美味しいものをともに食べれば、心がほぐれて、商談も弾む。ビジネスマンたるもの、ここぞという場面で使えるお店をいくつか押さえておきたいものです。
ビジネスの会食にふさわしい東京の飲食店を、各界の食通に教えてもらう不定期連載。今回は、食を中心としたライフスタイル誌「東京カレンダー」の編集長・日紫喜康一郎氏がナビゲーターを務めます。
「職業柄カチッとした接待は少ないけど、食事を通じて取引先と親睦を深める機会は多い」と言う日紫喜氏に、気の利いた会食スポットをいくつかピックアップしてもらいました。
日紫喜康一郎(ひしき こういちろう)「東京カレンダー」編集長
1976年生まれ、埼玉県出身。大学を卒業後、女性ファッション誌「Ray」(主婦の友社)や、“ちょい不良オヤジ”のブームを巻き起こした男性ファッション誌「LEON」(主婦と生活社)などで編集経験を積む。2013年、東京を主役にしたグルメライフ誌「東京カレンダー」(東京カレンダー社)に移籍。2017年より同誌編集長を務める。
ただの店オタクにはなりたくない!
――まずは、日紫喜さんが編集長を務める「東京カレンダー」の特色を教えてください。
日紫喜 「東京の食」をメインテーマにしたメディアになりますが、ただの店紹介では終わりません。店を舞台にして、そこに行く人たちのさまざまな思いや、会食に至るまでの人間関係などをリアルに表現したいと思っています。
「ただの店オタクにはなりたくない。むしろその店を楽しく使える人こそが、格好よくて艶やかである」という感覚を重視しながら、誌面づくりをしています。Web版も同様のコンセプトですね。
――主な読者層は?
日紫喜 高いレストランも掲載しますので、読者層は可処分所得が高い40代の男女が中心になります。結婚して落ち着いてしまった人よりも、結婚後もグイグイ遊んでいる人向けのメディアと言えます。
「編集長はいい店を選ぶはず」という期待との戦い
――大人向けの食メディアを手がける日紫喜さん。ご自身が「会食」を催す機会も多いのではないでしょうか?
日紫喜 飲料系のクライアントさんをもてなす機会が多いですが、僕の立場だと、契約を左右するような“お堅い会食”って、実はほとんどないんですよ。
――とはいえ、お相手のニーズを踏まえてお店選びをしますよね?
日紫喜 はい。最低限、好き嫌いはお聞きしますし、お相手のテンションに合ったお店を探すようには努めます。「中華がいい」「日本酒を飲みたい」などと事前に好みを言ってもらえれば、そこから先の情報はいっぱいあります。周囲の編集者やライターさんに聞けば、確かな最新情報を得られますから。
やりがいを感じると同時にプレッシャーを感じるのは、食のジャンルも街も予算も「全部お任せ」されるパターン。「『東京カレンダー』の編集長だから気の利いたお店を選んでくれるはず」と期待さているんでしょうね。となると立場上、「お相手の期待を上回るようなライン」を狙わないといけないんですけど、これがなかなか難しい(笑)。
取引先から接待される際にも、お店選びは僕に任されることが多い。この場合、先方がお支払いをするので、高けりゃいいってもんじゃない。そういうときは「ご予算はどの程度にしますか?」と最初に聞いてしまうのが一番ですね。
――お相手の好みがノーヒントの場合はどうしますか?
日紫喜 自分がそのとき行きたいお店を選んじゃいますね(笑)。人気はあるけど行ったことのないお店とか。
会食の場では、少なからず仲良くなるというか、今後の関係が良化するようなコミュニケーションに努めます。そのためにも、横並びで座れるお店がいいんじゃないかと僕は思っています。対面式の接待は照れ臭くてニヤニヤしちゃうし、「嘘臭いな」と個人的に思うんですよ。お堅い職業だったら許されないことかもしれないけど、僕は柔らかめの職業なので、苦手なシチュエーションは避けるようにしています(笑)。
横並びで親睦を深める鉄板焼レストラン
――では、そんな日紫喜さんがオススメする、ちょいとカジュアルな会食スポットをいくつか教えてください。
日紫喜 カジュアルなお店を紹介する前に、まずは絶対の安定感があるスポットとして、六本木の鉄板焼レストラン「けやき坂」を挙げさせてください。高級ホテル「グランド ハイアット 東京」内にあるお店なので、ディナータイムに飲み食いすれば1人3万円程度はかかりますが、ゆったりできるし、ホスピタリティも満点。
横並びのカウンター席ですから、接待相手と面識が浅くても緊張感は漂いません。目の前のシェフがダイナミックに料理を仕上げていくライブ感も手伝って、会話が弾むことでしょう。
ベッド&ジャグジー付き。家よりくつろげるダイニングバー
日紫喜 大人数でちょいとカジュアルな会食を楽しみたいなら、西麻布のダイニングバー「KASAHARA(カサハラ)」がいいでしょう。外からは中の様子が一切見えず、インターフォンを鳴らして扉を開けてもらうシステム。中に入ると、ソファーやベッドのみならず、ジャグジーまであるので驚きますが、怪しいお店ではありません。
もちろん、料理も非常に美味しいんです。固定のメニューはなく、その日仕入れた新鮮な食材がドーンと提示され、お好みで調理をしてもらいます。「このカキ、フライにしてもらえる?」などのリクエストもできますし、予算を告げた上で「全てお任せ」でも大丈夫です。
個室はないので秘密の会食には不向きですが、広い空間でくつろぎながら食事と会話を楽しみたい夜にはピッタリ。27時まで営業しているのも心強いです。
二次会に最適!渋谷に現れたアクロバティックな居酒屋
――二次会にふさわしい、ちょいカジなお店はありますか?
日紫喜 このあいだ深夜に行って面白かったのが、渋谷の「ももまる」です。雑居ビルの地下にある狭い居酒屋なのですが、シャンパンのボトルを入れると、ショータイムが始まるんです。
全身をピンク色でまとった店長のレディーモモ氏が、店内のブランコを使って、アクロバティックなパフォーマンスを見せてくれる。「居酒屋でなぜこんなことを?」という非日常感が楽しいです。
――肝心の料理のお味は?
普通に美味しいし、価格も良心的です。「まだまだ飲み足りないし、小腹も空いた」「眠気覚ましに刺激がほしい」と言う人を連れて行くには最適なお店だと思います。
会食の目的は「お互い腹を割る」こと
――会食中は「今後の関係が良化するようなコミュニケーションに努める」と言う日紫喜さん。具体的に、どのような会話をするのでしょう?
日紫喜 お酒の力も借りつつ、ポジティブな意味で「お互い腹を割る」ことが大事だと思っています。「ぶっちゃけ、僕らのメディアをどう思うのか?ダメなところは改善したいので言ってほしい。逆に御社でお困りのことがあればお聞きしたい」というスタンスで穏やかに会話をします。クライアントさんのお悩みから、ビジネスのアイデアが生まれることもありますから。
――会食がきっかけでビジネスが成功したケースはありますか?
日紫喜 会食が原因かはわかりませんが、後日、弊社の広告部への橋渡しを頼まれて、出稿につながったケースはあります。また、会食を経てお互いの思っていることがわかれば、大きな案件でも揉めることなく、スムーズに進むことが多い。一食一食が直接的に成果につながるわけじゃないですが、会食は、お相手との信頼関係を築くための積み重ねの一つにはなると思います。
――逆に、会食で失敗したケースは?
日紫喜 失敗しないように気をつけていることならあります。僕はお酒に弱く、調子に乗ると記憶がなくなってしまうので、会食中はゆっくりお水も飲むように心がけています。あとは、会食前のコンディションづくりや会食後のヘルスケアも欠かせません。ウチの編集部には、二日酔いの薬や胃腸薬がたくさん置いてあるんですよ。僕らにとって飲食は、仕事の一部ですからね(笑)。
<店舗情報>
店舗名 :けやき坂
店舗住所 :東京都港区六本木6-10-3 グランド ハイアット 東京4階
電話番号 :03-4333-8782
営業時間 :ランチ11:30~14:30(土・日・祝~15:00)
ディナー18:00~21:30
定休日 :なし
<店舗情報>
店舗名 :KASAHARA(カサハラ)
店舗住所 :東京都港区西麻布2-2-2 NK青山ホームズA3
電話番号 :03-3498-3498
営業時間 :19:00~翌3:00
定休日 :不定休
<店舗情報>
店舗名 :ももまる
店舗住所 :東京都渋谷区桜丘16-7 鈴木ビルB1F
電話番号 :03-6416-0042
営業時間 :18:00~翌4:00
定休日 :不定休
▼東京会食日記#1
▼東京会食日記#3
このコンテンツは株式会社ロースターが制作し、ビズテラスマガジンに掲載していたものです。
企画:大崎安芸路(ロースター)/取材・文:岡林敬太/写真:栗原大輔(ロースター)