「比喩」は誰しも一度は学校で学んだことのある表現技法です。比喩表現は小説や詩に深みが増すだけでなく、誰かに物事をわかりやすく説明したいときやビジネスのスピーチなどにも役立ちます。
しかし、そもそも「比喩」とは何か、どうやって使うのか、改めて考えてみるとわからない人も多いのではないでしょうか?
本記事では、比喩表現の種類と使い方を例文を挙げながら解説します。ライティングだけでなく、日常生活やビジネスの場面でもうまく比喩を使いこなしましょう!
「比喩」とはどういう意味?
「比喩」とは、何かを表現したり伝えたりする際に、あえて他の事柄にたとえて表現する技法のこと。「比喩表現」や「比喩法」とも呼ばれます。
比喩は文章に豊な表現を加えるために用いられる修辞法(レトリック)の1つ。そのため必ずしも必要な表現技法ではありませんが、使うことでより表現豊かな文章になるのです。
「メタファー」の意味
英語の「メタファー(metaphor)」も、ざっくり言えば「比喩」という意味です。
しかし、比喩を細かく分類すると「隠喩」という種類があり、「メタファー」が「隠喩」を意味することもあります。
比喩の種類・隠喩の意味や使い方などは後の項目で詳しく解説するので、あわせて確認してください。
比喩表現の効果
比喩表現は文章や会話にさまざまな効果を与えます。
- 伝えたい事柄をわかりやすくイメージさせる
- 表現したい事柄を強調する
- 表現したい事柄を情緒的・感情的にする
たとえば、次の表現を見てみましょう。
お母さんは鬼のような顔をしていた。
「鬼のような顔」という表現からは「お母さんが怒っている」という感情や「お母さんが顔を真っ赤にしている」という情景が思い浮かんできますよね。
あえて「怒っている」「顔を真っ赤にしている」と直接的には言わず「鬼のような顔」と表現することで、読者にイメージさせたり、怒りの度合いを示したりできるのです。
比喩表現の注意点
ただし比喩表現を使うときには「たとえた物事を相手が知っている」「共通認識である」という前提があります。その前提がない状態で比喩を使うと、文章は逆にわかりづらくなってしまうのです。
(悪い例)お母さんはトマトのような顔をしていた。
ほとんどの人は「トマトのような顔」がどんな顔なのか連想できないでしょう。この比喩からお母さんが「怒っている」というイメージが伝わらないのは、その比喩表現が共通認識ではないためです。
また比喩を使いすぎてしまうと、相手に回りくどい印象を与えてしまいます。
文章や会話をわかりやすくするために使った比喩表現が、逆に文章や会話を理解しづらくしてしまわないように注意しましょう。
比喩と似た技法
いわば比喩は“たとえる技法”ですが、比喩意外にも“たとえる技法”があります。
擬人法
「擬人法」または「擬人化」とは、人間以外の物事を人間の性質にたとえて表現すること。
擬人法には「空が泣いている」という表現がありますが、これは雨が降っている様子を「泣く」と表すことで、寂しい情景を連想させることができます。
「おっさんみたいな猫」のように、動物を人間の性質にたとえて表現しイメージしやすくすることで、相手の共感を得ることも可能です。
形容
「形容」とは、物事の形・姿・状態・性質・様子などを言い表すこと。実は比喩も形容の1つですが、形容そのものが比喩のようなはっきりとした意味を持つわけではありません。
ただし、何か想像を絶することが起きたときや意外な性質だったときなどには「言葉では形容できない美しさだ」「ちょっと形容しがたい味ですね」のように、会話で使われます。
象徴
「象徴」とは、抽象的なもの(イメージ)を具象的なもの(具体)に表すことです。たとえば、誰もがイメージしやすい象徴には次のものがあります。
- 情熱の赤
- 日本国旗の日の丸
- 鳩は平和の象徴
形がないものを形があるものとして表現するため、象徴は「シンボル」とも言われます。
【例文あり】比喩表現の種類と使い方一覧
直喩(ちょくゆ)
「直喩」とは、「〜のような」などの語を使って物事をたとえる技法のこと。わかりやすいことから「明喩(めいゆ)」とも言われ、最もシンプルな比喩表現です。
直喩で使う語は次のとおり。
- 〜のような、〜のようだ、〜のように
- 〜みたいな、〜みたいだ、〜みたいに
- 〜のごとく、〜のごとし、〜のごとき
冒頭に「まるで〜」がつくこともある。
これらの語を使うことで、それが比喩表現であることが明らかになるため、読者の混乱は少なくなります。
【例文】
彼女の笑顔はまるで天使のようだ。
お母さんは雷のごとく怒り狂った。
咲き誇る花たちも私たちを祝福しているみたいだね。
隠喩(いんゆ)
「隠喩」とは、「直喩」を使わずに強く言い切ってしまう比喩表現です。「暗喩(あんゆ)」と呼ばれたり、英語では「メタファー」と言われたりします。
【例文】
彼女は空から舞い降りた天使だ。
咲き誇る花たちも私たちを祝福している。
周りを明るく照らす君は太陽だね。
空がシクシク泣いている。
出社したら書類の山が待っていた。
もちろん「彼女は天使」でもなければ「君は太陽」でもないし、「空が泣く」わけもなければ「書類の山」という山は存在しません。
このように、本来は結びつくはずのない要素同士を掛け合わせることで、読者に両者の関係性をそれとなく示します。
直喩の「〜のよう」を取り除くだけでより強い比喩表現になるため、回りくどさを解消したいときや表現の幅を広げたいときには積極的に使いたい比喩表現です。
ただし、隠喩にしてしまうことで事実そのものが変わってしまうこともあるため注意。
(直喩)彼女は猫のようだ。
(隠喩)彼女は猫だ。
読者や相手に誤解を与えてしまわないか注意しながら上手に隠喩を使いましょう。
換喩(かんゆ)
「換喩」とは、物事の特徴を捉え、それと関連性のある言葉で言い換える表現技法です。例文で見てみましょう。
【例文】
平文:涙を流して泣く
換喩:袖が濡れる
平文:赤いずきんをかぶっている女の子
換喩:赤ずきんちゃん
平文:西洋の人々
換喩:青い目に白い肌の人々
換喩は“特徴を言い換える”と覚えておくと良いでしょう。
換喩表現を使うことでボキャブラリーに富んだ文章になります。同じ言葉が何度も続くときや言い回しが長くなるときなどに用いてみましょう。
提喩(ていゆ)
「提喩」とは、包含関係にある2つのものを使った表現技法です。わかりやすい例が「親子丼」や「お花見」です。
親子丼に乗っている鶏肉や卵は実際には「親子」ではありませんが、卵が孵ると鶏になるため「親子」と表現されます。また「お花見」とは言いますが、ほとんどの場合「桜」という特定の花を示します。
もう少し例文を見てみましょう。
平文:昨日は友人とコーヒーを飲みました。
提喩:昨日は友人とお茶しました。
「お茶」の中にはコーヒーもあれば、紅茶やジュースなども含まれます。それを「お茶」という全体の概念で言い表した例です。
平文:やっぱりお花を見るより美味しいものを食べた方が至福だよね。
提喩:やっぱり花より団子だよね。
逆に「美味しいもの」という全体の概念を「団子」という部分の概念で表した例がこちらです。
実際に食べるものが焼肉やポテトチップスでも「花より団子」という表現は共通認識されているので使いやすいです。
転喩(てんゆ)
「転喩」とは、先行する物事をもって、後続する物事を示す、あるいは後続する物事をもって、先行する物事を示す表現技法です。
こちらも例文を見た方がわかりやすいでしょう。
【後続する物事をもって先行する物事を示す】
彼はいよいよ玉座に就いた。
私は彼のお通夜に行った。
「玉座」とは、王や天皇が座るためのイスのこと。そのイスに座るためには王位を戴かねばなりません。つまり「玉座に就く」とは「王位を戴いた」ということの暗示です。
またお通夜は誰かが亡くなってから執り行われるもの。つまり「彼はすでに亡くなった」と暗示できます。
【先行する物事をもって後続する物事を示す】
うっかりバナナの皮を踏んでしまった。
僕は机に向かって原稿用紙のマス目を埋めることにした。
「バナナの皮を踏む」と「転ぶ」ことは誰でも連想しやすいのではないでしょうか。
後者の例文では「原稿用紙のマス目を埋める」というクセのある表現ですが、そこから連想できるのは「小説を書く」「反省文を書く」「読書感想文を書く」など。
つまり「原稿用紙のマス目を埋める」という先行する物事で「小説を書く」という後続する物事を暗示しています。
諷喩(ふうゆ)
「諷喩」とは、たとえだけを示してその意味を遠まわしに推察させる表現技法です。つまり抽象的な物事を具体的な物事で表現することで、「寓喩(ぐうゆ)」とも言われます。
ことわざや慣用句に使われたり、童話の中で使われたりすることが多いのが特徴。
【例文】
「朱に交われば赤くなる」
(意味:人は付き合う相手に感化される)
「燕雀 (えんじゃく) 安 (いずくん) ぞ鴻鵠 (こうこく) の志を知らんや」
(意味:小人物に大人物の気持ちはわからない)
彼は狡猾な狐だ。
(狡猾さ・悪賢い様子から狐が連想されることから)
諷喩にはいわゆる「言葉のあや」と言われるものが多いです。
他にも「ライオンは威風堂々としている」、「花は美しいもの」といった、固定概念的な考え方・ものの見方などがあります。そうしたステレオタイプ(=共通認識)があるからこそ、諷喩の存在意義があるのです。
奇想(きそう)
「奇想」は「奇想天外(考え方が思いもよらず奇抜であること)」という言葉にも使われていますが、比喩表現ではまったく関連性のないもの同士を結びつける技法です。
ここまで解説した比喩表現は、すべて関連性のあるものばかりでした。しかし奇想表現は関連性がないため、実際に使うのも難しい比喩表現だと言えるかもしれません。
事例は少ないですが、ここでは奇想を使って物事をうまく比喩したイギリスの詩人、ジョン・ダンの例をご紹介しましょう。
【蚤(The Flea)/ジョン・ダン】
助けておやりよ 蚤には三つの命があるのだから
蚤のおかげで僕らは結びついたんじゃないか
こいつは君でもあるし 僕でもある
こいつは僕らの新床でかつ 教会だ
親たちがなんと言おうと 君が嫌がろうと
こいつの黒い体の中で僕らは結ばれたんだ
こいつを殺すのは僕を殺すこと
また君自身を殺すことでもある
こいつを殺せば三つの罪を犯すのだよ
彼の詩の中で「蚤(ノミ)」は「教会」だと比喩されています。蚤が男女の血を吸い、その血が蚤の体の中で混じり合う様子から「結ばれた」と表現しているのです。
こうした発想は一見するとわかりにくいですが、ジョークのような面白味もありますよね。
音喩(おんゆ)
「音喩」とはいわば「オノマトペ」です。擬音語や擬態語を使って物事に「音」を付けることで、細かな様子を的確に伝えることができます。
【例文①】
雨がザーザー降っている。
雨がしとしと降っている。
「ザーザー」なら雨が激しく降っている様子が、「しとしと」では小雨が静かに降っている様子がわかりますよね。
【例文②】
「ついに来たんだわ」
彼女は目をキラキラ輝かせながら言った。
「ついに来たんだわ」
彼女は目をキョロキョロさせながら行った。
前者では彼女が楽しみにしていた様子が、一方で後者では彼女が動揺している様子がうかがえます。
音喩を用いることで、同じ文でもまったく逆の表現ができるのです。
うまい比喩表現をするコツ
慣用句のように使い古された比喩表現もありますが、中には自分で比喩表現を作りたい・使いたいという人もいるでしょう。
しかし比喩表現に失敗してしまうと、相手に本来伝えたい意図が伝わらず、理解できない文章・会話になってしまいます。
うまい比喩表現をするには、まず「本来の意味」と「比喩する表現」が遠く離れすぎていないかを確認しましょう。
たとえば最近よく言われる「豆腐メンタル」とは、「豆腐のようにすぐ崩れてしまうほど、メンタルが弱い」という意味。
「豆腐メンタル」は広く浸透した言葉になりましたが、その前は「豆腐」と「メンタル」がうまく結びつかず、意味がわからない人も多かったはずです。
奇想以外の比喩表現は、何よりも「たとえるもの」と「たとえられるもの」の関連性がとても重要。しっかり関連性を押さえてたとえることで、うまく表現できるようになります。
比喩表現を使って読者の心をわし掴みに
直喩や隠喩は誰でも普段から使っている比喩表現です。文章がつまらない、ひねりがないと思ったときには、まず直喩や隠喩から試してみると良いでしょう。
比喩に慣れてきたら、換喩や転喩などに挑戦していき、少しずつ比喩表現の技法を身につけていくのがおすすめ。
文章や会話をわかりやすくし、なおかつ情緒的にもできる比喩表現で読者の心をわし掴みしていきましょう!