VANQUISH石川涼さん「洋服を買うエネルギーがアートに転換される」

2017年12月にスタートしたInstagramアカウント「古着女子」が開始5ヵ月で10万フォロワーを超えて話題となり、今では古着販売や自社のアパレル事業なども手掛ける企業yutori。その企業名の通り、1993年生まれの創業者・片石貴展はゆとり世代ど真ん中を生きてきた起業家です。

そんなゆとり世代を代表する片石が、憧れの先輩起業家たちに話を聞き、勉強させてもらうというありがたい連載がスタート。記念すべき第一回のゲストにはVANQUISHなどを手掛ける株式会社せーのの石川涼さんが登場します。同じアパレルという分野で20年前から話題を作り続ける大先輩から、ゆとり世代の代弁者として片石さんはどんな話を聞き出すのでしょうか。

石川涼(いしかわりょう)株式会社せーの代表
1975年、神奈川出身。20歳で上京し、アパレル業界での実績経験を積んで24歳で独立。29歳でアパレルブランドを立ち上げた。現在は「VANQUISH」や「#FR2」「LEGENDA」「gonoturn」などを手掛けるほか、店舗開発事業やメディア開発、ライセンス事業なども行う。

片石貴展(かたいしたかのり)株式会社yutori CEO
1993年、神奈川県出身。株式会社アカツキにて、新規事業部の立ち上げに従事。個人的にInstagramアカウント「古着女子」を立ち上げ、2018年4月に初期投資0円”インスタ起業”として株式会社yutoriを創業。その後、ECサイト「9090」やオリジナルブランド「dabbot.」など事業を広げ、2018年12月には下北沢にコミュニティスペース「pool」をオープン。

 

目次

石川涼、起業の原動力は?

片石 今日は「今起業するなら何をやるか?」というテーマで話を伺えればと思います。まず、今と昔では起業の価値観が変わっているような気がするんですが、僕は今しか知らないので、石川さんから見て、何か変わったと思いますか?

石川 変わったのかなあ(笑)。僕は今まで立ち止まったことがなくって、よく分からない。ビビったことがないんだよね。

片石 早速かっこよすぎます!僕なんてビビりまくりです。

石川 みんな大げさに考えすぎなんだよね。周りから「大丈夫?」という圧力はあるんだけど、失敗したところで死ぬわけじゃないし。そこがみんなと根本的に違うのかも。躊躇したことがない。たしかに、今と昔で仕組みは違うけど、あんまり時代背景は関係ないんじゃないかな。

片石 とはいえ、リスクは単純に昔の方が多いのかなと思うんですが、それを怖がらなかったのはどうしてですか?

石川 わかりやすく言うと、バカなんだと思う(笑)。考えない。

片石 なるほど(笑)。自分を突き動かしていたのは何だったんですか?

石川 俺は会社を作って成功したいとか、そういうのじゃなかったんだよね。たまたま自分がやってきたことで結果が出たから、これなら一人で食っていくにはなんとかなるなという感じで、会社を大きくしたいという夢があったわけでもない。

起業前にアパレルのサラリーマンやってたときの社長がアル中だったんだよね。毎日ビール缶とかぶつけられてて、ムカついてたってのはあって。でも、大きい会社にいたら自分に任せてもらえる仕事量は全然違うし、どっちが大事か考えたんだよね。社長は気に入らないけど、会社にいれば勉強できるし。それで、やっていくうちに結果がついてきたから、この会社でもう我慢しなくていいやと。

片石 起業のきっかけはあったんですか?

石川 積み重なっていった感じ。生意気だったから、先輩にいじめられたりとかして、それに対する反骨精神で頑張るじゃん。そのうち、いじめてた先輩が自分のチームで部下になったりとかして。

 

起業して成功するには、自分をわきまえること

片石 起業に関して、成功しようと思いすぎというか、ハードルが高すぎて身動き取れなくなる人は多い気がします。

石川 ほとんどが、そうなんじゃないかな。ファッション業界に入ってくる人は、ほとんどが自分のブランドを作りたいと言う。でも、現実はそんな仕事いきなりやらせてもらえるわけじゃないし、目の前の仕事と理想にギャップがありすぎて、諦めちゃう。これ、起業した社長と同じことだよね。やった先に次があるだけで、本当は起業なんて地味なことなんだよ。

片石 しかも、今はSNSでなんでも見えるから、自分は地道に頑張ってるのに、SNSで成功している人ばかりが見えたりして。どうすれば、地味なことに耐えられるんでしょう。

石川 自分をわきまえることじゃないかな。よくあるのが、自分より上にいる人に会ったら自分もその位置にいると思ってしまうこと。その人と知り合うだけでそのポジションにいけると思うやつがほとんどなんだけど、自分が先にその場所に行くことが重要なの。そうやって背伸びしたがる奴が一番成功できないと思う。大切なのは、まわりから利用価値があると思われるかどうか。学生じゃないんだから、相手にバリューを返さないといけないしね。

片石 地道にやってても、失敗するという不安が少なからずあるんですかね。

石川 みんな考えすぎなんだよね。だって、完璧な時なんて来ないもん。よい大学出て、よい企業に入れば安泰だという風潮が一番よくないのかも。そこを全日本人が否定しないと、起業に対する不安は変わらないかもね。

片石 その空気感を変えていくのが僕らの世代で、もっと寛容になっていけたらいいなと思うんです。例えば、YouTuberは自分の人生をコンテンツとして提供していて、成功だけじゃなくて、いろんな変化を見せていて。失敗も笑い話になるんだって。

石川 YouTuberは嘘がないからね。メディアにはスポンサーもいて、結局作られた世界だってことに世の中が気付いちゃったから。本当のことが好きだからね、みんな。

 

「自分がすごいと思ったことはない」

片石 客観的に市場での自分のポジションを見ることと、主観として「自分はできるんだ」って思うこと、そのバランスが難しい気がしていて。どうやってそのバランスを保つんでしょうか。

石川 難しいね。一言で言うならセンスしかないでしょ。難しい質問してくるね(笑)。

片石 自分も結構悩むんですよね。

石川 逆に、片石くんは何に悩むの?

片石 客観的に自分を見ることと、自分はすごいんだっていう主観的な視点、悪魔と天使みたいな。それをどう同居させて、使いこなすか。考えすぎといえば、考えすぎなんですが。

石川 じゃあ、何に対して自分すごいと思う?

片石 何だろう、あんまり嘘つかないところかなあ。本当に思ったことを話して、共感してくれたらうれしいし、9割に嫌われても1割に好かれればいいと思っていて。それくらいしかないなあ(笑)。

石川 俺はちなみに、自分がすごいと思ったことないかも。自分たちが何かに挑戦して、お客さんが喜んでくれたり、モノが売れたり、結果に対して良かったと思うことは多いけど。学生の頃、勉強してないのに大体できちゃったりして。そんなに俺すごいかなあって。

だから今でもパーソナルな問題よりも、会社として世に出したものに対して喜んでくれる方がうれしい。でも、過去の栄光はどうでもよくって。去年なんか毎週イベントやってたから、そこで止まってられなくて。ただ起きてることに向き合ってるだけなんだよね。

 

石川さんが今起業するなら、何をする?

片石 さて、ここから本題です。今、涼さんが起業するなら、どんなことをするでしょうか。

石川 何やるかなあ。今20歳くらいなら、海外に行って暮らすかな。

片石 どうしてですか?

石川 日本だけだと限界があるし、なかなか仕組みが変わらないから、どう戦っていくかと考えたときにグローバルを見るしかないなと。僕は10年前くらいにそれに気付いたから、頑張ってきたんだけど。

片石 Instagramはビジュアルコミュニケーションだから、言語が関係ないですしね。

石川 だから、インスタ集中してやったんだよね。

片石 先見の明がすごいです。

石川 現場が好きなんだよね。目の前のことにだけ興味があるというか。みんなが毎日何を触って、何を感じているか。そこに一番ヒントがある。十数年前に福岡に通い始めたとき、なんで福岡の女の子はみんな優しくて可愛いんだろうって思って。掘り下げてみたら、日本で一番女の子の比率が多い地域だった。しかも、何百年も昔から。必ず現象には原因があるんだよ。

俺はゼロから何かを作るようなアーティストじゃなくて、マーケットを見て足りないものを作って行く感じ。その方がビジネスになりやすいし、一番にやれたら絶対売れるし。20世紀っぽい、上から投げ落とすやり方が好きじゃないんだよね。

 

叩かれるということは、自分が新しいことをやっている証明だ

片石 じゃあ、今、若者がやって勝ち筋があることってなんでしょう?

石川 俺らの時代に比べたら、なんでも可能性あると思うんだよね。昔と比べ物にならないくらい伝える術があるじゃん。アーティストにもなれるし、歌でもドラマでもできるし、何にでもなれる。とにかくやってみたらいいと思うんだよね。みんな、何を躊躇してるんだろう。

片石 やったことが成功しないとダメという思いに囚われているんだと思います。でも、めちゃくちゃ準備したものが成功するとは限らないですよね。僕が「古着女子」やったときもフォロワー20万人になるなんて思ってなくて。古着雑誌が次々なくなったタイミングだったから、できるんじゃないかと思ってやったらうまくいったんです。

石川 やらない人は何が怖いんだろう。

片石 失敗がカッコ悪いっていうか、叩かれやすいというか。

石川 叩かれてもいいじゃん。戦えばいいじゃん!

片石 でも、叩かれても、炎上してもOKみたいな風潮は強くなってきたと思います。昔は3年働かないと辞められないとか、上の人の都合のいいように作られた価値観があったけど、こうした価値観も変わってきていて。別に失敗しても「ないわあ」とはならないんです。

石川 俺なんて14年前くらいに「VANQUISH」やって売り上げも上がって、新しい企画を発表する度に叩かれまくられたわけ。でも俺はある意味、それがパワーだったの。ファッション業界が理解できていないということは俺は100%新しい。でも、20年やってきて、最近は賞賛されるわけ。かっこいいと。もう不安でしかない(笑)。最近はみんなの理解の範疇を超えてないのかなと。アンチがいないことに対する恐怖感というか。叩かれるということは、自分たちが新しいことをやっている証明だと思ってほしい。

片石 理解されないとおかしいと思ってしまうんですけど、理解されないということは大人ができないってことですもんね。誰も真似できないなと。

 

ゼロ円で何かをやるなら“アートビジネス”

片石 「古着女子」はインスタ運用だからゼロ円で始めたわけですが、もしゼロ円で何かやるとすれば、何をやりますか。

石川 実はこれからやるんだけど(笑)、絵を描きます。壁のビジネス。もともと絵描くの好きなんだけど、自分がアーティストに向かっていくというか。

片石 面白い!何に可能性を感じているんですか?

石川 “壁を埋める”ビジネスがくると思ってるんだよね。

片石 バンクシー(※1)みたいな?

石川 バンクシーもそうだよね。一人暮らしの壁を埋めるビジネスは結構くると思う。昔ほどの洋服のパワーが感じられないし、そんな時みんなのエネルギーがどこに向かうのか、ずっと考えてたんだよね。そうしたら、絵とか写真とか、あと移動なんだよね。旅行とか。服は安く済ませて、余ったお金で海外行ったり、美味しいレストラン行ったり。そのひとつで美術館に行く人がめちゃくちゃ増えてて。アートを見てる自分って知的だし、アートが好きって言うときの優越感とか。今はSNSでアピールする場所があるから、アートのことわかんなくても、アピールしたいんだよね。

石川さんが購入したばかりのアートも見せてもらいました。

片石 アートって写真と一緒で言語化しなくていいですしね。

石川 そうそう。1億円の絵って誰でも買えるわけじゃなけど、1万円とか、3万円とか、手の届く範囲のアートをみんな買ってる。「Supreme」のポスターを部屋に飾るとかっこいいみたいな、その延長のビジネスがくると思う。10年前の洋服と一緒。

片石 洋服は着られるけど、アートって持ち運べないから、流行るというのはSNSがある前提ですか?

石川 そう。iPhone で持ち運べるじゃん。

片石 そんなこと、どこで気付いたんですか?昔から神童だから?(笑)

石川 海外で毎回その土地の美術館に行くんだけど、海外だと絵の前に座って模写したり、絵の前で寝転んでたりしても怒られないわけよ。ところが、日本って美術館をやたらと敷居高くするじゃん。やだなと思ってたんだよね。だけど、日本でもここ数年やけに美術館に人が増えてきたなと。

でも、今時間がないんだよね。だから、自分が今ゼロからやれるなら、絵とか写真に集中するなあ。

※1 ロンドンを中心に活動する覆面芸術家。世界各国の壁にステンシルを使って反資本主義・反権力など政治色の強いグラフィティを残したり、大英博物館などの館内に、作品を無許可で展示したりするなどのパフォーマンスを行う。いま世界で最も注目されているストリート・アーティスト。

 

ビジネスの根底にあるのは「子どもの精神」

片石 今日話を聞いて、全部“観察”がルーツになってる気がしました。

石川 観察っていうか、もはや知覚過敏なのかな(笑)。「えっ」て思ったことに敏感で、とりあえず調べるのかも。

片石 よくみんな内に内に掘っていく作業をして行き詰まりがちだけど、涼さんは外を見ているというのが大きな違いだし、観察ってタダでできる。それくらい自然な行為の中でアイデアが生まれるというのはめちゃくちゃいい話だと思いました。

石川 子どもと一緒だよね。これはこうあるべき、みたいなのが自分の中にない。

片石 いや、よい話たくさん聞けました。この記事何度も読み返しますわ。

石川 本当?この(事前アンケートの)質問全然出てこなかったけど、大丈夫?(笑)

 

インタビューを終えて

片石 先輩起業家に「今起業するなら何をやるか?」をテーマにお話を伺うありがたい新連載ですが、初回から涼さんが実際にやろうとしている新ビジネスの真髄について語ってくれる貴重な回となりました。

「ただ、ヤりたいだけ。」その言葉に代表されるように、涼さんは、内なる自分ではなく「自分の外の世界」に強く興味があるんだなと感じました。僕らの世代では、自己分析や自分のコアを深掘りする運動も少なくないですが、自分の目で自分のことを正しくとらえるというのはとても難しい。社会や他人、外の世界に没入することでこそ、逆説的に自分を見出すことができるのかもしれない。そんな”救い”のある話を、今回は聞かせていただきました。次回もお楽しみに!

 

このコンテンツは株式会社ロースターが制作し、ビズテラスマガジンに掲載していたものです。

 

企画・取材:大崎安芸路(ロースター)/文:角田貴広/写真:栗原大輔(ロースター)

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