より良い記事や番組を作るために欠かせない取材。街頭インタビューから1対1の質疑応答まで取材の定義は幅広いですが、メディア業界でしばしば話題にされるのが、取材に対する謝礼です。
「取材に謝礼が出ないのは当たり前」
「時間の対価として謝礼は払うべき」
さまざまな意見が飛び交う中、あなたはどう判断するでしょうか?
今回は取材の謝礼を支払うべきパターンや、謝礼の相場について考えてみましょう。
取材は必要? コンテンツ制作にかかる費用一覧
「取材」とは、「材料を取る」こと。インタビュアーが現地に出向き、対面でインタビューをする方法の他に、最近では電話やリモート取材など、デジタルツールを使った方法も主流になっています。
そこで気になるのが「取材費」ではないでしょうか。
取材を伴うコンテンツ制作を行う場合、「取材費」がかかってきます。ですが一口に「取材費」と言っても、全体をみるとさまざまな費用が必要です。
【取材を伴うコンテンツ制作にかかる費用】
・取材費
L 取材対象者への謝礼
L 取材対象者・自分を含めた交通費
L 取材を行う会場や会議室などの諸経費(カフェで行う場合は飲食代)
L インタビュアーが自分でない場合は、インタビュアーの人件費
L 取材に使用する機材の購入、または、レンタル費
・記事制作費
L 企画費
L 取材内容の文字起こし費
L ライティング費
L 編集・ディレクション費
・その他の費用
L 動画作成費
L アイキャッチ・バナーなどの画像制作費
ざっと洗い出しただけでもこれだけの費用がかかります。
もちろん対面で会話するだけでなく、メールに質問事項を記載し、メールで回答してもらうことも取材となります。
そのほか、取材対象者の過去の報道やブログを調べたり、SNSを見たりすることも「材料を取る」ことにあたるので、これらも立派な「取材」です。
ただ報道・ブログ・SNSのチェックはメディア側の担当者が動けばいいのですが、対面・オンライン・メールでの取材は、取材対象者にアポイントを取り、時間を作って対応してもらう必要があります。
そこで出てくるのが「相手に動いてもらう取材をしたら、謝礼を払わなければいけないのか」という疑問です。
取材時、謝礼・報酬は支払うべきか
まずメディアやマスコミの現状を言ってしまえば、ほとんどの場合、取材対象者に謝礼や報酬を支払いません。
その一方で、謝礼を「払った方が(倫理的に、またビジネス的に)良い」とされるパターンもあります。
それぞれどういった違いがあるのでしょうか?
謝礼を払わない取材が多い
実はマスコミには「取材対象者に謝礼を払う」という習慣はそもそもなく、Webメディアが普及した今でも、「わざわざ払わない」ことが当たり前だとされています。
逆にそういった性質を理解したうえで、中にはボランティアのつもりで取材を受ける人、「報道されて認知が広がるなら」と謝礼を要求しない人もいます。
テレビでは街行く人にランダムで「〇〇についてどう思いますか?」なんて街頭インタビューをする場面もありますが、その一人ひとりに謝礼を払っているわけではありませんよね。
1対1の対面インタビューであっても、取材後に「ありがとうございました」と言ってそのまま終わるケースがほとんどです。
ただ、取材対象者も時間を割いてくれているため、はなから謝礼を払わないつもりで依頼をすると断られる可能性も大きいです。
専門家への取材は謝礼が必要なことも
その一方で、専門家に取材をする場合には謝礼が必要になることもあります。
ここで言う専門家とは「ちょっと人より知識が豊富な人」ではなく、研究者、評論家、プロスポーツ選手、医師など「その道を極めたプロ」のことを指します。
専門家へ専門的な取材や、他のメディアも知らないような最新の研究などを取材する場合には、その専門家しか知り得ない情報を聞くことになるので、謝礼が必要です。
また「意見を言うこと」「話すこと」が仕事のご意見番的なタレントへの取材も、謝礼を払わなければいけません。
そもそも、謝礼なしで取材に応じてくれる専門家・タレントはごく少数です。
謝礼を払うメディアが増えている
ただ最近は、専門家相手ではなくても謝礼を払うメディアが増えています。特に成長段階にいるWebメディアはその傾向が顕著です。
実はWebメディアは、運営元にもよりますが、ほとんどがマスコミほどの大きな力を持っていない小さな媒体です。なおかつ競合が多数存在し、常に競合と戦っていかなければいけません。
そんなWebメディアが欲しいのは露出であり、そして露出を増やすためにすでに知名度の高い人物の力を借りる方法があります。
つまり、旬の著名人やインフルエンサーに取材を受けてもらうためには、謝礼を準備する必要に駆られているのです。
取材相手は多少のリスクを抱えている
「謝礼を払うか払わないか」を考えるときに覚えておきたいことは、取材相手も多少のリスクを抱えて取材に応じてくれるということです。
取材相手は原稿確認を求められないまま掲載されることも日常茶飯事。
「言っていないことを書かれた」
「こちらの意図とは違う」
「修正をお願いしたら断られた」
こうした声もよく聞きますが、実はこれらのリスクを抱えながらも取材に応じているんですね。
そんな取材相手に対し謝礼を払うべきかどうか以前に、どのような対応が誠実なのかしっかり考えなければいけないことが、今のメディアの課題ではないでしょうか。
取材の謝礼金額の相場
実のところ、取材の謝礼にはこれといった相場がありません。先述しましたが、そもそも「謝礼を払う」という習慣がないためです。
ただ「相場がないから適当に1000円で」というわけにもいきませんよね。そこで、おおよその目安をお伝えします。
謝礼金額の「目安」
取材への謝礼は、掲載する媒体や取材対象者によって異なります。
【テレビ】
10分〜30分のテレビの収録取材やVTR出演:1万円〜3万円
バラエティ番組等へのゲスト出演:5万円
街頭インタビュー:0円
【雑誌】
記事コンテンツ作成のための取材:0円〜1万円
専門家へ専門的な取材:3万円〜10万円
街頭アンケート:0円
【Webメディア】
記事コンテンツ作成のための取材:0円〜1万円
専門家への専門的な取材:1万円〜3万円
その他にも、インタビューのやり方・種類でも異なります。
【インタビューのやり方・種類】
ユーザーインタビュー/アンケートモニター:0円〜1.2万円
オンラインインタビュー:2千円〜1万円
個人インタビュー:1万円〜10万円(取材対象者の知名度や権威性によってばらつきがある)
動画の出演(TVの動画配信サービスやYouTubeに出演し、コメントをもらうなど):1万円〜10万円
謝礼の勘定科目は?
取材対象者に謝礼を支払った場合の経費としての勘定科目はどうなるのでしょうか。
「謝礼」という形ではなく、コーヒー代やランチ代なら「交際費」、電車賃なら「交通費」で計上できます。
ただしっかり感謝の気持ちを表す「謝礼」として支払うなら、勘定科目はまとめて「取材費」として計上しましょう。たまにしか発生しない場合には「雑費」で計上されることもあります。
また謝礼が「報酬」と同等の意味で支払われる場合には源泉徴収の対象となります。「取材費」や「調査費」になる場合も、講演料や原稿料と同等の扱いになれば源泉徴収が必要です。
せっかくお礼の気持ちとして支払ったお金が後から経理上のトラブルを招かないように、改めて謝礼の勘定科目を定めておくといいですね。
十分な謝礼を支払えない場合の対処法
状況や場合によっては十分な謝礼を支払うことができないこともあるかもしれません。
もし取材対象者に謝礼・報酬を支払わない場合でも、何かお礼をするといいでしょう。不誠実な対応をしてしまうと、後からSNSに悪口を書かれる可能性もあるためです。
できる範囲の中で、誠実な対応をするように心がけましょう。
カフェ代や交通費などの諸経費を支払う
たとえばカフェで取材を行ったとき、取材中のコーヒー代、取材後のランチ代などを支払うようにしましょう。遠方から取材場所まで来てもらう場合には交通費などを負担するのもいいかもしれません。
少しでも取材対象者の負担を減らし、気持ち良く取材を受けてもらえるようにしましょう。
共感してもらいやすいメディアを作る
取材対象者が、「ぜひ取材に答えたい!」と思えるようなメディア作りをすることも謝礼以外の大切な要素の1つ。
どのような目的でメディアを運営していて、その中でもどういう狙いがあってこの記事を作るのか、といった全体像の共有をすることで共感が高まります。取材対象者と会ったとき、運営メディアの理念や志を熱量高く伝え、「どうしてあなたに取材したいのか」が伝われば、相手の心を動かすこともできるかもしれません。
共感を得ることができれば、謝礼がなくとも取材を快諾してくれたり、その後の拡散にも繋がります。
もし自分が取材を受ける側だとしたら、運営しているメディアに「取材してもらいたい」と思えることはできるでしょうか。運営メディアを振り返ってみて、まずは自分自身がそう思えるメディアを作ることが大切です。
謝礼以外のメリットをアピールする
運営メディアによっては、謝礼のような金銭的メリットだけでなく非金銭的メリットをアピールすることができます。
例えばユーザーや読者が多い、大きなメディアであれば、高い露出度が期待できます。取材対象者にとってもPRや宣伝に繋がるため出演するメリットがあるといえます。
他にも、優待サービスやオリジナルグッズ、自社商品の提供など、金銭以外のモノを提供することができれば、取材を受けるメリットをアピールできます。
取材・インタビューを外注する
「どうにか費用を抑えたい」と考えている人は、取材を外注することを検討してみてもいいかもしれません。
フリーランスのような個人のライターであれば、記事の企画立案からアポイント、取材、インタビューの文字起こし、執筆、記事の校正など、個人のスキルに応じて一括で依頼できます。
他にも、取材を行う工程の一部分だけを外注することも可能です。
・リサーチ代行会社
・記事制作代行会社
・クラウドソーシング
などが挙げられます。特にクラウドソーシングは、事前に依頼相場を確認できるので、他の依頼先よりもコストを抑えることができます。
取材相手に執筆を依頼する
実は、取材相手に執筆を依頼する「寄稿」という方法もあります。寄稿とは、新聞・雑誌・WEBメディアなどの媒体に対して記事を提供してもらうことです。
取材を通して記事を作るのではなく、寄稿という形で執筆を依頼することで、執筆にかかる費用を削減できるのです。
ただし寄稿を依頼する際は、どんなテーマで書いてもらいたいか、執筆の際の注意ポイントなどを別紙にまとめ、イメージを共有しましょう。構成や記事の流れが決まっているメディアもあるかもしれません。
希望通りの原稿に仕上げてもらうために、必要な情報を取材相手に渡すようにしましょう。
コンテンツ制作にかかる費用をコストカット
そもそもコンテンツ制作にかける全体の予算が少ない場合は、謝礼をカットするだけでなく、他項目の予算を見直してもいいかもしれません。
謝礼に十分な予算を充てるように割り振りを見直したり、もしくは外注していた他項目を自社のリソースに置き換えるなど、別の対応策が考えられないか検討しましょう。
取材の謝礼は「感謝」であり「一次情報」への対価
取材の一番良いところは、ネット上に転がっている二次三次の情報ではなく、一次情報を当人から直接得られることではないでしょうか。
一次情報はどのメディアにとってもより貴重で重要な情報ですから、一時情報を得られれば、他のメディアとの差を付けやすくなります。
また取材対象者も対応に時間と手間をかけ、多少のリスクを抱えているもの。そんな相手への感謝を込めて、少額でも謝礼を払えば喜ばれますし、また次回の取材に応じてもらえる可能性もグンと高まります。
謝礼に対する意見は人それぞれ・メディアそれぞれで議論も起きやすいですが、しっかりと考えていきたいですね。