表参道の行列仕掛人”がオススメする、目的別会食スポット

ビジネスの会食にふさわしい東京の飲食店を、各界の食通に教えてもらう不定期連載。今回は、飲食店運営や海外ブランドの導入などを通じて、東京のカルチャーシーンを賑わせ続けている「トランジットジェネラルオフィス」代表の中村貞裕氏がナビゲーターを務めます。

“表参道の行列仕掛人”の異名を持ち、外食アワード2017の受賞者でもある中村氏は、果たしてどんな会食スポットを読者にオススメしてくれるのでしょうか?

株式会社トランジットジェネラルオフィス代表・中村貞裕 1971年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学を卒業後、伊勢丹を経て、2001年にトランジットジェネラルオフィスを設立。カフェ「OFFICE」「Sign」などをオープンさせ、カフェブームの火付け役となったほか、シドニーの「bills」をはじめとする海外で話題のお店を続々と日本に上陸させる。一昨年には、外食業界で活躍した人に贈られる「外食アワード2017」を受賞。現在は飲食店運営のほか、鉄道やオフィス、商業施設のブランディング、プロデュースなども行う。

 

目次

今まで日本になかったカルチャーを根付かせる事

――まずは、中村さんが代表を務めるトランジットジェネラルオフィスの事業内容を教えてください。

中村 飲食店の運営が中心になります。「Sign」などのオリジナルの飲食店を経営する一方で、「レクサス」「メルセデス・ベンツ」「ディーゼル」「スカイツリー」などの飲食部門のオペレーションも手掛け、さらには「bills」や「ICE MONSTER」などのライセンス飲食ビジネスにも参入しています。累計で約110店舗の飲食店を運営していることになりますね。

その他の事業内容としては、空間プロデュース業や、グループ会社が手掛ける不動産事業などがあります。

――飲食店を運営していく上でのモットーを教えてください。

中村 そのお店をやることによって、今までなかったどういった文化をライフスタイルとして根付かせたいか。それをスタート時点で明確に決めるようにしています。例えば「bills」は、それまで東京になかった朝食カルチャーを根付かせるために始めた。うどん居酒屋の「二○加屋長介」は、そば居酒屋しかなかった東京に、うどんで〆るライフスタイルを根付かせるために始めました。

海外から持ってきたさまざまな大箱のレストランについては、このままニューヨークに持っていってもいいようなグローバルスタンダードなレストラン事業を、東京に根付かせるためにやっています。

 

まず店を押さえ、それから相手を決める

――世界を股にかけて活躍中の中村さん。ビジネスで会食する機会もさぞかし多いのではないでしょうか?

中村 はい。それが仕事の半分以上を占めていると言っていいですね。中でもクライアントとの会食や、海外から来た取引先との会食が、とりわけ大事な接待になってきます。僕は飲食の仕事をしているし、プライベートでも食べ歩きが趣味なので、「お店は中村さんが決めてくださいよ」と言われるケースが非常に多く、毎回プレッシャーを感じながらお店を選んでいます(笑)。

――どういう基準でお店を選ぶのでしょう?

中村 緊張するのは嫌なので、自分が行ったことのあるお店の中から、お相手の好みに合いそうなお店を選びます。選択肢は豊富です。食べ歩き仲間や、ウチのスタッフたちと常に情報交換していますし、気になったらすぐに食べにも行くので、自分で言うのもなんですが、美味しい飲食店には詳しいです。

それらの中から特にお気に入りの3軒ぐらいを、同日に仮押さえしておいて、お相手にお店を選んでもらうこともありますね。お店と僕の間に信頼関係がある場合に限りますが。

――会食はどの程度の頻度で行いますか?

中村 僕の場合、だいたい1年ぐらい先まで、週に3日ぐらいのペースで夕食の予約が入っています。

――えっ!? そんなに先まで予定が決まっているんですか?

中村 いや、人気店は急には予約を取れないので、お相手を決めぬまま、前もって片っ端から予約だけ取っておくんですよ。

そのお店が気に入ったら、帰るときに次回の予約を取ってしまう。取れるのはたいてい、3ヵ月後とか半年後になりますけどね。そんな感じでカレンダーを予約で埋めておいて、そこにぶつけるように誰かとの会食をセッティングするんです。

――セッティングするタイミングは?

中村 2週間くらい前まで、誰と行くか決めていないことが多いです。極端な場合、前日に決めたりもします。最悪、相手が決まらなかった場合は、ウチのスタッフを連れて行けばいいだけのことなので。

 

僕を好きになってくれる人と仕事をする

――会食の成功談や失敗談はありますか?

中村 いつもみなさんに喜んでもらっていますよ。例えば海外の人たちが来たときは、ライセンスを僕らと結ぶかどうかという話をすることが多いんですが、堅苦しい空気は作りません。美味しいものを食べてもらって、ワイワイ楽しんでもらいながら3、4軒ハシゴして、その間に僕らを知ってもらうのが目的なので。

明日もシドニーから有名なデザイナーたちが来るんですよ。「一緒に晩ご飯を食べよう」としか言っていないけど、向こうは「東京の夜をとことん楽しみたい」とスタンバっている雰囲気なので、その期待に応えるべくあちこちハシゴしようと思っています。

――どういうコースをハシゴすることが多いですか?

中村 今の僕の旬は、ご飯を食べた後に、アクロバットを鑑賞できる渋谷のラーメン居酒屋「ももまる」に行って、六本木のボックスディスコ「パーティオン東京」で〆る、というコースですね。

僕はほとんど英語をしゃべれないんですが、勝手にお店のスタッフが盛り上げてくれるような場を選びますから、お店の力も借りつつ一晩一緒に遊ぶことで、「最高に楽しかった。君はベストフレンドだ!」などと喜んでいただけることが多いです。通訳も一応は同行させますが、カタコトの英語でも十分に仲良くなれます。

――会食中の会話の内容には気を使いますか?

中村 ご機嫌取りをするような形での気を使い方はしませんね。というのも、「僕のセンス」を好きになってくれる人としか、結局仕事にならないので。僕がセレクトしたコースに引いちゃうような人とは、そもそも一緒に仕事をしたいとは思わないんですよ。

恋愛に例えるなら、僕のことを好きになってくれそうな人を口説きにいく感じ。第一印象でなんとなく気が合いそうな人と、ご飯に行ったり仕事したりするので。

自分が誰に好かれるかってことは、だいたいわかっているつもりなので、そういう人が喜びそうなお店を選びます。ですから、ビジネスに発展するかどうかは、会食の前に大方決まっていると言えますね。

 

落ち着いて商談できるフレンチのお店

――では、そんな中村さんが太鼓判を押す会食スポットを、目的別にいくつか挙げていただきましょう。まずは、商談をまとめたい場合にオススメのお店は?

中村 西麻布の「グルマンディーズ」がオススメです。フランス料理とお肉とワインを楽しめるお店ですが、6席程度しかなく、入れるのは1日数組まで、という感じの営業スタイル。商談であることをあらかじめ告げておけばシェフは出てきませんし、顔を見られたくなければカーテンも閉めてくれるので、落ち着いて商談をできるはず。個と個の繋がりをとても大切にしてくれるお店です。

オーナーシェフは、パリの星付きレストランで経験を積んだ長谷川北斗さん。ホスピタリティーは申し分なしだし、食事も非常に美味しくて、しかもコスパもいい。ハイクラスだけどカジュアルで、肩肘張らずにフレンチを楽しめる空間。「いい店知っているね」みたいな感じで喜ばれること請け合いです。

プライベートを大切にしてくれる空間。シェフ1人で切り盛りしているので、1日多くても3組までしか予約を受け付けないそうだ。予約は3ヵ月先ぐらいまで埋まっていることが多い。

オーナーシェフの地元である神戸の中でも最上級の三田牛を、熟成ではなく、フレッシュな状態で提供。味付けは塩とこしょうのみ。表面はカリッと、中はジューシーに焼き上げ、和牛の旨味を最大限に引き出してくれる。

 

初対面どうしでも盛り上がれるパエリア屋

――続いては、人と人を繋げたい場合に最適なお店を教えてください。

中村 自分が経営する店で恐縮ですが、渋谷にある「チリンギート エスクリバ」がいいと思います。スペインのバルセロナで人気のパエリア屋さんを、日本に初上陸させました。ここ、入ったらすぐに“パエリアDJブース”があるんですよ。パエリアパンがオープンキッチンにたくさん並んでいて、圧倒的なパフォーマンス性のあるオペレーションになっている。そこでまず、ワッと盛り上がれます。

店名は「海の家」という意味ですが、それぐらい開放感があり、ざっくばらんとした雰囲気。そんな中、もんじゃ焼きみたいにみんなでヘラを使ってワイワイガヤガヤ食べるスタイルなので、初対面どうしでもすぐに仲良くなれるはず。誰かを誰かに繋げたいときなどに最適な場所です。パエリアとの相性が良く、口当たりも優しい自家製サングリアを豊富に用意しているので、お酒もどんどん進むことでしょう。

――では、そんな中村さんが太鼓判を押す会食スポットを、目的別にいちなみに中村さんは、人と人を繋げる会食を催す機会も多いですか?

中村 全然知らない人どうしをセッティングする会みたいなのを、僕が幹事となってよく催します。「この人があの人と会ったら面白いんじゃないか?」みたいに異業種の人を呼んだりして、チーム作りをするのが面白い。仕事に結びつかなくても、そこでみんなの輪が広がればいいかな、と。そういう場を作ることも、僕の人生の楽しみの一つなんですよ。

本国のお店は、ハリウッドスターやサッカー選手からも支持されるほどの人気店だという。その空気感を日本にそのまま持ち込んだ。コース料理は、ランチ2,800円、ディナー4,800円(いずれも税別)。

パエリアは本国の味を再現するため、水分量が少なくて堅さが特長のバレンシア米を使用している

 

変化球が面白い隠れ家的な和食店

――では最後に、2軒目としても使える穴場的なお店を教えてください。

中村 恵比寿にある「深夜食堂はなれ」がオススメです。予約の取れないビストロとして有名な「オー・ギャマン・ド・トキオ」が、同じビルの地下にひっそりと開いた隠れ家的なお店。ギャマングループが手掛けるお店なので洋食かと思いきや、こちらは和食。その変化球が面白い。味は当然、一級品です。

カウンター席に座れば、目の前の炭火で調理されるライブ感を楽しめますし、掘りごたつの座敷席で仲間内だけで語り合うことも可能。27時までやっているので2軒目としても使えます。「オー・ギャマン・ド・トキオ」へ行った後に、こちらへハシゴするのも面白いのではないでしょうか。

かつてはフレンチ会席であったお店だが、昨年8月に恵比寿に移転し、和食店としてリニューアルオープン。まだまだ知られていない穴場的スポットだ。

出汁と素材を重視した本格和食。しっかりした食事から、気の利いたおつまみ、そして〆の料理まで楽しめる。平均予算は5,000円〜10,000円。

 

会食は、ライフスタイルそのもの

――本日は素敵なお店の数々を紹介していただき、ありがとうございました。総括としてお尋ねしますが、中村さんにとって会食とは何でしょう?

中村 ライフスタイルそのものかもしれませんね。僕に求められていて、なおかつ僕が得意としているのが、会食の店選び。普段から頭の中の半分以上が「今日の晩メシは誰とどこで食べよう?」みたいなことで占められているんですよ。だからこの世から会食がなくなったら、仕事においてもプライベートにおいても、僕はやることがなくなっちゃうかもしれませんね(笑)。

<店舗情報>
店舗名   :グルマンディーズ
店舗住所  :東京都港区西麻布3-17-23 プティコワン西麻布2F
電話番号  :03-6455-5338
営業時間  :18:00~27:00(L.O.26:00)
定休日   :火曜

<店舗情報>
店舗名   :チリンギート エスクリバ
店舗住所  :東京都渋谷区渋谷3-21-3 渋谷ストリーム3F
電話番号  :03-5468-6300
営業時間  :11:00~23:00(フードL.O.22:00/ドリンクL.O.22:30)
定休日   :施設規定に順ずる

<店舗情報>
店舗名   :深夜食堂はなれ
店舗住所  :東京都渋谷区恵比寿3-28-3 CASA PIATTO B1F
電話番号  :03-5420-3501
営業時間  :19:00~27:00(L.O.26:00)
定休日   :水曜

▼東京会食日記#1

▼東京会食日記#2

このコンテンツは株式会社ロースターが制作し、ビズテラスマガジンに掲載していたものです。

 

企画:大崎安芸路(ロースター)文・取材:岡林敬太/写真:栗原大輔(ロースター)

 

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