備前焼だからこそ作れるものを。木村肇さんの器に込める想い。

「EDiT.」が贈る民藝シリーズ「ミライノミンゲイ」。シリーズ4回目となる今回は、多くの窯元や作家が活動している岡山県備前市に舞台を移し、備前焼の窯元「一陽窯(いちようがま)」の木村肇(きむらはじめ)さんにお話を伺いました。

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木村肇プロフィール

1976年岡山県備前市伊部生まれ。木村家は室町時代から続く備前焼窯元六性の一つ。13代目木村長十郎友敬の次男、木村一陽が独立して始まったのが一陽窯で、その3代目にあたる。幼少期より作陶に興味をもち、父・木村宏造のもと陶芸を始める。

窯に併設されたショップに並ぶ、一陽窯の作品たち。

目次

年に2回の窯焚き。備前焼の決め手は炎

一陽窯に私たちが訪れた2022年12月20日は、ちょうど年に2回の窯炊きの真っ最中。

窯の温度を確かめるため、「今、何度?」と職人どうしで掛け合う声が絶えず聞こえてきます。

昼夜問わず火を絶やさないために、1回の窯炊きで1000束ちかくの薪を使うそうです。

備前焼は釉薬とよばれる器に色をつける薬を使わず、絵付けも施しません。炎の当たり具合や灰の被り方によって模様が出来上がります。窯の中のどこに置くかによって模様が変わるため、炎の流れを考えながら窯に詰めていきます。そのため、窯にすべての器を詰めるだけでなんと2週間かかるそう。

窯に詰める前の器たち。一番手前にある三角の器は、一陽窯で人気のあるコーヒードリッパーで、その名も「コーヒーコーン」。

その後は8日間かけて窯の温度を最高温度の1200度まで上げていきます。温度計とにらめっこしながら、薪を2、3本ずつ窯にくべていく作業は繊細そのもの。

窯の左右にある入り口から、職人同士で声を掛け合いながら慎重に薪をくべていきます。

取材に訪れたこの日の窯の温度は、すでに1100度超え。ここまできたら10度や20度くらいの温度変化は微々たるものでは…?と思ってしまいますが、木村さん曰く、

「1100度までいってるとね、あんまり10度や20度って変わんないような感じがするんですけど、1150度と60度と70度とか、最後のあたりの10度20度って結構違うんですよ」

とのこと。焼いている時に模様が出来上がる備前焼だからこそ、この温度管理が肝なんですね。

見学に来たお客さんが、安全に窯の中を見られるようにと木村さんが用意した強化ガラス(通称:優しさガラス)越しに撮影した窯の中の様子。右側に見えているのが器たちです。なかなか見られない貴重な映像…!

そもそも焼く前は黒っぽい土なのに、どうして焼くだけで鮮やかな朱色や模様が浮かび上がるのでしょうか。秘密は土の成分にあるようです。

「備前の粘土っていうのは、昔にもう堆積して泥になってるんで、そこでもう熟成されてるんですよ。元々有機物と一緒に鉄分が数パーセントあるので、釉薬をかけなくても、色が発色するという」

こちらが備前の粘土。触らせていただくと、かなりねっとりとしていて、コシがあります。
「多分匂ったらちょっと鉄棒みたいな匂いが。」と木村さんに教わり、自分の手を嗅いでみるとたしかに鉄棒のような匂いが…!

「自分が使いやすいもの」から始まるものづくり

窯に併設されたショップには、湯呑みやマグカップ、花瓶などといったオーソドックスな器だけでなく、フードコンテナやスパイスミル、コーヒードリッパーなどのキッチン用品のラインナップも充実しているのが一陽窯ならではの魅力。

スパイスミルのコーナーには、どれも思わず試してみたくなる素敵なレシピが添えられていました。買ったらどう使おうかと想像が膨らみます…!

備前焼の丈夫さを活かした低くて平べったいすり鉢。素材が飛び散らないような縁になっています

お料理するのがお好きだと語る木村さん。スパイスカレーも作るとのことでしたが、はじめはスパイスミルを作るつもりではなかったそう。

「もともとは離乳食作るのに、すり鉢を探していて。別に自分で作るつもりはなかったですけど、使いやすいのが無くって。かみさんが「それなら自分で作ったら?」って言って。それで自分が使うのを作った。基本的には全部そうなんです」

まずは自分が使いやすいものを作る。用途をしっかり考えられて作られているからこそ、実際に使う時の想像もしやすく、「すぐに使いたい!」と思う魅力があるのかもしれません。

人の役に立つものを作りたい

古墳時代から平安時代に作られた「須恵器(すえき)」をルーツに持つと言われる、備前焼。

備前焼の店が軒を連ねる備前市伊部では、長い歴史を経た今でも多くの作家や職人が活動しています。たくさんの同業者がいる中、一陽窯ならではのスタイルを木村さんに尋ねると、「あんまり飾るようなものを作らなかったり、単色が多かったりとか。基本的に使うものばっかり作る」とのこと。


「僕もかっこいいなっていうものが好きだけど、それは作らなくてもいいかなと思ってるというか。焼けがすごいとか、面白い色や形が表現になる場合が多いけど、そういうものは3つ4つ作ればそれで。やったこともあるんですけど、もうそれはいいかなみたいな。みんなやってるし」

一陽窯にある古備前の三石甕。なんと桃山時代あたりに作られたものだそう!約400年経った今でも残るほど、良質な焼き物であることがわかります。

「備前はもともと生活雑器で、三石甕(さんごくがめ)の中にすり鉢入れて、とっくり入れて、壺入れて。道具としての用途があって作られていたのがほとんどなんですよ。だからそこらへんの文脈で言うと、作ってる人に「どうだ!」みたいな、「めちゃめちゃこの形かっこいいだろう」みたいな意識って、多分そこにはないんですよ。それは見立てた人がかっこいいと思ってる話なんで」

「自分が作りたいものは、用を足しているものというか。ちょっとは人の役に立つものを、という感じですね」

お客さんが器を落としてしまうのは「僕のせい」

一陽窯の人気アイテムのひとつ、コーヒードリッパーの「コーヒーコーン」。現在の形にたどり着くまでには紆余曲折がありました。

「お世話になった大学の先生がいて、僕がなんかお礼にって言ったら「ドリッパー作れ」って言われて。それがきっかけで作りました。最初はカリタみたいな形で、皿が付いてるやつを一生懸命ろくろで作ってみたんですけど、やっぱりこれ全然使いやすくないし、何も良くないなと思って」

最初に作られた形。コーンの下に「ドーナツ」と呼ばれる受け皿が付いていて、カップの上に乗せられるようになっています。
使い終わったあとは、コーンをひっくり返して、ドーナツの上に乗せて収納する仕組み。

「ドーナツつきのコーヒーコーンは、使い終わって片付けてる状態の見た目は良いんです。でも結局買った人で、これをすごい使っている人ってあんまりいないんですよね」

それでコーンの部分だけを作るようになったとのこと。以前は現在販売しているサイズより大きいものを作っていたそうですが、サイズを小さくしたのにはこんな訳が。

「洗う時に落としそうになる大きさだったからなんですよね。買っていったお客さんの中で『あれ、めちゃくちゃよかったのに落としちゃって』っていう人が結構いて。女性のお客さんとか。それってその人は『自分が落とした』って思ってるけど、多分僕のせいなんですよね。持ちづらい大きさだから落としちゃう」


「僕らは器を作ったら出荷する時に洗うし、片付けたり出したりもするし。そういう時に、こう手にった感じに関しては普通の人よりは触ってるんで敏感です。だから自分で作ったものでも、しっくりこないっていうことはあるんですよね。なるべくなんないようにするんですけど。このコーヒーコーンに関しては、お皿とかコップじゃないんで。言い訳じゃないですけど、そこまで読めてなかった。自分で作って置いていって、なんかちょっと危なかしいなっていうのはずっと思ってて。落としそうになるなっていう感覚はずっとあったから。それでサイズを小さくしました」

コーヒーコーンご購入の方は、夏目坂珈琲オンラインショップ

使う人が好きに見立ててくれればいい

「人の役に立つものを作りたい」という想いもある一方、本当に備前焼で作るべきものなのか、常に考えながら作陶にあたるという木村さん。

「役に立つものを作りたいなっていう感じはあるんですけど。それにしても自分が全く使わないようなものはあんまり作んないかな。『そんなもの使って何すんの』みたいな感じが僕にあると、作らない。お客さんからよく『(コーヒーの)サーバーも作ってください。作ったら欲しいです』って言われるんですけど、作んないですよ。僕はいいと思ってないんで。それは備前焼である必要はないと思ってるから。BOROSIL(ボロシル)のガラスの広口のビーカーが、一番僕は使いやすいと思ってるんで」

木村さんが愛用しているインドの理化学製品メーカー、BOROSILのビーカー。
この上にコーヒーコーンを乗せて、休憩中にハンドドリップのコーヒーを飲んでいらっしゃるそう。

「やっぱコーヒーとかの液体としては、落ちてるのが見えるっていうのがいいなと思うので。まあ何でもいいんですけど、サーバーは自分で見立てて使ってくれればいいかなと」

最後に今後の一陽窯についてお聞きすると、

「今の状態を保てればなと。まあ現状も全然良くはないんですけど、それでもまあ、何かやることはあるというかね。なのでどうにかこう、キープできればかな?と思ってます。」

まずは自分が使いたいなと思ったものを作る。完成したら実際に使ってみて、改良していく。そしてお客さんの手に渡ったあとは、その人の見立てに委ねる。何よりも器が使われる時のことを考えているからこその木村さんのお話に、作り手としての誇りを感じました。

写真/大崎安芸路(Roaster) 取材/大崎安芸路・小野光梨(Roaster) 文/小野光梨

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