専門マッチングサイト『インスペ買取』を中心に、専門家が執筆する不動産売却ナレッジメディア『不動産売却バイブル』、中古住宅の信頼性を評価するインスペクションアプリ『インスペ』、全国対応のインスペクション発注サイト『インスペマート』の運営を行っている。
『インスペ買取』
→本記事取材後、2020年12月に「いえうり」へとリブランディング。
大手不動産買取会社と多数提携、買取予算4,000億円超えの不動産買取プラットフォーム。家の住み替え、転勤、相続、離婚、任意売却などの早期資金需要に、直接マッチングすることでスピード買取が実現。全国の不動産買取会社が多数登録しているため、入札競争により買取相場よりも高く売却することができるのも特徴の一つ。さらに仲介ではなく買取のため、仲介手数料(売却手数料)や査定のご依頼は無料。一括査定サイトのようなしつこい営業電話や訪問営業、内見対応も必要なく売却することができる。
東峯 一真(ひがしみね・かずまさ)
1977年5月6日生まれ。デザイン10年、電子CADメーカー10年を経て、2015年12月にNon Brokers株式会社を創業。さまざまな新規プロジェクトを立ち上げ、営業・CS・開発すべてのマネジメントを経験。不動産テックで合理的な世界の実現を目指す。現在は、代表取締役/CEOとして、主に経営全般と戦略部分を担当。
不動産売買のマッチングサイト、『インスペ買取』とは?
『インスペ買取』とは、不動産買取専門のマッチングサイトと聞きました。具体的にどのようなサービスですか?
東峯一真さん (以下、東峯) 『インスぺ買取』とは、不動産を売りたい売主と、買取会社を直接マッチングさせる、日本最大級の不動産買取プラットフォームです。個人の売主は、「不動産をなるべく早く売りたいと考えている方」と「時間をかけて慎重に売っていきたい方」がいます。『インスぺ買取』のメインターゲットとなるのは、「不動産をなるべく早く売りたい売主」。弊サービスは、売主に最適な買取会社を早く紹介できるサービスなんです。
なるほど。不動産を早く売りたい売主にとって『インスペ買取』は、どんなメリットがあるのでしょうか?
東峯 売主さんにとっての大きなメリットは、早く高く売れること、そして売れるまでの面倒くさい対応が一切必要ないことです。不動産を売却するまでの面倒くさい工程を、全て代わりに引き受けるのが『インスペ買取』。売主が売りたい不動産のインスペクション(※1)を無料で実施し、その結果をたくさんの不動産会社に提示して、一気に査定していただきます。売主さんは、たくさんの不動産業者にひとつずつ査定依頼をするという時間と労力が一切必要なく、一番高値で売ることのできる不動産買取会社と短期間で直接繋がることができます。
※1「インスペクション」・・・既存住宅状況調査のことで、所定の講習を受けた建築士が第三者的な立場で、劣化の状況や欠陥の有無などを調べ、修繕や改修、メンテナンスをするべき箇所やそのタイミング、費用の概略などをアドバイスするもの。
不動産売買の新しいインフラを創る
そもそも、なぜ『インスペ買取』を立ち上げることになりましたか?
東峯 次の事業を選択する際に、固定資産である不動産売買に可能性を感じてこの世界に入ったんです。『インスペ買取』を始めたきっかけは、事業を始めるために勉強していくなかで、不動産業界の問題を見つけたから、でしょうか。
現在の不動産を売却する場合には大きく分けて2つの方法があります。一般的なのは、不動産会社と「媒介契約」を結び、個人の買主を探してもらう「仲介」。そしてもう一つが、不動産会社が直接買い取る「買取」です。
売主さんが仲介会社を利用する場合、なかなか個人の買主が見つからず、時間をかけた末、結局仲介会社ではなく買取会社の利用を提案されるというパターンも少なくありません。しかしその場合でも、仲介会社に対して手数料を支払わなければいけない。しかも時間をかければかけるほど、不動産の価値はどんどん下がっていってしまう。「綺麗」で「便利」な物件は仲介でも売りやすいのですが、全ての家がそうではありません。築年数の古い家は個人の買主を見つけるのが難しいので、仲介会社を介さずに直接買取会社に売った方がいい。ただ、個人の売主さんが買取会社を利用する場合、多数の不動産買取業者が査定した金額を比較して、家の相場を把握していく必要があります。必要なことなのに、これまで誰もその事業に取り組んでいなかったんです。そこで、その労力を合理化するサービスを開発することにしたのです。
もともと不動産業界に関わった経験があったのですか?
東峯 いえ、ゼロからのスタートです。なので、まずは不動産業界のことを徹底的に勉強し、宅建業を行いながら不動産取引のノウハウをためました。その後にたくさんの不動産会社にアポを取って、事業についての解像度を上げていきました。最初は訪問した不動産会社さんも、私の突然の訪問に対して不信感を抱くことがほとんどだったのですが、しっかりとサービスの提案や自分の熱意を説明することで、賛同してもらい、快く協力していただけるようになりましたね。
『インスペ買取』を形づくる、4人のプロフェッショナル
大手企業がひしめく競争市場である不動産業界おいて、社員数4名という少数体制は大きな特徴だと思います。4名の社員さんは各々どのような役割を担っていますか?
東峯 私はCEOとして、経営全般と戦略部分を担当しています。CTOの寺田は取締役であり、システム開発全般を担当しています。彼はWEB、サーバー、ネイティブアプリ(Android、iPhone)など、全ての開発をこなしているスペシャリストです。デザイナーの菅原は、もともと株式会社日本デザインセンターで7年間働いていた方で、不動産業界では珍しい、ポップでわかりやすいデザインを作ってくれています。CSの佐々木はもともと不動産業界に身を置いていたので、カスタマーサクセス担当。売主さんと買取会社をつなぐ重要な役目を担っています。4名全員が、責任の所在は自分にあると意識づいているのも、運営の「効率化」に繋がっていると思います。
例えば大手不動産企業だと、画面のボタンの場所を変えるだけでも、社内で承認を得るまで相当な時間がかかります。その一方で、弊社の場合はすぐにコミュニケーションをとることができる。仮説が正しいかクイックに検証できるので、ベストアンサーを見つける速度が非常に速い。それは今のフェーズだからこそできるところなので、大手不動産企業には絶対に真似できない強みだと思っています。
徹底した情報収集で効率良く勝ち筋を見つけ出す、4人の編集力
「市場に存在するニーズを集めてユーザーへ適切にアプローチする」ことはビジネスを大きくするために大切なことだと思います。これは編集においても必要なスキルで、ビジネスと編集は似ていると感じます。東峯さんにとって、「編集力」とはどんなものですか?
東峯 編集力とはいわば「緻密な戦略づくりをする力」ですかね。圧倒的な情報収集を行うことは何より大切だと考えています。ネット上で調べるだけでなく、勉強をしたり、実際に足を運んでヒアリングをしたりなど、オフラインでの情報収集ももちろんその一部です。思いついたことをすぐにやるのではなく、事業の解像度を上げ、勝ち筋を見つけ、「後はやるだけ」の状態をつくる。これが私の考える、「編集力」だと思います。
『インスペ買取』においても、その「編集力」の片鱗を感じます。では最後に、『インスペ買取』を運営しているNon Brokers株式会社の今後の展望を教えてください。
東峯 現代の不動産売買は、例えるならば「車検を受けたことがない車を購入している」のと一緒なんですよね。インスペクションを行わずに購入している状態(※2)がほとんどなので、売主にとっても、買主にとっても不安材料の多い取引になっています。そもそも売買主がインスペクションの存在さえ知らない状態です。我々は、インスペクションの文化を住宅業界での「車検」のような当たり前の存在にしたいと考えています。また、海外に比べて、日本の不動産業界は非公開な情報が多い。建物の細かな状態や、メンテナンス履歴、価格推移などの情報を公開していくことで、売主が安心して売買できる仕組みを作りたいと考えています。『インスペ買取』が売主にとってベストな選択であるということを伝えていくため、そして私たちの構築する新しい物件情報のインフラを周知していくために、これからもあらゆることに果敢に挑戦していきます。
※2「インスペクションを行わずに購入している状態」・・・2018年の宅建業法改正により、仲介での売買時に仲介業者は「インスペクション実施の確認と業者の斡旋」が義務化されたものの、まだまだ普及していない。