2016年に「女性活躍推進法」が施行され、2017年には「女性の起業支援の強化」が政府の方針として盛り込まれました。とはいえ、まだまだ女性社長は全体で7.8%と少ないのが実情ですが、数は少なくとも、日本経済を盛り上げてくれる女性経営者の活躍が目立っているのも事実。そんなキラキラと輝く女性社長にスポットを当て、お話をうかがうこの企画。
今回登場いただくのは、女性向けトレンドメディア「4MEEE」を運営する坂梨亜里咲さんです。大学時代の友人たちとメディアを立ち上げ、2018年に運営会社の社長に就任した坂梨さん。「仕事もプライベートもWin-Winの関係が大切」と語る彼女の、メディア運営、そして結婚するための極意とは?
坂梨 亜里咲(さかなし ありさ)1990年、宮崎県生まれ。大学卒業後、大手ファッション通販サイトおよびECコンサルティング会社にて、マーケティングやECオペレーションを担当。2014年からロケットベンチャー株式会社に参画し、「4MEEE」のディレクターとして、編集、企画、記事広告、アライアンスなどを担当した後、同社COOに就任。コンテンツ制作、新規事業に取り組む。2018年3月、ロケットベンチャー株式会社改め4MEEE株式会社になったタイミングで、代表取締役社長に就任。
フリーランスを経て社長に
――まずは、坂梨さんの会社が運営する「4MEEE(フォーミー)」がどんなメディアなのか、教えてください。
坂梨 4MEEEは、アラサー独身女性向けのトレンドメディアです。記事の内容は、恋愛ネタやライフスタイル、ファッション、コスメ、ウェディングなど。マネタイズは、記事広告やタイアップがメイン。タイアップのジャンルは、コスメが中心です。
―― 坂梨さんは、4MEEEの立ち上げメンバーだとうかがいました。
坂梨 はい。4MEEEをリリースしたのは2014年の春です。私は2012年に大学を卒業してから、ECサイトの運営会社で働いていました。当時担当していたWebサイトは40代、50代の富裕層向けで、私にはぜんぜんユーザの気持ちがわからなかったんです。それでモヤモヤしているとき、大学時代の友人たちが「一緒に20代の女性向けメディアを立ち上げよう」と誘ってくれたのがきっかけです。
―― そこから、2016年には会社を出て、いったんフリーランスになられた。
坂梨 はい。立ち上げメンバーなので、私には上司と呼べる存在が社長しかいない環境でした。社内にロールモデルがおらず、この先どうやってキャリア形成をしていけばよいかわからなくなってしまって。そこで、一度会社員ではなくフリーランスとして仕事をしてみようと思ったんです。フリーランス時代は、メディアコンサルタントとして女性向けメディアのコンテンツ制作や、メディア運営の仕組みづくりに携わっていました。
幸運なことにたくさんお仕事の依頼をいただき、収入的には十分やっていけたのですが、これまで培ったノウハウをアウトプットするだけで、インプットができない。やりがいや自分の成長を思った以上には感じられませんでした。起業するか、どこかの会社に入るか考えていたとき、古巣から「COO(Chief Operation Officer)として戻ってこないか」と声をかけていただきました。
考えた結果、やはり愛着のある4MEEEを、信頼できる仲間と一緒に拡大していくことが私のやるべきことだと思い、戻ったんです。
―― そして2018年3月に、4MEEEがインターネット広告事業のインタースペース社の傘下に入り、運営会社も「4MEEE株式会社」に変更。その代表取締役社長に就任されました。
坂梨 社長といってもプレイングマネージャ型の社長です。4MEEEと、もうひとつママ向けのメディア「4yuuu!(フォーユー)」の運営・管理と、会社の経営をしています。
「愛され」「モテ」は大事。自分の人生がメディアに反映されている
―― 今は女性向けメディアといっても、さまざまなメディアが乱立しています。4MEEEの特長というのは、どのあたりにあるのでしょうか。
坂梨 「赤文字系」であること、でしょうか。すでにこの言葉も、使われなくなってきていますが、私は『CanCam』や『ViVi』といった赤文字系雑誌をずっと読んで育ってきました。そこには、「愛され」「モテ」の要素がルーツとしてあるんですよね。
だから、4MEEEは、女の子がかわいくなることをお手伝いし、結婚まで導くというコンセプト。もちろん、女性の生き方が多様化して、それだけが女性の幸せではないということはわかっています。あくまで私は、それがいいと思っている属性ということですね。
4MEEEは私の人生とリンクしているんです。2017年に結婚したのですが、それを機に、プレ花嫁さんはもちろん独身女性もウェディング情報を知っておく必要があると感じて、4MEEEにカテゴリを増やしたりもしました。
―― 自分が読者ターゲットだと、方向性も明確になりますね。坂梨さんから見て、今後の女性向けWebメディアの業界はどうなっていくと思われますか?
坂梨 女性誌のWeb版がより盛り上がっていくと予想しています。有名な雑誌はすでに、ブランド力も信頼感もありますからね。あとは、新規参入だと“ニッチ”なメディアが続々と登場するのではないでしょうか。女性向けといっても、一部の女性を狙った専門性の高いメディアは、まだまだ需要があると思います。
―― 動画メディアはどうですか?
坂梨 うーん、けっこう前から動画の時代が来ると言われてますけど、まだ私自身には刺さっていないのが本音です。個人的には、お笑い芸人やYoutuberなどのクリエイターや出演者に価値を感じる動画は、面白くて好きです。しかし、「女性向け情報発信」において、テキストでなくあえて動画で知りたいコンテンツは限られていると考えています。
それは私が世代的に、少女漫画や雑誌などの絵や画像、テキストで育ってきたのが理由なのかもしれませんが、実際に友人たちからもドラマや映画などの長編を観ることはあっても、「ちょっとだけの動画を観る」みたいなことは少ないという話をよく聞きます。
また、動画は製作にかかるお金がテキストとは段違いですよね。私が女性に配信すべきだと思う動画コンテンツはすでにインターネット上に存在しているので、今後も得意なテキストメディアでいくつもりです。
バズる記事、じわじわ読まれる記事。メディアのPVを増やすには?
―― 4MEEEだと、今はどんな記事がよく読まれるのでしょうか。
坂梨 2方向あって、ひとつは「人軸」の記事。例えば、ターゲット層が気になる人を取材した記事や、インフルエンサーだったり、その道のプロが書いた記事などがそれに当てはまります。4MEEEでは、あるモデルさんに記事を書いていただいたことがあり、それらの記事はものすごくバズりました。
やはり、SNSでフォロワーが多い方はより記事拡散もされやすいですね。
特に驚いたのは、某有名タレントさんの、マーケティング能力の高さです。連載のうち、最初の3記事をぜんぜん違うテイストで書かれていたんです。なぜそうしているのか聞いてみたら、「4MEEEさんにとって、どんな記事が響くのかテストしている。3記事のなかでどれがバズるのかを見て、方向性を決める」と。一緒にお仕事させていただいて、尊敬の念が高まりました。
―― 読まれる記事の2つの方向性のうち、もうひとつは?
坂梨 お悩み解決です。これは、検索でたどり着くユーザさんも多いですね。例えば「二重の幅 広げる メイク」「脚 細くする」とか、かわいくなるために何か改善したいなと思っていることを検索すると、4MEEEの記事が出てくる。ユーザが何に悩みを持っているのかということは、常にリサーチしています。
―― 4MEEEは、2017年から紙の雑誌も刊行されていますよね。
坂梨 2018年9月に第3号を出しました。表紙はヨンアさんで、テーマは「婚活バイブル」です。Webと雑誌両方の強みを生かし合って、ユーザとのコミュニケーションを取るべく、新規事業をスタートしました。最近では、イベントも積極的に開催しており、リアルな場での接触も大事にしています。
Webだけでなく、書店・コンビニで雑誌を見かける、4MEEEのセレクトショップで物を買う、イベントに参加するユーザとの接触機会を増やすことが、メディアへのロイヤリティにつながると考えているんです。
―― セレクトショップも展開されているんですね。
坂梨 昨年は期間限定のポップアップショップを2回行いました。初開催は、出身地である宮崎の百貨店内。私自身、宮崎にいた頃、雑誌で見たほしい洋服が地元に売っていなくて、4時間かけて福岡まで行っていたんですよ。そういう女の子に、地元でも雑誌に載ってるような服が買える機会を提供したくて。
今はネットでも簡単に洋服が買えますが、各ブランドのサイズ感を把握していない方は、やっぱり一度は試着してみたいですよね。開催してみると、その百貨店の店舗売り上げの平均金額を大きく上回ったので、需要はあるのだと思います。その他にも、宮崎県の観光記事を製作するなど、自治体とコラボレーションした企画を進めています。今後は、宮崎県だけでなく、ほかの地域でも開催できたらいいなと思っています。
―― 地元の宮崎で。やっぱり、坂梨さんの人生とリンクされてるんですね。
坂梨 そうなんですよ。私だけでなく、ターゲット層であるライターや編集者がやりたいことを、うまく4MEEEとつなげていくのが、社長として今一番やりがいを感じるポイントです。作り手が楽しんでいるか、本当にやりたいと思っているかは、読者にも伝わるものなので。4MEEEに携わっていることを楽しみ、誇りに思えるメディアにするべく頑張りたいと思っています。
自分を見つめ直せば、仕事も私生活もうまくいく
―― 坂梨さんが、人生においてルールにしていることはありますか?
坂梨 Win-Winな関係をつくること、そして謙虚に生きること。Win-Winな関係というのは、仕事でよく言われることですが、プライベートでもそうあるべきだと思うんですよね。私、今の旦那さんに「私と結婚してもデメリットは何もありません。Win-Winの関係を築けます!」ってプレゼンテーションしたんですよ(笑)。
―― えっ、どういうことでしょうか。
坂梨 男性が結婚したがらない理由のひとつに、経済的な負担がありますよね。この先、目の前にいる彼女、さらには家族を養っていかなければならない、という責任を重く感じる男性も多いと思います。また、結婚をすることによって、やっと一人前になって手に入れた自由が奪われ、生活が劇的に変わるのではないか、という不安を感じる男性もいるでしょう。夫婦はお互いに支え、高め合う存在だと思うので、「私はこれからも仕事をし続けるから、経済的なプレッシャーは感じなくていいし、結婚したからといってあなたの生活は大して変わらない」ということを伝えました。
昔から、5年単位で人生計画を立てていて、3ヵ月ごとに軌道修正をしているんです。ライフプラン上では、27歳で結婚している予定でしたが、結果的にその通りになっていますね(笑)。ちょうどよいタイミングで好きな人と巡り会えてよかったです。
―― 計画通りですね!
坂梨 仕事でも恋愛でも、自分自身を客観的に見つめ直して、市場価値を把握しているんです。そして最終的な目標までの現実的なストーリーを描き、実践する。
結婚相手の男性に「年収〇〇〇万円以上!」と条件を提示する女性もいますが、まずはその年収の男性の生活費や趣味嗜好、出没スポットなど細かくペルソナ分析をする。そして自分がそのペルソナに見合う・求められる女性なのかを客観的に評価することが大事だと思います。
私は「ギブアンドギブ」の精神で、物事を進めるタイプ。自分のメリットだけしか考えられていない計画には、誰も便乗しません。相手の心が動くポイントを見極めて行動することが、Win-Winの関係を築くコツです。
―― 相手がどんな思考をたどるのか、徹底して考えてらっしゃる。坂梨さんはそれが得意なんですね。
坂梨 そうかもしれません。メディアの運営も一緒です。読者がどんな記事を読みたいのか、どんな検索をして記事にたどり着くのか、インフルエンサーや広告主にどんなメリットを提供できるのか。そうしたことを考え抜けば、やるべきことは見えてきます。
私、そういうことを考えるのは全然苦じゃないんです。もし、努力してもなかなかうまくいかないときは、自分の強みが活かされてないのかもしれない。仕事もプライベートも、定期的に自己分析をし、自分ならではのエッセンスを加えることで、うまくいくと思います。
このコンテンツは株式会社ロースターが制作し、ビズテラスマガジンに掲載していたものです。
企画・取材:大崎安芸路(ロースター)/文:崎谷実穂/写真:栗原大輔(ロースター)