出張先でお土産を買うとなると、けっこう悩んでしまうものです。そこで各都道府県のお土産事情に詳しい“達人”が、とっておきの逸品をご紹介。地元の人ならではの卓越したセレクトを、ぜひお土産選びの参考にしてください。
第1回は、華道のお家元・笹岡隆甫さんに、地元京都の「とっておき」を教えていただきました。あなたの知っているお菓子はありますか?
笹岡 隆甫/華道「未生流笹岡」家元 1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。3歳より祖父である二代家元笹岡勲甫の指導を受け、2011年に三代家元を継承。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、さまざまな公式行事やイベントでいけばなパフォーマンスの披露も行う。2016年にはG7伊勢志摩サミットの会場装花を担当した。近著に『いけばな』(新潮新書)。京都ノートルダム女子大学客員教授。大正大学客員教授。京都市教育委員会委員。
伝統を受け継ぐためには革新が必要
――お家元の普段の活動内容を教えてください。
笹岡 私の活動は、大きく分けて2種類あります。一つは家元としてのお仕事。こちらでは主に華道の先生方に教え方や考え方を伝えます。もう一つは、異ジャンルとのコラボレーションです。先人が築いてきた華道の伝統を大切にするのと同時に、時代の要請にあわせてどんどん新しいものを生み出していくために、能、歌舞伎、日本舞踊、オペラ、プロジェクションマッピングなど異分野とのコラボレーションも積極的に行っています。
――いただきものを受け取る機会が多いお立場だと思いますが、逆にお土産を渡す機会はよくありますか?
笹岡 そうですね、友人や知り合いの家にお呼ばれされたり、一緒にごはんを食べに行くときに、手土産をお渡しすることは多いです。
――今日あげていただくお土産に何か共通項はありますか。
笹岡 やっぱり京都の人にお渡しすることが多いのですが、そうした地元の方々が普段からよく食べていて、お土産で渡したときに「ここのは美味しいですよね」と言っていただけるようなお品です。
それと、いつ行っても“変わらぬ味”を維持されているという点ですね。実はひとくちに“変わらない”と言っても、とても難しいことなんです。なぜなら時期や時代により材料の質も、気候も、人の好みも変わっていくからです。
その中で変わらぬ味を出すには、むしろ日々試行錯誤し、新しいことにどんどん挑戦する必要があります。そうしたご苦労を経営者の方々が自ら担われていることに頭が下がります。伝統を受け継ぐために新しいことをやっていくというのは華道にも通じるので、お気持ちがよくわかります。
1年でその日にしか買えない特別なチョコレート
――地元っ子にも愛され、かつ厳しい目利きの目を持ったお店の逸品ということですね。それではさっそくご紹介ください。
笹岡 まずは、お濃茶ラングドシャ「茶の菓」で有名な洋菓子店・京都北山 マールブランシュが手がけるチョコレート専門店・加加阿365祇園店の、その名も「加加阿365(かかおさんろくご)」です。
このチョコレートは“365”という通り、1年365日で全て異なる「紋」が入っています。つまりは、1年でその日にしか買えない特別なチョコレートなんです。
もちろん誕生日や記念日のプレゼントにもぴったりですが、特別な日でなくとも、一期一会を感じさせてくれるところが感動です。ぜひご家族や大切なクライアントさんにお渡しいただければと。
――チョコレート自体はどのようなものですか。
笹岡 チョコレートにもすごくこだわりをもって作られていて、口に入れた瞬間と、噛んだときと、口の中で溶けるときとで味が段階的に変わっていきます。そういった味覚の“波”のようなものまで計算して作られています。
皇室の引き出物にも使われる由緒正しい金平糖
――出張土産の中でも記憶に残りそうな一品ですね。では、クライアントや御礼などでお渡しするのにお勧めの商品はありますか?
笹岡 日本で唯一の金平糖(こんぺいとう)専門店・緑寿庵清水の金平糖がお勧めです。実は金平糖作りは一子相伝の技で、非常に難しくて手間がかかります。なんでも、粒を手作業で少しずつ少しずつ大きくしていくため、完成するまでに16日から20日間もかかるそうです。
それだけ手をかけて大切に作り上げたお菓子ということで、金平糖は皇室の慶事の引出物にもよく使われます。ですので、あらたまった場面でお送りするのにも相応しいお品です。
――お店ではさまざまな金平糖が販売されていますが、何がお勧めでしょうか。
笹岡 個人的には抹茶味などのシンプルなタイプをいただくことが多いです。最近、銀座にもお店ができて東京限定のものもありますが、もちろん京都限定のものもあるので、せっかく京都にいらしたのであればそれを買われるのもいいのではないでしょうか。また季節限定の味わいもあります。緑寿庵清水には本当に多くのお客さんが毎日来られ、購入制限がありますので、そういった点でも希少性の高いお土産品といえます。
――ほかによく渡されるものは?
笹岡 和菓子の老舗・老松のお菓子です。四季を映したお菓子は、まさに見事な芸術作品です。また、日持ちのきくものを求める場合は、老松の干菓子を買うことが多いです。「◯◯◯円くらいで」と伝えると詰めあわせていただけるので、とてもありがたいですね。それと老松さんは夏柑糖」(4月1日~夏季のみのお取り扱い)も特別な美味しさで、地元でも好きな方が多いです。
それと宇治茶専門店・祇園辻利のほうじ茶チョコレート「焙の香(ほのか)」もよくお渡します。祇園辻利さんは抹茶パフェなども有名で、こうしたスイーツにもきちんとお茶を使っていて、とても香りがしっかりしているのが特長です。
1717年創業・一保堂茶舗の、知る人ぞ知る「紅茶」もお勧めです。“老舗の日本茶専門店の紅茶”という、ちょっとしたサプライズがあります。
その土地、そのお店でしか買えないもので気持ちを伝える
――お土産選びの秘訣とはなんでしょう?
笹岡 やはり、できる限りお渡しする相手の状況や好みを知っておくことではないでしょうか。例えば人数が少ない家族へ大きなお菓子をお持ちしても仕方がないし、どんないいものであっても好みでなければ喜んでいただけません。だからお渡しする方にとって何がハッピーかというのを、相手の立場に立って考えることが、お土産選びの一番の基本になるのかなと。そして、そうやって選ぶ時間そのものを楽しみ、そうした“気持ち”を相手にお伝えする。そこがとても大切だと思います。
――そうした秘訣は、華道にも通じるものがありますか?
笹岡 いけばなでも、相手のことを考えて花をいけることがとても大事です。例えば玄関の花や床の間の花を、お越しになる方にあわせて変えることがあります。そのときにその方の好みを知っていれば、より喜んでいただくことができます。また、来られる時間にあわせてちょうどつぼみがほころぶようにいけたりもします。本当にその花をご覧いただく方のことを考え、その花が一番輝いている姿を見ていただく。そうした心づくしの部分では通じるものがありますね。
――心づくしというのをふまえると、やはり帰りの新幹線に乗る前にパッとお土産を買うようではだめでしょうか?(笑)
笹岡 もちろん状況によってはそれでも十分だと思います。ただそれとは別に、“わざわざ自分のことを思って買ってきてくれたんだ”という形で、気持ちを受け取ってもらう方法もあるのかなと。だからその店でしか買えないものをわざわざ買いに行ったり、並んで買ったりすることにも、大切な意味があると思います。
<店舗情報>
店舗名 :マールブランシュ 加加阿365衹園店
店舗住所 :〒605-0074 京都府京都市東山区衹園町南側570番地150
電話番号 :075-551-6060
営業時間 :10:00~18:00
定休日:無休
店舗名 :緑寿庵清水
店舗住所 :〒606-8301 京都府京都市左京区吉田泉殿町38番地の2
電話番号 :075-771-0755
営業時間 :10:00~17:00
定休日:水曜・第4火曜(祝日は営業)
店舗名 :老松
店舗住所 :京都府京都市上京区社家長屋町675-2
電話番号 :075-463-3050
営業時間 :9:00~18:00
WebサイトURL:http://oimatu.co.jp
定休日:不定休
店舗名 :祇園辻利
店舗住所 :京都市東山区祇園町南側573-3
電話番号 :075-551-1122(問合せ先は本社075-525-1122)
営業時間 :10:00〜22:00
定休日:無休
WebサイトURL:http://www.giontsujiri.co.jp
店舗名 :一保堂茶舗
店舗住所 :京都府京都市中京区寺町通二条上る
電話番号 :075-211-4018
営業時間 :9:00~18:00
WebサイトURL:http://www.ippodo-tea.co.jp
定休日:不定休
このコンテンツは株式会社ロースターが制作し、ビズテラスマガジンに掲載していたものです。
企画:大崎安芸路(ロースター)/取材・文:田嶋章博/写真:栗原大輔(ロースター)