学生の頃、国語で習った倒置法を覚えていますか?
小説や短歌などによく用いられていますが、実は「自分の文章が堅い」「平易だけど物足りない」と悩んでいる人におすすめしたい表現技法なのです。
今回はあなたの文章を印象的にする倒置法の意味や使い方を、例文を交えながら解説します。
国語で習った「倒置法」とは?
「倒置法」とは、通常の文章の語順をあえて逆にして印象を強める文章表現のテクニックです。
- 「倒す」=ひっくり返す
- 「置く」=配置する
この2つの言葉から「語句を逆にする」という意味になるんですね。
倒置法を使うと通常の文章は次のように変化します。
通常の文章:一番星が光っているよ。
倒置法の文章:光っているよ、一番星が。
体言止めとの違い
文章表現のテクニックのことを「修辞技法」と言います。修辞技法はいくつかありますが、倒置法と混同しやすいのが体言止めです。
体言止めとは文末を名詞や代名詞で止める表現方法です。こちらも和歌などによく使われています。
体言止めは名詞で終わるのに対し、倒置法は助詞(「は」「が」「を」など)で終わるという違いがあります。
倒置法:光っているよ、一番星が。
体言止め:光っているよ、一番星。
倒置法は正しい日本語なのか?
倒置法を使うことで語順が変わり、場合によってはやや不自然な流れになってしまいます。そのため倒置法は正しい日本語かというと、疑問を持つ人も多いでしょう。
確かに「論理的で正しい日本語」を書きたいのなら、倒置法は向いていないかもしれません。しかし「読み手に印象を残し、味わいのある文章」を書くなら、簡単に実践できる倒置法がぴったりです。
実際に倒置法は国語の学習指導要項として指定されており、教科書に載っています。日本語の味わい深さや美しさを学ぶ表現方法ではないでしょうか。
英語に倒置法はあるの?
日本語とは違う文章構造である英語にも倒置法があります。主に感動したときの感嘆文などに使われ、会話文や歌詞などで見かけますよ。
通常の英文: The story is wonderful.
(その物語は素晴らしい。)
倒置法の英文:How wonderful the story is.
(なんて素晴らしいのでしょう、その物語は。)
英語で倒置法を用いる場合、そのままひっくり返すのではなく「How+形容詞」や「What a+名詞」といった使い方をするので注意しましょう。
倒置法の効果
倒置法の具体的な効果は4つあります。
- 強調したい部分を印象付ける
- 情緒的な表現ができる
- 語勢を強める
- リズムを整える
これらの効果を理解して倒置法を使うと、より印象的な文章になり読み手の心の中に残りやすくなります。
それでは効果を1つずつ見ていきましょう。
強調したい部分を印象付ける
最後に目的語を持ってくることで、文章の中の強調したい部分を相手に強く印象付けられます。
欲しがりません、勝つまでは。
こちらは有名な戦時中の標語です。「勝つまでは」という言葉をより強調し、語呂合わせもよく、一度聞いただけで印象に残った人も多いでしょう。
私たちは行列に並んだ、話題のアイスクリームを食べるために。
「話題のアイスクリームを食べる」が強調された例文です。小説の第1章がここで終わっていたら「それで、アイスクリームはどうなったの?」と続きが気になり、第2章まで読み進めたくなりますよね。
語句を入れ替えるだけで強調したい部分を強調できるため、メールやSNS等での文章のやり取りが増えた現代では便利な表現方法ですよね。
情緒的な表現ができる
倒置法は情緒的な表現ができるのもポイントです。
私はどうしても会いたかったの…あなたに。
この例文では「(他の誰でもない)あなたに」どうしても会いたかったんだ、という切ない気持ちが伝わってきますよね。
耳に心地よく響く、川のせせらぎが。
こちらは川のせせらぎの音が実際に聞こえてきそうな表現になっています。読み手に景色や音をイメージさせるときにも倒置法が効果的です。
語勢を強める
文章の最後が助詞の「が」や「は」で終わることで、語勢を強める効果もあります。例えば次のセリフです。
誰なんだ、君は。
さっきから何なんだよ、お前は。
とても短いセリフですが「君は誰なんだ」「お前はさっきから何なんだよ」と書くよりも、話し手の苛立ちや語尾の強さをこの一文から感じ取れるのではないでしょうか。
小説や台本などで話し手の感情を表現するのに役立ちます。
リズムを整える
短歌や俳句、詩、歌詞の場合、倒置法にはリズムを整える効果もあります。
金色の 小さき鳥のかたちして いちょう散るなり 夕日の丘に
こちらは与謝野晶子の有名な短歌です。下の句を通常の文章に直すと「夕日の丘に いちょう散るなり」となりますが、短歌としてリズムを整えるために倒置法を用いています。
同時に情緒的な後味を残してくれるため、短歌や俳句の作家には倒置法が好まれているのです。
倒置法の使い方と注意点
倒置法は文章を印象に残すのに効果的な修辞技法ですが、改めて使い方を復習しましょう。
また文章が不自然にならないように注意したいこともあるため、合わせて解説します。
語順を入れ替える
ここまで見てきた通り、倒置法の使い方は「語順を入れ替える」だけ。
日本語は「主語→目的語→述語」の流れで書くのが一般的です。そこに倒置法を用いることで「主語→述語→目的語」という順番になります。
通常の文章:私たちは(主語)話題のアイスクリームを食べるために(目的語)行列に並んだ。(述語)
↓
倒置法の文章:私たちは(主語)行列に並んだ、(述語)話題のアイスクリームを食べるために。(目的語)
また主語と述語だけの文章の場合、そっくりそのまま入れ替えることもあります。
通常の文章:私の親友が(主語)結婚したんだ!(述語)
↓
倒置法の文章:結婚したんだ!(述語)私の親友が。(主語)
倒置法は簡単に使えますが、場合によっては不自然すぎる文章になることもあります。不自然になっていないか客観的に確認してください。
倒置法の向き・不向き
実は倒置法には向き・不向きの文章があります。
向いている文章は小説・短歌・俳句・詩・歌詞・エッセイ・コラムなど、ストーリーや感情を伝える文学的な文章です。こうした文章に倒置法を使うことで、表現の幅を広げられるでしょう。
一方で不向きな文章は論文・学術書・新聞記事・ビジネス文書など、客観的に事実を述べるための文章です。こうした文章では書き手の気持ちや感情よりも事実が尊重されます。よって倒置法を使わず、通常の語順で事実を述べるようにしましょう。
多用しないこと
倒置法を多用すると逆に読みにくい文章になってしまいます。強調して印象付けるといった効果も半減するでしょう。
(悪い例)
僕たちは全力で自転車を漕いだ、花火を見るために。
もうすぐ終わってしまう、花火大会は。
最後の花火が打ち上げられたそのとき、ビルの隙間から奇跡的に見えたんだ、大輪の花が。
倒置法を多用して、くどい文章になっていますね。この3文のうち、強調したい1文だけに倒置法を使うのが理想的です。
倒置法は文章の中で最も伝えたい箇所や「ここぞ」というところで使うようにしましょう。
倒置法以外の他の修辞技法
倒置法以外にも文章を印象的にしてくれる修辞技法はたくさんあります。
実は『天空の城ラピュタ』の登場人物ムスカ大佐のセリフでは、様々な修辞技法が使われているのをご存知でしょうか?
ここではムスカ大佐のセリフを例に、さまざまな修辞技法をご紹介しましょう。
倒置法:語句の順番を入れ替える
「見せてあげよう、ラピュタの雷を!」
体言止め:文末を名詞で止める
「中へお進みください、閣下」
擬人法:人でないものを、まるで人であるかのように例える
「七百年もの間、王の帰りを待っていたのだ」
直喩:〜のような、ようだ等を使って例える
「見ろ。人がゴミのようだ!」
暗喩:〜のような、ようだ等を使わずに例える
「立て!鬼ごっこは終わりだ」
反復法:同じ言葉を繰り返し、感動を伝えたり、強調したりする
「読める、読めるぞ」
省略法:文章の一部を省略し、余韻を残す
「目がぁ、目がぁ…」
反語法:反対の内容を述べることによって、逆に自分の考えを相手に強く認識させる
「最高のショーだと思わんかね!?」(いや思わないわけがない)
倒置法で文章をより感情的・情緒的にしよう
倒置法をうまく使えば、今まで平凡で味気ない文章を、味わい深い文章に変えられます。読み手に印象を残すこともできるので、特に伝えたい内容や感情を表現するときに用いてみてください。
倒置法のテクニックを身に付けて、より感情的・情緒的な文章を書いてみましょう!